表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

伊勢 巫琴 聖都カルマキア観光 02

四季崎是空が風運商会の若者たちに絡まれた騒動の中で、正義感あふれる少女・伊勢巫琴と出会う。

 老人は椅子に座るように促した。卓上にはすでにお茶菓子とお茶が用意されており、彼はボクの手にしていた本に視線を向けた。


「これが気になったのかい?」


 ボクが「はい」と答えると老人は嬉しそうに言った。


「それはウィスプ様についての書物じゃな」


 ボクは本をパラパラとめくり中身を確認したが、一見すると、何の変哲もない古びた本だった。しかし、何か心惹かれるものがあり、彼女は最初のページに戻り、改めて一から読み始めた。


 ボクが時間を忘れて本の世界に没頭していると、不意に老人が声をかけた。


「それにしても時間は大丈夫かい?」


「え……?」


 老人に言われ壁にかけられた古風な振り子時計に視線を向けると、長身は門限を示す時刻まであと僅かというところを示していた。「わっ!」と思わず声を上げ、ボクは慌てて立ち上がり、その拍子にテーブルの上のコップを危うく倒しそうになった。


「大変!早く戻らないと!」


 ボクは慌てて本を老人に返そうとしたが


「焦らず、読むといい。明日にでも来なさい」


 と言って受け取らなかった。


 ボクははお礼を言うと急いで宿まで向かった。


 息を切らせながら宿の重々しい扉を開けると、ちょうど門限を告げる鐘の音と同時だった。ボクは「間に合った……!」と安堵し、ほっと胸を撫で下ろしながら中へ入っていった。


 エントランスには夕食を待つ他の宿泊している客たちが、食堂の木の扉の前で賑やかに開くのを待つ列を作っていた。息を整えながらボクもその列の最後尾に並ぼうとしたとき、後ろから肩をつかまれた。


 驚いて振り返ると、そこには氷のように厳しい表情をした聖騎士が、ボクを咎めるように睨むように立っていた。


「君は、門限を何だと心得ている」


 ボクが弁解しようと息を吸い込んだ瞬間、ふわりと甘い香りと共に後ろから誰かに抱きつかれた。それと同時に鈴を転がすような少女の声が耳元で聞こえた。


「あっ、見つけてくれたんだね!助かったよ、本当にありがとう!私が落とした本を探してくれたんでしょう?」


 抱きついた少女――昼間にボクを助けてくれた黒髪の少女だ――はぱっとボクから離れると、ボクが抱えていた古書を有無を言わさずヒョイッと取り上げ、くるりと聖騎士のほうを向いた。そして、驚くほど自然の仕草で聖騎士の強張った手を両手でやんわりと包むように握った。


「聖騎士様。この子、私の大事な本を探して、門限ギリギリに戻ってきたんです。私のためにもう一度外に出てくれた、こんなに優しい子を、どうかしたお許しいただけませんか?」


 聖騎士は忌々しげにその手を振り払うと、少女を一瞥し、これ以上関わりたくないというように舌打ちし、「次はないぞ!」と吐き捨てて足早に去っていた。


 一連の目まぐるしい流れに呆気にとられているボクに、少女は悪戯っぽく微笑みかけると、取り上げたばかりの本をひらひらと振りながら返した。


「ごめんね、ちょっと借りたよ。私は小暮 涙。君は?」


「あ…ボクは伊勢 巫琴。その…庇ってくれてありがとう!」


「巫琴ちゃんね。気にしないで!それより、さっき外で困ってる人、助けてたでしょ?」


 ボクは驚き、「えっ、見てたの?」と思わず聞いてしまった。


「うん、まぁね。2階の窓からたまたま見ちゃった」


 小暮はいたずらっぽくウインクをすると、「そうだ!ちょうど夕食の時間だし、このまま一緒に食べようよ!」とボクの腕を取り、「うん!」とボクも頷いた。


 二人は連れ立って一緒に食堂の扉をくぐり、空いていた向かい合わの席に座ると、すぐに打ち解けて、他愛もない話で盛り上がった。


 食事が終わり、それぞれ自室に戻ろうと席を立ったタイミングで、小暮に呼び止められた。


「巫琴ちゃん!明日私たち、セントナーレに観光に行くけど、一緒に行かない?」


 ボクは好奇心を強くそそったが、腕に抱えた本の確かな重みを感じると、申し訳なそうに断った。


「ううん……。ゴメン。実は、明日までに読んでしまいたい本があるのは……。」


 小暮は一瞬、寂しそうな表情を浮かべたが、すぐにいつもの明るい笑顔を戻った。


「そっか、残念……。じゃあ、巫琴ちゃんにはセントナーレで素敵なお土産を買ってあげるね♪」


 ボクは慌てて両手を横に振り、「そんな、悪いよ……」と遠慮した。


「大丈夫、大丈夫!家族のお土産のついでだし。その代わりに、その本のこと教えて。巫琴ちゃんがそんなに気になる本、私も気になるもん」


 そう言うと、二人はお互いに手を振り合い、それぞれの自室へ向かった。


 自室に戻り、早速本で本の続きを読んでいく。しかし、ページが進むにつれて段々と記述難解になり、次第に頭が追いつかなくなっていくのを感じた。


 集中しすぎて疲れてしまったのか、強い眠気を感じたボクは、一旦栞を挟んで本を閉じ、寝支度を整えると、早めに寝ることにした。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ