剣戟を奏でる偽りの月 03
サエがうーちゃんに抱きついた、その直後、サエが立っていた場所に剣が突き刺さった。
二人は驚き、剣の飛んできた方を見つめた。そこには、結界を破って現れた一人の聖騎士が、息を荒げながら立っている。彼の周囲には、催眠の霧が結界から解き放たれたように周囲に広がりながら薄れつつあった。
「し、四季崎!随分と面妖な魔法使いを従えてるな。だが、俺がそう簡単にやれると思うなよ?」
催眠の霧で片が付いたと思っていたサエは、嫌そうに槍兵を睨みつけた。
「あれで隊長さんが寝てくれれば、あとは消耗戦だったのに~……。これじゃあ、うーちゃんに全て任せられないじゃんか~」
そんなサエの頭をうーちゃんがポンポンと叩いた。サエは口を尖らせながら彼を見上げると、彼は二つの黒い棒の両端をぶつけ、まるで初めから一本の棒だったかのように一つにまとめると剣と同じくらいの長さになった。
「サエは魔法兵の相手の頼む。俺はその間、隊長の相手をしておく」
うーちゃんを見上げるサエは、申し訳なさそうにまだ見上げていた。
「うーちゃん……サエの計算だと、あれで眠らせられるはずだった……。だから、『月影』投げちゃった。ごめん……」
少し落ち込んでいるサエに対してうーちゃんは、全く気にしていない様子だった。
「気にしていないよ。『月影』は四つで一つの武器であって、四本必要なわけじゃないからな」
うーちゃんが『月影』を構えた。彼の言葉に安心したようにサエも杖を構えると、「本出すぞ!」と気の抜けた掛け声をかけ、そのまま詠唱を紡ぎ始めた。
『我の夢は永久の平穏と堕落なり、その平穏をぶち壊さんとする者たちよ。我が遊眠の化身の天罰喰らえ!』
《アウディス アンクリアインダルジェント シープ》
サエが魔法を唱えると、目の前に大きな白い雲が現れた。サエはその白い雲に飛び乗ると、眠たげなとろんとした目になった。サエが白い雲に飛び込んだ衝撃で周囲に一部の白い小さな雲が飛び散った。小さな白い雲はサエと大きな白い雲を取り囲むようにとどまっていた。
魔法兵たちはサエの未知の魔法に戸惑いながらも、魔法の詠唱を始めた。詠唱が聞こえるとサエは『怒涛……』と呟くと、周囲に留まっていた小さな白い雲が魔法兵の方に向いた。すると白い雲から可愛らしい角と鼻先を現し、ものすごい勢いで魔法兵に向かって突撃していった。
小さな雲は魔法兵が放った魔法に激突すると魔法は霧散するように消えていった。さらに魔法兵が発動しようと詠唱し、魔力が集まっている場所にぶつかると、魔法自体がうやむやになったかのように消えてしまった。
魔法兵たちは全ての魔法が発動するよりも早く消され続け、何もさせてもらえなかった。すると一人の魔法兵の頭に向かって小さな雲が激突した。白い雲はぶつかるとポンと弾けると、霧のように消えていき、彼は意識が切れたようにその場に崩れ落ちた。
焦る魔法兵は一人また一人と意識を失っていくと、最後にはサエだけが白い雲に揺られてあくびをしていた。
これで残るは隊長のみとなり、サエは魔法を解除してうーちゃんに視線を向けた。少し離れた場所では、隊長とうーちゃんは一進一退の攻防を続けていた。
「こっちは片付いたよ〜」
サエがそう叫ぶと、うーちゃんは彼女に手招きした。二人が戦闘中にもかかわらず、サエは駆け寄ってうーちゃんの背中に飛び乗る。
「もう、時間がない。あれで決着をつける!」
うーちゃんの言葉にサエは何をすると理解した。彼は俯きながら、隊長との距離を取った。すると二人からくぐもったような声が聞こえた。
「……じゃあ、『悪しき者から我らを隠し守れ〜』っと」
隊長はサエが結界で行動を阻害してくると判断すると、二人との距離を一気に縮めてきた。
《ローウィスクイック シャイン》
詠唱とは違う魔法が放たれると、隊長はわけもわからず困惑した。その隙に、うーちゃんは体当たりを食らわせた。隊長は一気に距離を詰めてきたことと閃光の加護のスピードも相まって、強い衝撃で飛ばされた隊長はすぐに意識を失った。
戦闘が終わると、二人はできるだけ目立つように逃走した。用意してあった船に飛び乗ると、まるで盗んだかのように出航していった。応援の聖騎士たちは、仲間を救護し、逃げた二人の捜索に当たって、街全体を騒然とさせていた。




