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ルドの神託

「ルド=バーンズ前へ」


リクの神託が終わるとすぐにルドの名前が呼ばれた。


「次は私の番ですね、皆さん行ってきます」

「お兄ちゃんがんばれーっ!!」

「別に頑張るようなものでは…」

「いいのいいの、応援したい気分だからがんばれでいいのーっ!」

「はいはい…」

アミィの声援を受け、苦笑混じりの顔で神託に臨むルド。


ルドが片膝をつき神様への祈りを始める。

ルドとアミィ、この2人が冒険者になりたい理由それはお金の為である。


贅沢をするため?いいや、違う。


2人の父親は早くに亡くなり、母親が1人で双子を育てていた。


母親1人では大変なことも多かったが、この町の住民は気さくで、亡くなった父親を知る人も多かったのでなにかあるたびに親身になってくれた。


その甲斐もあって双子は元気にすくすくと育ち、お互いを思いやる優しい兄妹へと成長していった。


生活は大変だったが母は子どもたちの成長を喜び、2人の将来を楽しみに生きてきた。


2人も最愛の母と過ごす時間がずっと続きますように、と願っていた。







2年前、その母が難病にかかってしまった。


魔素過剰症という病気である。


この世界アルテシアに満ちる『魔素』は一般的に健康に害を与えることは無く、むしろ生物が生きていく上で必要不可欠なものである。

だが稀にその許容量が急激に低下し必要不可欠なものが転じて、毒と変わらなくなる場合がある。

水を注ぐ器が巨大であれば溢れることはないが、小さい器になれば同じ量でもすぐに溢れるのと同じである。


2人の母がそうであった。


幸いにも繋がり意識が強く、優しい人が多い町なので周りの支援もあり、なんとか生活していく分には問題無く対症療法ならできる。


だが根本的な治療を行うには技術的な問題により莫大なお金が必要となる。


とてもではないが一般人が簡単に享受できるものではなかった。


そんな大金を用意できるあてもない、だがこのままでは母の命が…


そう悩む間にもその病は徐々に進行していき、じきに最愛の母を奪ってしまう。


ルドとアミィはその結末を受け入れられる訳がなかった。


私たちを1人で育ててきてくれた母が、なぜ、こんな理不尽な病によって幸せを奪われなければならないのか。

なぜ家族3人で過ごしたいという、ささやかな願いすら奪おうとするのか。


そんなもの…認められるはずがない。


魔素過剰症は発症した場合、対症療法をしていれば一般的には長くて6年と言われている。

このままでは自分たちが19歳になる頃には母が死んでしまう。


そして考えた末に、双子は常に命の危険と隣り合わせだが一攫千金の可能性が高い冒険者になることを決めた。


冒険者となり4年以内に治療に必要なお金を稼ぐと決めたのである。


2人の母親はそんな危ない道に進まずに、自分の事よりも2人の幸せを願い、命の危険がある冒険者になるのはやめるよう説得しようとした。


だが2人に母にこう言った。

私たちにとっての幸せとはそこに母がいなければ無いも同然だと。

いつかは別れがくるとしても、こんな病に理不尽に奪われるのは嫌だと。

いつか来る別れの日まで家族3人で笑って、幸せに過ごしたいのだ、と。



何日も何日も話し合い、お互いに説得を続け、最終的に母親が折れた。

「あなたたちがそこまで言うのなら…

でも、これだけは忘れないで…

あなたたちがそうであるように、私も…あなたたちがいないと幸せになれないのよ?

だから…必ず帰ってきてね?約束よ?」


3人は泣きながら約束した。


必ず無事に帰り、病を治し家族3人で幸せになると。


2人はその約束を守るために自分たちの命を守る術を学び続けてきた。


そして、家族で過ごすというありふれた、かけがえのない夢の為に今日ここで、神託の儀を受ける。


全ては私たち家族の幸せのために。


頼りになる幼馴染たちがいればできないことはない、と皆の顔を思い浮かべながら。



光がルドの体に吸い込まれ、神父様が鑑定結果を告げる。

「ルド=バーンズ、君の職業は…




『賢者』だ」


賢者、それは多種多様な攻撃魔法のエキスパートであると同時に障壁を展開して仲間を守るパーティーの要である。


理不尽な運命を打ち破る為の力、家族の幸せを守る為の力。

ルドの決意を示すかのような上位戦闘職である。


神父様が職業を告げるとアミィがルドに抱きついた。

「やったぁ!!すごいすごい!さすがお兄ちゃん!!」

ルドはそんなアミィの頭を優しく撫でる。


「やったな!ルド!」

僕たちがそれぞれ祝福をする中、普段はあまり行動で感情を表現しないルドだが


「…よしっ!!」


アミィを撫でる出来ると反対の手を握りしめて天を見上げていた。


…その目にはうっすら光るものがあった。

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