第25話 隠し部屋にひそむ新たな怪物の影
階段をおりると、倉庫のような小さな一室があるのではないか――
地下の間取り図はなかったため、そんな予想を話していた一同だったが、階段をおりてすぐ、思わぬ光景に息をのむことになる。
「これは……」
眼下に広がるのは、右、左、まっすぐと何方向にものびる廊下と、いくつものドアだった。
「へたをしたら、一階や二階より地下のほうが広いんじゃないか……?」
「上はほとんど大部屋でしたけれど、こちらは小部屋がこまかく配置されているように見受けられますわね……」
試しに手近のドアをひとつあけてみたところ、六畳ほどの、タンスや机が置かれた洋室があっただけだった。
入口から見えるだけでも、5つのドアがある。もし廊下の奥にも広がっているとすれば……
「“お嬢さま”からこの館の話を聞いたとき、少し……疑問に思っていたことがあります」
おのおの考えをめぐらせている中、ぼそりと“わけ知り顔”がつぶやいた。
「“わけ知り顔”、聞かせてくれ」
「ここのお屋敷ですが、たしか別荘としての利用ではなく、『ある男性とその娘さんが住んでいた』というお話でしたよね? 手紙で『館の主』を名のっていた男性……彼らが住んでいた、生活の本拠としていたはずなのに、なぜ寝室や書斎が一階にも二階にも見あたらないのだろうと……。それも、たんに見あたらないというだけではなく、人間が住んでいた痕跡が、あえていえば『消されている』と感じるほど不自然に存在しないような気がしたのです。とはいえ30年も前とのことでしたし、清掃も入っているでしょうから、それ以上疑問をふくらませることもなかったのですが、あの手紙とこの地下のようすを見るかぎり……」
「屋敷の主人たる男性は、この地下で生活していた可能性もある、ということですわね」
改めてうす暗い廊下をながめていると、ことばにできない妙な不穏さが一同をとりまいて息さえ吹きかけてくるようで、だれが鳴らしたか、つばをのむ音がひびく――
それから館の主が書きのこした「兵器」とやらをさがし、しらみつぶしに廊下のドアをあけていったのだが、簡素な部屋ばかりでそれらしきものはまったく見あたらなかった。
そればかりかカギのかかった部屋も多く、ある部屋で見つけたカギで別の部屋のドアをあけると、また奥にカギのかかったドアが見つかり、とさながら迷路のように“カタブツ”たちを翻弄する。
「これが手紙でいう『試練』ということなのだろうか……。うーむ、しかけを解いていくのが趣旨であるなら、ここは一旦上にもどって、みんなで手分けしたほうが早いかもしれないな。上のようすも気になるし……」
「そ、そうだね。ちょっと寒気もしてきたような……」
と、一時撤退について議論すると、ミニ畳がなぜかあわてるように「たみぃ」とさけんで“カタブツ”の足をバシバシたたく。
くい、くい、と部屋の本棚を指し、自分で本棚の裏へともぐりこむと、中から時計の長針らしきものを拾いあげてきた。
「たみ!」
そのあとも、とてもその場にいられぬ悪臭が放出されたり、催涙ガスが突如として浴びせられたり(“わけ知り顔”がもろに浴びてしまったものの、途中に設けられていたトイレで洗い流しことなきを得た)、フローリングの床が流砂に変貌し侵入者をのみこもうとしたりと、いくつかのワナが出現したのであったが、一同は力を合わせて回避しつつ進んでいく。
そうして――ひとつの部屋へとたどりついた。
その部屋には、物置きのような広い空間に、大人の身長ほどもある立派な置き時計、サメの抱きまくら、トーテムポール、大型のバイク、魔法陣らしき紋様の壁飾り、ペルシャ絨毯……と統一感も世界観もなく、ずいぶんと雑多なものが並べられていた。
そしてその置き時計には、長針が欠けていたのだ。
「どうも……ぶきみな部屋ですね」
“わけ知り顔”が、入口で落ちつかなげに目をきょろつかせながらぼそりとつぶやく。
彼が危惧するのも無理はない。
これまでどうにかワナをくぐり抜けてきたものの、どうも、奥へ進むにつれだんだんと危険度が増していくようにも思われるのだ。
“カタブツ”もまた、この部屋の見なれない物品の数々に、ここに来て“AVソムリエ”にみずから話した懸念が頭をもたげる。
デス時計、デス抱きまくら、デストーテムポール、あるいはデスペルシャ絨毯――
デス畳という人智を超えたモンスターが出現した以上、そのような新たなるモンスターの可能性を笑い飛ばすこともできず、そっと室内を注視する。
しかし探索をはじめてからすでにかなりの時間が経過しており、あまりのんびりしているわけにもいかない。
「ええい、見張りは頼んだ。異変が生じたら、すぐに教えてくれ」
と“わけ知り顔”たちに告げ、少しまえにミニ畳が拾い出してくれた時計の長針を、部屋の置き時計にはめこみ――そっとまわした。
ゴゴゴゴと地響きのような音を立て、置き時計が横へと移動していく――
その奥に顔を出したのは、ひとつの小さな隠し部屋であった。
慎重にそこへ進んだとき、あらわれいでた光景に、
「うわぁぁぁ!!」
と“わけ知り顔”が悲鳴をあげ、尻もちをついた。
なぜか。
それは――その隠し部屋が四畳半の和室となっていたためである。
これまで通ってきた地下の部屋は、すべてフローリングの洋室であった。
内装はだいぶ異なるものの、偶然で片づけていいとは思われぬ一階の和室――デス畳のすみかを連想させるそのいぐさの群れに、先頭を歩く“カタブツ”の足もまた硬直してとまった。
足の指を、動かすことさえできぬ。
「まさか、ここにも……」
立ちあがることもできぬまま、“わけ知り顔”がおののく。
しかし、彼らの恐怖はこのときまだ大したものではなかったのである。
真なる恐怖は――
「……ダミィィ」
というにごったうめき声がその畳からもれ聞こえてきたときに、彼らの体内で爆発的に肥大化し、それぞれの心臓をにぎりつぶさんばかりの握力でしめあげた。
だれかが、あえぎながら絞り出すように息を吐き、こうもらした。
「デス、畳……」




