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アミィの神託

神像の前で祈りを捧げるアミィ。


彼女が冒険者になりたい理由、それは兄と同じく母の為。

そして兄を支える為である。



幼い頃から優しく頼りになる兄だった。


困ったことがあればすぐに駆けつけてくれるし、熱を出せば忙しい母に代わってずっとそばで看病してくれた。



ルドの作る料理が大好きで、自分も兄の為に料理をしよう!と思いある日1人で料理をした。


美味しいご飯を作るからお兄ちゃんは待ってて!と言い1人で台所に立つ。


結果を言えばそれはもうひどいものだった。


なにを失敗したのか、どこがダメだったのかすらわからないレベルで泣きそうだった。


失敗しちゃったからアミィちゃんが全部食べるね、お兄ちゃんは自分で作って食べてね、ごめんね。


兄に申し訳無いと思いながら自分の料理を見ているとルドは「アミィの料理が食べたいんだから、気にしなくていいんだよ」と笑い、止める前に食べ始めてしまった。


美味しくないでしょ、と聞くと「独特だね」と笑った。


無理しないでいいよ、と言うと「アミィが初めて1人で作ってくれたんだから食べたいんだよ、頑張ってくれてありがとう」


せっかくなら美味しくのを食べて欲しかった、と言うと

「結果じゃなくて課程が大事なんだよ。アミィは僕の為に頑張って、一生懸命作ってくれたんだよね?その気持ちが嬉しいんだ。

それに僕も最初から料理が出来たわけじゃないんだよ?アミィは知らないだろうけど母さんにはいろんな意味で頑張ってもらったんだ」


ルドは笑いながらそういった。


お兄ちゃんも失敗することがあるの?と聞くと

「失敗しない人なんていないよ。

まぁ僕が知らないだけでそういう人もいるかもしれないけど、僕もいっぱい失敗するし間違うこともある。

大事なのは間違って、失敗した後になぜこうなったのか、次はどうするか、をちゃんと考えることだって僕は思うんだ。

失敗した原因を考えることで対策もできるし次に繋がる、少しずつ進んでいける。それは自分の力になるからね。

それでも足りない部分があるなら自分1人じゃなく、他の人を頼れば良い。

だから次は一緒に作ろう?僕の失敗談を交えながら、ね?」


その後ルドの失敗談を聞きながら一緒に料理を作り、完璧だと思っていた兄も失敗するんだなぁと思った。


同時に完璧だと思っていた兄がそう思えるほどに努力を続けてきたことを知り、より兄を慕うようになった。


優しい兄と母、そして自分。


3人でこれからも幸せに過ごしていきたい。


アミィは心からそう思っていた。





母が魔素過剰症を発症した日。



それまでアミィが知るルドは


いつも頼りになる兄。

困ったことがあればすぐに駆けつけてくれる兄。

いつも、優しく笑う兄。




だから見たことが無かった。



兄の目から涙が出るところを。


触れかたを誤れば壊れてしまうのでは無いかと思うくらい憔悴している姿を。


アミィは…見たことが無かった。




なんとかなる…なんとかなるから…母さんならきっと大丈夫だから、アミィは心配しなくていいから…


アミィを心配させまいと精一杯気丈に振舞っているが、アミィには、それがそう言っているルドが自分自身に言い聞かせるような、もしくは神に祈っているように聞こえた。


完璧な人なんていないよ。


以前ルドが言った言葉を、こういう形で痛感することになってしまった。


兄の性格上、自分が、どうにかすると言うだろう。


だがこのまま兄1人に背負わせる訳にはいかない。


兄だけに任せるのでなく、自分にも出来ることを探さなければ。


だが自分には出来ることが少ない、少なすぎる。


必死に自分に出来ることを探し、自分にとっての武器を探した。


そして、決心した。


1番自信がある回復魔法、これを使って冒険者になろう。


神託で回復魔法を強化できる職業でなくとも、ある程度の治療くらいならできる。


扱いを気にしなければ、ある程度のパーティーに入ることならできるだろう。


命の危険はある上、神託の結果や出会い次第では悲惨な冒険者人生が待っている可能性が高い。


それでも、家族の幸せを諦めたくないから。




その夜、アミィはルドに冒険者になると伝えることにした。

止められるだろうなー、怒られるだろうなー。

もしかして生まれて初めて喧嘩しちゃうかも??



それでも、決めたから。



「「冒険者になる」」


意を決して発した声、しかしその声は自分のものだけでは無かった。


向かいに座る兄のポカンとした表情。


お兄ちゃんのそんな顔初めてみたーと思ったのも束の間


お互いの言葉の意味を理解した双子は生まれて初めて喧嘩をした。


お互いがお互いを止めようとする喧嘩。


お互いがお互いを想うが故の喧嘩。


そして想いが同じ以上、お互いを止められるはずが無かった。



それぞれの想いを出し切り、目標を決めた双子は母へ伝え、そして今日を迎えた。



幼い頃から優しく頼りになる、周囲から見れば完璧な兄。


だがアミィは知っている。兄は完璧などではないのだと。


常に努力を続ける尊敬する兄、そんな兄でも失敗するときがある。


傷つき、折れそうになることもある。


そんなときは自分が支えてあげたい。


兄の側で癒してあげたい。


そして、家族みんなで…幸せを掴み取ってみせる。


自分たちには、頼りになる幼馴染もいるのだから。





「アミィ=バーンズ…君の職業は…






『白魔導士』だ」



回復系の職業は多くあれど、白魔導士はその中でも回復に特化した職業である。


熟練の白魔導士の回復力は、例え身体が欠損したとしても回復どころか再生するほどと言われている。


そして魔法使いの天敵である沈黙系を代表するデバフへの耐性、そして自身のみならず詠唱こそ必要ではあるが味方のデバフすら『回復』する。


白魔導士を決して怒らせてはならない。と言われているがその理由は誰も知らないし、知っている人も話したがらない。いつかは知りたいものである。


攻撃と守りを務める賢者のルドととても相性が良く、彼を支え、癒すアミィの決意を示す職業である。



「イェーイ!!言ったでしょ?すっごいのもらってくるね!って!」

「よかったねアミィ!!」

「マジかよ…」

「上位職ばっかりじゃん…」

アミィとシャイラが手を取り合い喜んでいるのを、僕とリクは喜びと困惑が入り混じった表情で見ていた。


「やったよお兄ちゃん!褒めて褒めてー!!」

「はいはい…おめでとう、アミィ」

ルドのそばに行き撫でるよう要求する妹と、それに応え優しく頭を撫でる兄。



普段と比較にならないほどの、とびきりの笑顔がそこにあった。

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