シャイラの神託
「こんなことが…」
喜ぶ僕たちと違い神父様は目を見開いていた。
それもそうだろう。
2人も出るなんて、と言ったそばから3人目の上位職が生まれたのだから。
僕たちも驚いているが、長年神託を行っている神父様の衝撃は計り知れない。
だがすぐに我に返ったようで、こほんと一息つくと。
「失礼しました。長年の経験から来る、固定観念とは恐ろしいものですね…。こういうこともあると言っておきながら、つい今までの経験を基に考えてしまい動揺してしまいました。」
いやそりゃしょうがないよ神父様。
普通に考えて、3人連続上位職とかおかしいよ。
「では次、シャイラ=ルルゼ前へ」
「シャイラちゃん!ほら、笑顔笑顔ー!」
「そうだね…うん!行ってきます!」
「アミィって普段はうるせぇけど、こういう時は頼りになるよな」
「まぁそれがアミィですからね、元気のお裾分けというやつですよ」
「できれば少しだけ落ち着いてくれるとありがたいけどね…」
うんうん、と頷く僕たち。
そんな僕たちをアミィは首を傾げて見ていた。
シャイラの祈りが始まった。
世界を見て回りたい。それがシャイラの夢。
彼女がそう思ったのは、実家が宿屋を営み、そこに来る冒険者達の話をいつも聞いていたからである。
彼等はいろいろな話を聞かせてくれた。
世界には、シャイラが想像も出来ないようなことが沢山あることを教えてくれた。
毎日お祭りのような賑やかな街があることを。
海の中にある都市や、空に浮かぶ都市があることを。
火を吹く山があれば、氷に覆われているが運が良ければオーロラという、とても美しいものが見られる土地があることを。
ダンジョンと呼ばれる、常に命の危険があるがそれに見合った宝を得られる場所があることを。
世界には善意だけで無く、悪意があるということを。
昨日まで共に笑っていた仲間が、今日死んだことも。
冒険の良いところだけで無く、悪いところも。
人の醜さも含めて教えてくれた。
「じゃあなんで冒険者をやってるの?」
幼いシャイラからすれば当然の疑問だった。
彼等の話を聞いているとそんな場所を私も見てみたいと思ったし、行ってみたいと思った。
ただそれ以上に自分や仲間が傷ついたり、死ぬかもしれない、と考えると怖かった。
そう問われた冒険者達は酒を飲みながら
「んーそりゃみんな夢があるからじゃねえか?」
「夢?」
「そうだぞー、この国じゃあ上位冒険者になると貴族様になれる可能性があるからな。
生まれた村が貧乏だから俺が貴族になってそいつら迎え入れて腹一杯食わせてやりてぇのよ」
ガッハッハと笑う冒険者。
「まぁ迎えるって簡単に言っても、いろいろなしがらみがあるからそう上手くは…と思うけどね…」
仲間の冒険者は苦笑いしながら酒を飲む。
「まぁ人の夢を否定しないし、私も魔法の真理に到達するって夢があるからね。
夢は人それぞれだし、夢に大きいも小さいもないわ。
夢を叶える為に冒険者にならない人もいるわね。
あくまで私たちにとって、それぞれの夢に向かうのに1番効率が良いと思ったのが冒険者だった。だからそうなったってこと。
お嬢ちゃんも夢があるなら、その夢に向かってどうすればいいのか、時間はあるんだからゆっくり考えなさいな」
そう言って頭を撫でてくれた。
幼いシャイラには難しかった。
そして幼い頭でそれでも必死に考えた結果。
シャイラは冒険者になることにした。
怖いならば、怖くなくなるまで努力すればいいという結論になったのである。
それほどまでに、世界への興味を、いろいろなことを自分の目で見て回るという夢を諦めることはできなかった。
そして10歳になると村の決まりにより幼馴染たちと狩りを行うようになり、自然の厳しさと同時に仲間の頼もしさを知った。
リクは上位冒険者になるのが夢だと言った。
13歳になり、ルドとアミィも夢の為に冒険者になると言った。
ユーリだけは神託の後と言い教えてくれなかったが、剣や魔法の訓練、冒険者の心構えなどを熟知しているところをみると夢の為に冒険者になるのだろう。
恥ずかしがらずに言えばいいのに、とふと思い出し笑顔になる。
今のシャイラに不安はない。
みんながいればきっと大丈夫。
みんなで夢を叶えよう。
光がシャイラの中に吸い込まれる。
「シャイラ=ルルゼ、君の職業は…
『精霊弓士』…で…す…」
『精霊弓士』それは精霊の加護により弓術に様々な能力を付与できる上位職である。
普通の弓師にも命中補正はあるが、それに加え加護による高い命中補正を与えられることにより最早外すことのほうが難しくなる。
さらに加護には自身の俊敏性上昇、矢への属性付与、仲間への鼓舞効果など複数の効果がある。
本人の火力のみならず、パーティーの補助も可能と隙のない職業である。
恐怖を乗り越え、仲間と共に夢の為に努力するシャイラに合った職業だ。
「よかったぁああああ…」
シャイラは嬉しさのあまり力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
僕とアミィはそんな彼女のそばに行き。
「おめでとうシャイラ」
僕は自分のことのように嬉しくなり手を差し出した。
「良かったねぇシャイラちゃん!」
ニコニコと手を差し出すアミィ。
「ありがとぉおおおおおお!!」
嬉しさが上限突破したのか2人揃って抱きしめられた。
とても嬉しいのだが、僕は男なのでできれば自重していただきたい。
それはそれとして、ありがとうございます。
「めでてぇな…けどよ…こんなことがあるのか…?」
「ここまで4人全員が上位職とは…異常だと思います…」
そう話すリクとルド。
「そんな…ありえない…こんなことが…あっていいのか…?」
神父様は目を見開き、驚愕の余り固まってしまった。