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【サメ映画和風アレンジ】デス畳 - DEATH TATAMI -  作者: 七谷こへ
第二章 神出鬼没のデス畳・兵器の探索
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第26話 ミニ畳とダミ畳の邂逅


「……ダミィィ」


 その声がきこえたとき、しばしのあいだ脳が()てついてしまった“カタブツ”であったが、少ししてわれにかえるとうしろの面々へ叫んだ。


「逃げろ、デス畳だ!」


 言いながら、自分は時間をかせぐため、声のした畳のまえで立ちはだかる。

 また、腰を落とし、両腕を中空にゆらしてかまえる“お嬢さま”がその横にならんだ。


「“お嬢さま”……」


「先ほどとは、状況がちがいましてよ。きゃつがどう出るかはわかりませんが、ひとりよりはふたりのほうが、対応しやすいはず。もはや、わたくしたちの力で打倒(だとう)がかなうものとは思いませんが……」


「ああ……頼む」


 ことばをかわし、前をにらむが、しかし「ダミ」と声をあげた畳は、動くけはいを見せなかった。

 変わらず、


「ダァミイィ」


 と、いかにもくるしげな声を発するのみだ。

 うす暗いなかに目を凝らせば、デス畳とは少し違い、一畳のうちに小さく両のまなこ(ヽヽヽ)が浮かんでおり、その目は焦点があっていないどころか、左右バラバラに動いており、どこを見ているものかわからない。


 一同が怪訝(けげん)に思っているところ、ミニ畳がてくてくとそちらのほうへ歩いていく。


「ミニさま、いけません!」


 “お嬢さま”が思わず制止するが、かまわずに進んだミニ畳はその目のあたりに「たみ~」とダイブした。

 そのまますりすりと顔をこすりつけると、畳のほうも


「ダ、ダミィィ」


 と応じて、わずかに目をほそめる。

 さらに、なでようとしたのだろうか。かすかに畳の端が浮いたものの、思うようにならぬのかまたパタンとたおれてしまった。


「ふむ……」


 様子を観察していた“カタブツ”であったが、なにを思ったか卒然(そつぜん)ふみりとその畳に足をのせる。


「“カタブツ”さま、なにを……っ!」


 “お嬢さま”があわててその腰に組みつき、引きはがそうとする。

 が、畳はニッコリと目もとをゆるませるのみで、デス畳のように攻撃してはこなかった。


「い、いや、すまない。踏んでみるのがてっとり早いし、先ほどの動きだったら即座に足を引けば逃げられるかと思って……。それより“お嬢さま”、その、からだが……」


 自分のおこないを弁明する“カタブツ”であったが、うしろから腰に抱きつかれたかたちになり、ほおを紅潮(こうちょう)させて“お嬢さま”に状況を指摘する。


 “お嬢さま”は「あわわわ失礼いたしましてンフ、ンフン」と咳ばらいをしてごまかそうとしたが、その一方で、奥へと避難していた“わけ知り顔”が「やや?」と声とメガネをクイッとあげた。


「これは……どうも、畳としては、かなりうすいですね。タイルカーペットといいますか、少し厚みのあるシートぐらいしかなさそうです。ダミーの畳……いえ、さしずめ『ダミ畳』と呼ぶのが適切でしょうか」


 すすすと出てきて、メガネをきらめかせながら言う。

 会心の思いつきであったのか「ダミ畳」と口にしたときははたきたくなるほどの得意満面であった。


 呼ばれたダミ畳は、ニッコリしながら「ダミィィ」とうめき、ピクピクと端をもちあげるも、すぐにまた力つきてしまう。


「なんだか、うちの寝たきりのおじいちゃんみたい。うまく、からだを動かせないのかな……」


 こちらも奥からおずおずと歩いてきた“可憐”であるが、彼女の母方の祖父は介護施設に入っており、ダミ畳の動きから連想したのであろう。

 実際、ダミ畳はそう形容されてもやむをえないほど、生命の力を欠いているように見受けられた。


「ダミ、ダミィィ」


 うめきながら、またも起きあがろうとするダミ畳。

 端をもちあげては、すぐにおろしてしまうのを二度ほどくりかえしたが、“カタブツ”は近寄って


「起きあがりたいのか?」


 と声をかけ、その裏面に手をそえてそっともちあげてみた。

 すると、ひとつの影がバッとその空間を駆け抜けていく――


「キャッ」


 ちいさな悲鳴をあげ、“可憐”が“カタブツ”の背にくっついた。


「ネズミ、ネズミが……!」


 見ると、大きなネズミが隠し部屋の入口で立ちどまる一同の足をすりぬけつつ、先ほどの置き時計のそばへと走っていったところであった。

 なかなかふてぶてしい性格のようで、ふんふんと付近の床をかぎまわったあと、特段人間をおそれず、けれど距離はとりつつこちらを睥睨(へいげい)している。


「ネズミか。まあ、こちらから接触しなければなにかしてくるわけでもないだろう。“わけ知り顔”、“可憐”さんを見てやってくれ」


 ちらりとネズミを、それからダミ畳を交互に見やりながら、“カタブツ”が言う。

 いきなり影が走り出てきたので、人知れず尿道(正確には骨盤底筋)をきゅっとしめてお小水(しょうすい)の放出をこらえていた“わけ知り顔”は、「あ、は、はい」と言いつつ“可憐”とネズミのあいだへスッとからだを入れた。


 ネズミは前室の時計のところにいるためもどるわけにもいかず、さりとて安全が確認できていない隠し部屋の奥へと進ませるわけにもいかず、ひとまず彼女の視界に入らぬよう自身が遮蔽物(しゃへいぶつ)になったものと思われる。

 “可憐”は「ふーん」と、だれにもきこえない音量で鼻腔(びくう)を鳴らしたあと、髪をかきあげて「ありがと」と“わけ知り顔”の耳もとでささやく。

 “わけ知り顔”の満面(まんめん)(しゅ)にそまり、「これしきのこと!」と絶叫する。


 一方、ダミ畳をささえていた“カタブツ”であったが、なにかを訴えるようなダミ畳の動きに応じて裏側をまさぐったところ、ミニ畳のようにとある紙片(しへん)が挟まっていることに気がついた。

 その紙をずるりととり出すと、こう書いてある――



〈カギとなる「書物」を手にせよ。さすれば兵器は姿を現す〉



「これは……」


「いよいよ、兵器に近づいてきたということでしょうか。書物というと、きっとこの本棚のなかに――」


 言いながら、“わけ知り顔”が室内を見渡す。

 小さな部屋だが、入口以外の壁すべてに、天井までギッシリと本がつまった本棚がならんでいる。


 顔を見あわせたあと、“カタブツ”がうなずき、慎重に隠し部屋のなかを歩きまわる。

 四畳半であり、万一のためダミ畳以外の畳にも踏み入って、あえてダンダンと踏みつけるなどして様子をうかがう。

 が、ダミ畳以外には反応を示すものもなく、またやはり大した厚みもないため、デス畳ほどの危険はないように思われた。


 さらに、対策としてすべての畳を部屋のすみへと重ねておくことにする。

 畳の下にあった床板がさらされ、少々さみしげな様子となった。


「すまない。キミも重ねさせてもらいたいが、かまわないか」


 と“カタブツ”が片膝をついて問うと、ダミ畳は「ダミ」と目もとをゆるませて首肯(しゅこう)するように身じろいだ。

 ミニ畳は、一番上に置かれたダミ畳のうえで寝そべり、またコスコスとからだをこすりつけてじゃれ合っている。仲間、あるいは同族に会えてうれしいのかもしれない。


 部屋の安全を確保してから、ひとまず本棚にならべられている一冊を手にとろうとした“カタブツ”は、おどろいた顔で停止した。

 そのまま、指をずらしてとなりの本にもふれ、さらに横へと移動させていく。


「どうしました、“カタブツ”さん」


「“わけ知り顔”、キミもさわってみてくれ……。これはどうも、書物というより、置きもののようだ」


 言われて“わけ知り顔”も、近くの棚に手をのばし、本のうえへ指を置いて軽く引いてみる。

 が、本は(ろう)でかためられたように、動かない。

 一段ずつ、ランダムに抽出した本でたしかめてみるが、どれも固定されていてゆるぎもしなかった。


「よくよく見ますと、何枚もの紙を重ねたいわゆる書籍ではなく、そういう模様がえがかれているだけのようですわね……あっ、みなさま。あれを」


 “お嬢さま”が言いながら指をさした先には――ポッカリと一冊分のスペースだけあいた空間があった。


「なんか、ちょうど一冊入れられそうなぐらいのスペースだね……」


「あっ、そういえば!」


 “わけ知り顔”が人さし指を立て、記憶を探るようにピコピコと動かしながらさけんだ。

 そうしながら、スペースの横にならんだ本へ手をのばし、それも同様に固定されているのをたしかめる。


「この横の本……これに似たものが、ほかの部屋であったような気がします……ええと、どこだったかが、思い出せないのですが……」


 横にあるのは、百科事典のような荘厳(そうごん)装丁(そうてい)のものである。

 本の種類に注目してみると、ほかの本棚は高さ、厚さ、色も含めて不揃いであるのに対し、そこの列だけはその百科事典(よう)のもので統一されている。


「百科事典が家にあると、『わけ知り』っぽいじゃないですか。ちょうど自分のイメージに近いものがあったので、『いいなぁ』と漠然と感じたのですが……」


「地下の、これまで通ってきた部屋のどこかということか?」


「……はい、そのはずです。一冊だけ浮いていたはずで、これは推測ですが、このスペースにはめこむことでもしかしたら……」


「たしかに、本棚のすべての本が固定されているのかも検証しておきたいところだが、この不自然なスペースを見るかぎり、そちらの可能性のほうが高そうだな。『カギとなる書物を手にしろ』というのは、書物になにか書いてあるのかと思ったが、もしかしたら書物をカギのようにはめこんでみせろ、という意味なのかもしれない。地下は部屋数も多いし、手分けして探そうか」


「いえ! 行って、部屋を見れば思い出せるはずです。ワナのあった部屋はどこも避けて通れるところでしたし、みなさんはここで待っていていただければ」


「あっ、そうしたら私も行く! ふたりはここで待ってて」


 単独行(たんどくこう)を提案した“わけ知り顔”に、“可憐”が同行を申し出る。

 そのまま、“わけ知り顔”の両肩に手をおいてスススと押しつつすみやかに部屋を去っていった。


 気づけば、先ほどのネズミは隠し部屋のすみへと移動していて、でっぷりとしたおじさんが自室でくつろぐがごとく床にすわり、木片らしきものをかじっていた。

 よほどネズミがイヤだったと思われる“可憐”であるが、といって残された“お嬢さま”もとても歓待(かんたい)はできぬようで、チラチラとネズミの動向をうかがっている。


「ちょうどよかった。……“お嬢さま”。すこし、話があるんだ」


 ひきつづき、本棚の本をひとつずつたしかめながら、ぽつりと“カタブツ”が語りかけた。


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