剣戟を奏でる偽りの月 02
結界に囚われた聖騎士たちは、出口を求めてひたすら剣や槍を叩きつけ続けていた。その顔は焦燥に歪み、どうにかしてこの場を脱出しようと躍起になっていた。
結界が壊されない状況を確認すると、彼らの力を借りられないと判断し、魔法兵は隊列を変えた。半分は弓兵を守るように、残り半分はその前に並び壁となった。
「結界はあともって数分かな~?サエの加護だから、光速はあと一回は使えるよ?」
サエが自分の魔法を誇るように声を上げると、うーちゃんは適当に褒めた。改めて、敵に視線を向けると、壁となった魔法兵に向かって一直線に走り出していった。魔法兵はうーちゃんの接近に対し、即座に障壁を展開し、うーちゃんの攻撃から自分たちを守ろうとした。
しかし、うーちゃんは障壁の寸前で即座に加護を開放し、自身の残像を残しながら、彼らの後ろに一瞬で回り込んだ。
後ろに回り込まれた魔法兵たちは背後からの攻撃を覚悟し、自身たちの敗北を悟るように後悔に苛まれた顔をした。しかし、うーちゃんたちは弓兵を優先するようにそのまま奥へと進み、弓兵を守る魔法兵に突撃した。
うーちゃんの加護がまだ残っていたことで、魔法兵たちは自分たちに矛先が向くことを想定していなかった。彼らは予想外の事態に慌てて、障壁の展開に取り掛かった。
「ちょ~っと遅いかな?『我揺るぎない意志よ。形を成せ。眠に誘え』」
《アウディオーコンシャス フェイド 》
サエの杖先から薄紫色の半透明の刀身が出現した。彼女はうーちゃんの背中を蹴ると、上空に舞い上がった。彼女は魔法兵の上空で身体を捻り上下逆さまになると、薄紫色の刀身で三人の魔法兵の頭をまるで細剣でも振るうように素早く突いた。
薄紫色の刀身で頭部を突かれた魔法兵は死んだかと思われた。しかし、血は一滴も流すことなく、不思議そうな顔をすると、急な眠気に襲われたかのように、その場に倒れ込んだ。
サエが上空で華麗な剣技を披露している間、うーちゃんは障壁を迂回するように素早く回り込むと、サエに注意を向けた魔法兵の側面から一撃を加え、昏倒させた。
サエが上空で華麗な剣技を披露し、体勢を崩した一瞬の隙に、弓兵は無防備になった彼女の心臓を狙い、矢を放った。サエは矢を見据えると、空中で身体を捻り、矢は身体と腕の間を通り抜けた。サエは、そのまま地上へ向けて軽やかに降下を始めた。
矢を放った直後の弓兵をうーちゃんは気絶させた。即座に転進すると、滑り込むようにサエの落下地点にたどり着くと、自分の身体をクッションにするように抱きとめた。
「うーちゃん……3秒遅い。そこは可愛い妹を兄の両腕で優しく抱きとめるところなのに~」
うーちゃんは苦笑いしながら「次はそうする」と答えると、サエの頭を優しく撫でた。彼女はそれで満足したように頬緩めた。
うーちゃんはサエを自分の身体から下ろすと振り返った。そこには結界が破れ、外に出られた聖騎士たちと先ほど無視した魔法兵が改めて陣形を立て直していた。始めは人的有利もあり、余裕の態度を示していた聖騎士だったが、この数分の戦闘ですでに味方を七名も昏睡させられ、二人の圧倒的な実力を認めるように、真剣なものに変わっていた。
聖騎士たちの真剣な表情を目の当たりにしたうーちゃんは、サエをかばうように彼らの間に入り、手にしていた黒い棒をそっと構えた。
「流石に相手もこちらの動きに警戒し出したな。どうする?サエ」
後ろを振り返ることなく、サエに尋ねると、「考え中……」とだけ返ってきた。
「なら、お兄ちゃんがその時間を作るよ」
うーちゃんが手元の黒い棒を弄びながら聖騎士たちの出方を伺う。彼らも警戒しているのか、陣形を保ったまま動こうとしなかった。
「うーちゃん。アレ貸して……」
サエの言葉に、うーちゃんは手の中で弄んでいた黒い棒を渡した。すると彼は、まるでそれが当たり前であるかのように、ローブの袖からもう一本の黒い棒を取り出した。
『幻霧に包まれて眠れ』
《アウディオースリーピネス ミスト》
サエが詠唱と共に黒い棒に口づけをすると、それは薄い青色に包まれた。それをサエは敵の陣形の左側へ適当に投げた。黒い棒は緩やかな放物線を描いて飛んで行き、そのまま誰にも当たることなく、地面にコツンと音を立てて落ちると虚しくその場に転がった。
聖騎士たちは警戒するように、サエが投げた黒い棒から距離を取り始めた。それを許さないとばかりに、うーちゃんが中央に攻撃を仕掛けた。
陣形の最後尾にいる魔法兵が障壁を作るより速く、うーちゃんは中央に切り込んだ。
彼は二人の剣兵の間を通り過ぎると不意を突くように、その場で小さく跳躍するとコマのように回転すると、目の前から迫る槍兵の槍を躱しながら、両手の黒い棒で剣兵の首を、強打し昏倒させた。
槍を躱された槍兵は突き出した槍を戻す前に、うーちゃんは着地と距離を一気に詰め、槍兵に足払いと同時に側頭部に一撃を加えた。
うーちゃんとサエの間に距離ができたのを好機と見た聖騎士たちは不敵の笑みを浮かべた。右翼にいた彼らは、剣兵と槍兵をうーちゃんに接近させ、同時に魔法兵に魔法弾の雨を降らせた。
聖騎士の攻撃を気にする様子もなく、サエは今まで通りの詠唱を紡ぎ始めた。
『悪しき者から我らを隠し守れ』
サエは杖先を左翼に向けた。彼女の視線の先には、彼女の投げた黒い棒を警戒するように距離を取っている聖騎士たちがいた。
《 ローウィス ウォール ヘイロー》
光の結界が、左翼にいた剣兵二人、槍兵一人、魔法兵一人を分断するように包み込んだ。その瞬間、黒い棒が独りでに回転を始めると、薄水色の霧を発生させ、結界内をたちまち充満させていった。
サエは間近に迫る魔法弾の雨を軽やかに躱していくと、退屈そうに詠唱を紡いだ。
『我揺るぎない意志よ。形を成せ。眠に誘え』
《アウディオーコンシャス フェイド 》
再び杖の先に薄紫色の刀身が作り出すと、サエは剣兵の剣の軌道を予知しているかの如く、躱していき、すれ違いざまに薄紫色の刀身で心臓を一突きした。その魔法の刀身は、傷つけることなく、触れた相手を眠りに誘い、聖騎士はそのまま地面に崩れ落ち、眠りに落ちた。
「サエが魔法使いだからって剣で勝てると思った?サエだって伊達に『そう……』」
冷ややかな目で地面に倒れる聖騎士を向けながら、囁きかけているとうーちゃんの存在に気づくと途中で切り上げて駆け寄っていった。
「疲れたよ〜。うーちゃんおぶって?」
先ほどの目が嘘のように気だるそうに戻るとサエはうーちゃんに抱き着いた。




