僕らの旅の始まり
僕には友達がいました。
とても臆病で誰よりも優しい友達です。
森の奥深くで一人ぼっちで暮らしています。
僕は毎日そこに遊びに行って、
来る途中に見たものや、
街であった出来事を話します。
すると、僕の友達は目をキラキラと輝かせて楽しそうに話を聞いてくれます。
だいぶ前に名前を教えてくれました。
ジル。という名前だそうです。
「いい名前だね。」
と、言うと嬉しそうに飛び跳ねていた事を今でも思い出します。
それから3年の月日が経ちました。
その日は街中が100年に一度だけ開かれる龍神祭の準備で賑わっていました。
僕はいつものようにジルの所へと遊びに行きました。
しかし、その日はジルの様子が変でした。
いつもなら僕の話を面白がってくれるのに
どこか上の空で、時折何かに怯えているようにも見えました。
「ジル。今日はどうしちゃったのさ。元気無いぞ?」
僕の問に少し戸惑ったあと、その訳を話してくれました。
「今日、街で祭があるだろ。そこで毎回何をやっているのか知ってるかい?」
「知るわけがないじゃないか。前回の祭りは100年も前なんだぞ?」
「そうだよな。あのな、今日の夜開かれる祭りは龍を食べるんだ。それで、人間は長生きできると思ってるんだよ。そんな力なんて無いのに。」
「龍を食べるだって?その龍はどこにいるのさ。僕ジル以外の龍を見たことがないよ。」
そこまで口にして、僕は一つの答えが出た。
「ねぇ、まさかその龍がジルだなんて言わないよね。僕ジルとまだ話したいことあるんだよ?」
僕はジルの足にしがみついた。
そうでもしないとジルがどこか遠くに消えてしまいそうだったから。
「ごめんね。でも、もうここらへんに住んでる龍は僕しかいないんだ。」
「……ぃ、…僕は…みと…い。」
「僕はそんなの認めない!」
急に大声を出したからジルがびっくりしてる。
「ぇ…ちょっと」
「第一なんにも悪いことしてないのになんでジルが食べられないといけないのさ。よし!ジル、準備して。ここから逃げるよ!」
ジルはしばらくポカン。としたあと
やっと意味が分かったのか大声で抗議してきました。
「何言ってるのか分かってる?!ここから逃げた僕だけじゃなくて君も危なくなるんだよ?!」
「別に危なくてもいいよ。ジルがいるもん。それに、僕は色んなところを見て回りたいんだ。たくさんの人とか物とか、色んなところを回ってるときに、ジルが一緒だったら絶対楽しいと思うんだ。あと、ジルが安心して暮らせる場所も見つかるといいなぁ。ねぇジル、僕と一緒にここから逃げよう!」
…これ以上何を言っても無理だな。
「…仕方ないなぁ、君が危ない目にあわないように僕が守っててあげる。いいよ、一緒にここから逃げよう。」
それから二人は、各々旅の準備を始めました。
祭りが始まるまで、あと数分。
僕たちは近くの高台へと登りました。
ここから町の奥まで見渡すことができます。
森の中にはずらりとオレンジ色の明かりが列を成していました。
普段なら綺麗だと見惚れるかもしれないけど、
あの明かりはジルを仕留めに来た奴らがともしているのです。
「…ジル、行こっか。」
僕が背中に飛び乗ると、ジルは翼を広げます。
それに気が付いた明かり達は、ジルを仕留めるために準備したのであろう。
たくさんの弓矢を放ちました。
しかし、その矢は届くはずもなく一人と一匹の龍はどこまでも広がる夜色に溶けていったのです。