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伊勢 巫琴 聖都カルマキア観光 03

四季崎是空が風運商会の若者たちに絡まれた騒動の中で、正義感あふれる少女・伊勢巫琴と出会う。

翌日に朝


 昨夜は思いのほか疲れが溜まっていたようだ。目が覚めた時の爽快感でそれを実感した。


 手早く身支度を済ませると、ちょうど朝食の時間になっていたため、一階の食堂に向う。


 食堂の中に入ると昨日の小暮が数人の友達と一緒に食事を取っていた。小暮はボクに気づくと席を立ちこちらに向かって手を振ってくれた。


 ボクは朝食を受け取ると小走りで駆け寄ると軽く挨拶を交わし、その輪に加わった。


 食事を終えると、間もなく小暮たちはセントナーレに向かうため、東門での集合時間が迫っているらしかった。エントランスまで彼女たちを見送り、お互いに手を振りって別れた。


 ボクは自室に戻ると、再び昨日の続きを読むために本を開いた。昨夜より頭が冴えており、いくらか読み進めることが出来たが、それでもやはり記述は難しかった。


 本の内容は、どうやら前半部はウィスプ様の起源や歴史、成し遂げた偉業などが記されているようだった。しかし、後半は進むにつれて、幾何学的な謎の図形や見たこともまい文字の羅列が増え、解読は困難を極めた。


 気づけばお昼時をとうに回っていたので、ボクは気分転換に聖都カルマキアの散策に出ることにした。


 昨日の夕方に見た風景と大きくは変わらないはずなのに、今日の聖都はどこか静謐(せいひつ)で神秘的な雰囲気を纏っているように感じられた。


(あまり遅くなる前に、やはりもう本を返しちゃおうかな……)


 ボクは宿舎に戻ると、机の上に置いてあった本を手に取り、昨日の老人の家に向かった。


 今度こそ、昨日の反省を活かし、コンコンと控えめに扉をノックする。間もなく、老人が穏やかな顔で開け、黙って中には招き入れてくれた。


 リビングの机には、昨日と同じようにお茶菓子とお茶が準備されており、無言で座るように促された。


 ボクは椅子に座ると手に持っていた古書をそっと老人に差し出した。


「本、ありがとうございます。最初の方をとても面白いかったんですが、後半の方のどうも難しくて……、どうも……読み解けませんでした」


 老人はかすかに残念そうな色を目に浮かべながら、本を受け取ると、それを大切にするように一撫でしてから、書棚の元の位置に戻した。


「……そうか。やはり、難しかったか。君なら……と少し期待したのじゃが」


 老人は独り言のように呟くと、ゆっくりと椅子に腰掛けた。


「そうだ。おじいさん。もしよろしければ、おじいさんが知っているウィスプ様についても、教えていただけませんか?」


 ボクは純粋な好奇心に満ちた眼差しに、老人はふっと悪い気はしないというように微笑み自身が語れる範囲で話して聞かせた。


 穏やかな時間が流れ、窓の外が茜色に染まり夕方が近づくと、老人は名残惜しそうに話を切り上げ、ボクに帰るように促した。


 ボクは心からのお礼を言うと、立ち上がり家を出ようと扉の手をかけた。その瞬間背中の書棚で、先ほどまでボクが読んでいた古書が、淡い金色の光を静かに放ち始めた。


 その柔らかな光は一条の筋となり、ふわりと彼女の背中から身体の中に吸い込まれていった。まるで新たな主人に出会えたような感じだった。


老人はその光景を目の当たりにし、「まさか……」と期待に満ちた声で呟いたが、すぐに何かを振り払うように小さく頭を振った。


 ボクは老人が何か呟いたように聞こえて振り返ったが、老人はただ静かに微笑んでいるだけだった。不思議に思い、小さく首をかしげながら礼をして外に出た。


 ボクの気配が完全に消えるのを待って、リビングの奥の部屋から後もなく数名の白銀の立派な鎧に身を包んだ聖騎士が現れた。彼らは微動だにせず、老人の前に(うやうや)しく膝をつく。


「枢機卿。かの娘はいかがでしたか?」


 筆頭らしき聖騎士が静かに尋ねると、老人は先ほどボクに見せた穏やかさとは番う、厳格な表情で首を振った。


「適応を示さなかった。素質への期待はあったのじゃがな」


「そうでございましたか。……枢機卿、これ以上の個人的なご調査は、公務に支障をきたすかと存じます」


「……そうか……そうじゃな。長居は無用か。ローブを頼む」


「はっ。かしこまりました。西宮寺(さいぐうじ)枢機卿」


 一人の聖騎士がどこからともなく絢爛豪華な純白のローブを取り出すと、立ち上がった西宮寺枢機卿の肩に羽織らせた。途端に、好々爺とした老人の雰囲気は消え、威厳に満ちた聖職者の長としての風格が漂う。


 筆頭の聖騎士は、首にさげた白銀のペンダントを強く握り、低く何か呪文のような言葉を呟いた。すると、彼らの足元に淡い光の魔法陣が浮かびあがり、部屋にいた全員の姿が一瞬の閃光と共に虚空へと消え失せた。


 後には、静寂と微かなお茶の香りだけが残されてた。


 宿舎に戻ると、既にセントナーレ行っていたらしい人たちが何人か戻っていた。ボクは賑わいの中から小暮の姿をを探したが見つからず、胸騒ぎを覚えた。


 言いようのな不安に駆られ、近くにいた小暮の友人とに話を聞くと、やはり彼女たちも小暮の行方を知らず、心配そうに探しているようだった。


 夜も中頃になり、皆が夕食を楽しむ頃になると、ようやく宿に戻ってきた小暮は、泣き腫らしたようなに目を赤く腫らしていた。


 だが、その表情はどこか吹っ切れたように晴れやかで、すごく幸せそうにも見えた。そのちぐはぐな様子に、ボクはますます困惑する。


「涙ちゃん、大丈夫だった?心配したんだよ!」


 ボクが駆け寄り、不安げに尋ねると、小暮は少し頬赤く染まったままの顔で嬉しそうに言った。


「心配かけてごめんね!大丈夫、大丈夫!あとでセントナーレでの事、ちゃんと話すね♪」


 小暮はまるでスキップでもするような足取りで自室へ向かい、すぐに戻ってくると、手には可愛らしい包みに入った焼き菓子を持っていた。


 「はい。約束のお土産」


 その後、心配していた友達も集まり、皆で無事を喜び合いながら、少し遅い夕食を取ると、セントナーレでの事とその後のアクシデントで大いにと盛り上がった。


 食事の片隅では、引率していた聖騎士が監督不行き届きを理由に、厳めしい顔つきの上官らしき人物からこっ酷く叱られている姿が見えた。




 いよいよ、明日は成人の儀だ。これ儀式を期に、私の一人の聖職者としてお父さんの教会――孤児院――の手助けをすることが出来る。そして、いつか、お父さんと同じように人を信じ抜けるような正しい人間になれるように頑張っていこう!――そんな決意を新たに胸に抱き、ボクは深い眠りについた。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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