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風運 集治 じぃのお説教 01

四季崎と別れたあとカルマティアでの出来事です。

相模は四季崎や下関船長との約束を守り風運に対して鬼になる事が出来るのでしょうか?


それとも、主人に対して甘えを許してしまうのでしょうか?

 セントナーレ行きの船での一件の後、四季崎との戦いの後、じぃの強烈に放たれた覇気により気を失った風運は、執事である相模の手によって運ばれ、風運商会をもてなすために聖教側が手配した、港近くの静かな地区にある、立派な一軒家の一室に休まされていた。


 彼が目を覚ましたのは、窓の外が既に深い闇に包まれた夜だった。部屋にはランプの柔らかな灯りが灯されている。


 風運は、まだぼんやりとした意識の中、自分がなぜ見慣れぬ天井を見上げているのか、どのような状況に置かれているのかすぐに理解できず、重い頭を押さえながら、途切れた記憶を必死に遡ってみた。


(そうだ…最後に覚えているのは、船の上で、あの偉そうな黒髪のおっさんと口論になり、カッとなって魔法で戦ったこと…。そうだ、俺はあいつに…! それ以降は…どうなった? クソッ、頭が痛くて思い出せねぇ!)


 風運は、苛立ち紛れにベッドから勢いよく体を起こし、足をベッドの縁に投げ出した。その時、自分が船に乗っていた時の、着崩した高価な服のままであることに気づき、気を失っている間に掻いた寝汗でじっとりと肌に張り付く服に強い不快感を覚えた。


 (誰かいないのか!)


  苛立ちのままに両手をパン!と叩こうとして、と我ながら柄でもないと思い直し、代わりにいつものように尊大な態度で大声を出した。


「じぃ! どこにいる! 来てくれ!」


 すると、まるで呼び声に応えて影から現れたかのように、音もなく、いつの間にかベッドのすぐ横に、控えていた相模が、いつもの穏やかな表情で立っていた。


「おや、坊っちゃま。ようやくお目覚めですか? 」

「あぁ、今起きたところだ。…頭がはっきりしない。気を失う前の記憶が曖昧だ。俺はあの後、何があった?」

「…それはそれは、残念でございますな。はて、坊っちゃまが最後に覚えていらっしゃるのは、どの辺りの出来事でしょうか?」


 相模は表情を変えずに尋ねた。


「最後…? たしか…、あの生意気なおっさんに、完膚なきまでにのされたところまでだ。」

「ほう…左様でございますか。そこまでは覚えていらっしゃるのですね」

「それで、あいつはどうなった? 俺が気を失った後、お前が始末したんだろうな!?」


 風運は期待を込めて尋ねる。


「いいえ、滅相もございません。現在、彼がどのようになさっているかは詳しくは存じ上げませんが、おそらく元気にしていらっしゃると思いますよ。ほっほっ」


「なっ…!? お前、この俺が、主人があんな奴に負けたというのに、ただ見過ごしたとでも言うのか!」


 風運は信じられない、というように叫ぶと、その言葉を聞いた瞬間、相模の穏やかだった雰囲気が一変する。


 彼は大きく、そして深いため息をつくと、次の瞬間、風運の身体が反応する間もなく、目にも止まらぬ速さでベッドから引きずり下ろし、部屋の中央、硬い床の上に力づくで押さえつけ、無理やり正座させた。


 風運は、あまりにも一瞬の出来事で何が起きたかわからなかったが、床の冷たさと痛みで状況が呑み込めると、屈辱に顔を歪め、立ち上がろうと必死に身じろぎしたが、相模がその肩を、まるで鋼鉄の万力のように、びくともしない力で押さえつけ、それを決して許さなかった。


「な、何をするんだ! じぃ!」


 風運は抗議の声を上げる。


「これより先は、あなたの執事としてではなく、『師』として接しさせていただきます、集治様」


 相模の声は、いつもの穏やかさとは程遠い、冷たく厳しい響きを持っていた。『師』という言葉を聞いた途端、風運の抗議しようとした表情が一瞬で凍りついた。


 彼にとって、相模が『師』の顔を見せる時は、本気で指導している時、そして何よりも恐ろしい時だと、経験から知っていたからだ。


「坊っちゃま。船の上で、戦闘魔法を使われましたね。それも、怒りに任せて、無抵抗に近い人に向かって。」


「…。」


 風運は唇を噛み、俯く。


「たとえ成人の儀を終えていようがいまいが、いかなる理由があろうとも、無闇に、そして人に危害を加える目的で戦闘魔法を使ってはならぬ、と私は、口を酸っぱくして教えたはずです。」


「…。」


「今回、相手が、あの方でなければ、そして彼が寛大にも事を荒立てなかったから良かったものの、場合によっては、聖教法違反として、坊っちゃまの立場、そして風運商会の名誉までもが危うくなっておりましたのですよ。」


「…。」


「このままでは、いつか本当に取り返しのつかないことになり、風運商会全体に多大なご迷惑をおかけすることに…。坊っちゃま? 聞いていらっしゃいますか、坊っちゃま!?」


「ZZ…」


 それを見た相模は、額に青筋を浮かべ、寝ている風運の肩を、もはや容赦なく、腰に差した剣の鞘で、ゴツン!と音を立てて軽く叩きつけた。


「いってぇぇぇ!! な、何すんだよ、じぃ!」


 風運は飛び起きる。


「ほっほっほ…。どうやら、坊っちゃまには、言葉だけの『説教』では足りず、少々『手厳しいご指導』が必要なようですねぇ」


 その言葉通り、その後、夜通し屋敷からは風運の涙交じりの悲鳴と許しを乞う絶叫が何度も響き渡ったが、幸運なことにこの一軒家は隣接する家もなく、その凄惨な(?)指導が近隣に迷惑をかけることはなかったという。



翌朝


 相模の『ご指導』により心身ともに打ちのめされた風運が、重い身体を引きずるように朝起きると、それでもいつものように、ベッドサイドに銀の水差しと共に用意された水を尊大な態度で口に含み、そして相模を呼びつけて当然のように着替えを手伝わせようとした。


 昨夜の出来事で懲りていないのか、あるいは…。


「じぃ。着替えが終わったら、俺は今日、気分転換に外に仲間と散策にでもいく。」


 風運は、まだどこか昨夜の仕返しのように、ふてぶてしく言う。


「それはできかねます、申し訳ありません、坊っちゃま。今日の坊っちゃまのご予定は、既にこの相模が決めさせていただいております。」


 相模は、にこやかに、しかし有無を言わせぬ口調で返す。


「は? どういう事だ? 俺の予定を勝手に決めるな!」


 しかし相模は風運の言葉を無視し、自らの腰から差していた一本の剣――風運が15歳の誕生日に相模から渡された彼専用の真剣――を静かに抜くと、その柄を恭しく風運に向けて差し渡した。


「ほう…これは俺の愛用の剣だ。手入れはしてくれたようだな。…で、これがどうした?」


 風運は訝しげに剣を受け取った。


「それをお持ちになって、お供ください。今日一日、坊っちゃまのその甘ったれた歪んだ根性を、文字通り叩き直すべく、特別に聖騎士団の修練場をお借りしてまいりました。」


「嫌だ! 行くもんか!」

「さあ、参りましょう、坊っちゃま」


 と抵抗する風運の襟首を、相模は再び容赦なくひょいと掴むと、穏やかな声とは裏腹に、まるで荷物のようにずるずると引きずるようにして屋敷の外へ連れて行った。


 風運の抵抗は、老執事の腕力の前には無力だった。


 カルマティア東区画の一角にある、石壁に囲まれた広大な聖騎士団の訓練所に到着すると、相模は風運を、まるで物を捨てるかのように地面に放り投げ、自らは鍔と鞘を動かないように紐でくくり固定した自身の剣を、ゆっくりと腰から抜いた。


 それは練習剣ではない、真剣だ。


「さあ、始めましょうか。集治様が、その真剣で、私に一撃でも当てることができたら、約束通り、今日一日はお好きにして構いませんよ。まあ、できればの話ですがな、ほっほっ」


 地面に打ち付けられた痛みに顔を歪めながら風運は起き上がり、乱れた服の汚れを手で払うと、憎々しげに相模を睨んだ。


 だが、いつもの穏やかな執事の顔ではない、真剣を抜き放ち、静かな、しかし底知れない気迫を纏った師としての相模の姿に、風運は思わず喉がひゅっと鳴り、身がすくんでしまった。


本能的な恐怖が全身を支配する。

私の作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!感想を聞かせていただけると嬉しいです。

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