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【サメ映画和風アレンジ】デス畳 - DEATH TATAMI -  作者: 七谷ぐちた
第三章 兵器の起動・最終決戦
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第34話 “お嬢さま”の慟哭


 荒い、息がうす暗い館内にこだまする。


 押し出すように床を蹴り、片手で長いスカートをつまんで少しもちあげ、“お嬢さま”は飛ぶように走った。

 足の骨が、きしむ。

 ここに来てからの酷使(こくし)で、筋肉の疲労がずしりとからだを重くする。


 それでもこの速度をゆるめることはできなかった。


「どうか、ご無事で……」


 祈るように、言葉をつむぐ。


 ドアを開閉するスイッチを押し、メカ畳のいる部屋から出ると、そこはキッチンから地下へとおりてきた階段の近くであった。

 廊下のつきあたりの、壁としか見えぬドアの向こうで“可憐”が見送る。

 いぐさの収集後にもどってきて、“可憐”にあけてもらう際は「ノックを2回、4回する」ことを合図と決め、(さん)じた。


 自分を気づかってくれた“わけ知り顔”たちが分かれて進むのを、見やる余裕さえなかった。

 地下は迷路のように広大で、はじめのほうからやり直しとなったいま、進んだ道を思うようにたどることができず、ドアをあけては閉めていく。

 頭が、にごる。

 あせって、あせって、早く行きたいと、あせるほどに頭がにごって、正しい道すじが思い出せなくなっていく。


 音がしないことが、こわかった。

 すぐ近くにいたからか、先ほどはバイクの音や衝突の音がうるさいほどだったのに、いまはどんなに耳をすましても、自分の駆ける音や、荒い呼吸しか、廊下にはひびいていない。


 デス畳との戦いが、終わったと、いうことなのだろうか。

 終わったとすれば、どちらに軍配が、あがったのか。


 想像がわるいほうへ、わるいほうへとふくらんでゆく。

 凄惨(せいさん)血肉(けつにく)がとびちる光景が脳裏(のうり)に浮かび、あわてて首をふる。


(どうして、「自分たちで時間をかせぐ」なんて言ったのですか――)

(どうして、せめてわたくしだけでも、まきこんでくれなかったのですか――)


 “カタブツ”を責めることばがふつふつと沸き出すが、とめられなかった。

 社会勉強のためと、父がすすめてくれた出身校ではなく、みずから決めた大学に入って出会った、はじめて恋をしたひと。

 1年近くもの片想いのすえに、やっと、やっと心が通じたのに、どうしてこのタイミングで……


 まわりにはだれもいないから、気づけば涙がにじんでいた。

 それをちからまかせにぬぐって、ひとつの扉をひらく。


 ようやく、デス畳と“カタブツ”たちが戦っていた物置き部屋にまで、たどりつく――


 だれも、いなかった。

 “カタブツ”や“中型免許”はもちろん、デス畳でさえも。

 そのかわり、かわりといってもいいものか、目をおおうほどの量の血や、肉、骨、内蔵、人の皮らしきものまでもが部屋中に飛散(ひさん)していた……


「イヤァァァ!!」


 “お嬢さま”は頭をかかえて、泣きさけんだ。

 最初の戦いのときから、何度も目にしていたはずなのに、こんどのソレ(ヽヽ)は吐き気をもよおすほど、尋常(じんじょう)ではない量になっていた。 


「ふたり、ぶん……?」


 涙とともに、ことばがこぼれ落ちた。

 本来、人間ひとりの血肉が、あれほど少ないはずはなかったのだ。

 おそらく、ミニ畳が吸収していたように、デス畳にはさまれた際にその大部分が吸収されていたのだろう。


 獣に()い散らかされたような、大量の人間だった(ヽヽヽヽヽ)なれのはてを目にすることで、はじめて、胸の底にまで「ひとが死んだ」という事実がしみこんでいった。

 自分の知っているひとの、永遠の喪失……

 自分のいとしいひとの……


「……ウソ。ウソ、です、わ……」


 うつろにつぶやき、部屋のなかへと踏み入った。

 “中型免許”が削りとったのであろう、デス畳のいぐさが部屋に散乱している。


 拾わなければ、と思った。

 それがいま、自分のなすべきことだと。


 だが、血だまりに浮く赤くそまったいぐさを見ると、おぼえずドロドロとした不快ななにか(ヽヽヽ)が胃からせりあがってきた。


 部屋のすみへとよろめき、吐いてしまう。

 いっそ、すべてを吐いて、胃が裏返るほどに吐いて、自分の内臓を、肉を、すべてを出しつくすことで、ここから消えてしまいたかった。

 この世界から消えてしまいたかった。

 だが自分の口からこぼれるのはきたならしい嘔吐物(おうとぶつ)にすぎず、地獄へおりた一条(いちじょう)のクモの糸のように、自分の口からよだれがひとすじきらめくのを、呆然とながめることしかできない。


 視界が定まらぬなか、かたわらに、腸の残骸(ざんがい)とおぼしき部位がころがっているのが、目に入った。


 食べてしまいたいと――思った。

 口に入れて、舌にのせ、歯ですりつぶし、ゴクリとのんで胃へとしまいこむ。

 水たまりのように広がる血を、ゴクゴクとすすってしまおう。

 そうすれば、せめてずっといっしょにいられる――


 そうして内臓をつかもうとした手をとめたのは、正気をとりもどせと叱咤(しった)する自分の意識ではなく、

「これが“中型免許”さまの血肉だったとしたら、“カタブツ”さまへの背信(はいしん)になるのではないか?」

 という疑念が胸中(きょうちゅう)にきざしたためだった。


 どちらの内臓であるか、たしかめようと手にとってみた。

 すみずみまで観察しても、においを嗅いでも、つぶして頬になすりつけてみても、わからない。

 どちらの血液であるかを、たしかめようとすくってみた。

 どんなに目をこらしても、落としたしずくに耳をすましてみても、チロリとなめてみても、わからない。


 自分の愛はその程度なのかと、おのれにいきどおった。

 知りたい、知りたい。せめていっしょにいたい――


 先ほどまではしずかだったのに、ふと、部屋がうるさくなっていることに気がついた。

 いまはしずかに(いた)みたいのに、だれだと呪わしくあたりをうかがおうとすると、頭が動かない。

 床がぼやけ、ながめていた血だまりに透明なしずくが落ちていくことで、ふと、自分が泣いているんだと気がついた。

 けもののようなおたけびをあげ、淑女(しゅくじょ)としてたたきこまれてきたふるまいをかなぐり捨て、ただ、自分のうちにあったけものがそとに出てきて、泣きさけぶのを頭のうえからながめているような気分だった。


「“カタブツ”さま、“カタブツ”さま、“カタブツ”さま……」


 だれかがくりかえしうめいている。

 部屋に反響(はんきょう)したその声は、腕を伝ってこぼれてゆく血とともに、床の血だまりに吸いこまれて消えていく。


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