第一話:早速
最悪だ。あのおっさん次会ったら殺す。
ひょんなことから異世界に飛ばされた俺。そして今はなんとー
絶賛、”ここどこ?”状態。
色鮮やかなワープホールの中みたいなところを永遠に、フワフワと進んでいる感覚、体感的には一瞬のようにも感じるし永遠のようにも感じる。とにかくよくわからない状況だ。
でも、転生モノのアニメを見ない俺でも聞いたことがある。
ぶっ壊れスキルは最初に獲得する、と言うことを。
あのおっさん曰く、強々イケメンにしてくれるらしい、でも一つ言いたい。
俺みたいなやつはイケメンになろうと最強スキルを得ようと根っこが陰キャなんだよ。
喋る前には、必ず『あ…』か『えっと…』が枕詞につく。
そんなやつが急に新しい世界に馴染めるわけがないんだ。
なんて陰気くさいことを考えていると、突如目の前が真っ暗になった。
そして目の前には”NEW GAME”の文字とステータスのようなもの。
おお、それっぽい感じになってきた。
ステータスに関して、初期値はみんな同じなのだろう、よくあるRPGのレベル1って感じだ。
職業:自殺者って…。これは後々変更とか出来るのかな。
そしてスキル。あのおっさん、強くするって言ってた割に二つしかついてない。
一つは逃亡。なんじゃそれ、はぐれメ○ルか。
そして気になるのはもう一つの方、神の目。
小学生のネーミングセンスだが、説明を見るとなかなかどうして凄そうだ。
ーーー神の目ーーー
1.対象の持つ特殊能力や潜在能力を可視化できる
2.一定の差がある相手に対して、威嚇や魅惑の効果を持つ
3.利用状況に応じて、その他透視や暗視といった能力が付加される。
ほう…、俺の目にはこの透視の二文字しか映っていなかったが、断じて疾しいことを考えついたわけではない、断じて…おっとヨダレが。
そしてステータス画面が消えると次は何やらメッセージのようなものが出てきた。
よく見るとあのおっさんからだ。
少年へー
時間がないので手短に。
少年の良さを残しつつ、つよ〜い感じにしておきました。
スキルとか能力は都度追加されていくシステムです。じゃ、頑張ってね〜。
p.s 最初は最寄り町の冒険者ギルドに行っとけ〜
こいつ…、適当すぎだろ。異世界転生って最初みんなこんな感じなのか?
まあぐちぐち言っても始まらんよな……。
全てに目を通し終わると突如世界が明るくなり、まるでゲームのように風景が構築されていく。
これが俺の、長くめんどくさい異世界生活の始まりだった。
*****
ーー始まりの森ーー
ついに異世界に降り立ったらしい。
さっきまでの浮遊感みたいなものがなくなり、文字どうり地に足がついている。
リス地は、森の中っぽいな。日が高いからまだ昼ごろだろう。
服装は…、ぱっと見は駆け出し冒険者のそれって感じだ。
腰には剣、ていうかどちらかといえば日本刀っぽい。
そして気になる厨二病スキル”神の目”、こいつはどんなものか、いざ!
…… あれ?何にも見えない。
もう一度。
おお、すごい!木や草花の名前がうっすら表示されてレア度や効果、食べれるかどうかとか
とにかく色々書いてある。
さあ、そして顔は…いくらイケメンを毛嫌いしてるからってイケメンになれるならなりたいし、
それで美少女エルフと…、おっといかんいかん。
まあでもできることなら白髪とかのイケメンにしてほしいな。どれどれーー
俺は、近くを流れている澄んだ川を覗き込んで、水面に映る自分の顔を見た。
「おおおお!イケ…メン?」
いや確かにイケメンだ、念願の白髪にはなれなかったがサラサラの黒髪。
前世の学生時代は天パのせいで鳥の巣とか、焼きそばとか、酷い時はち○毛って呼ばれてた俺からしたらありがたい。
瞳は紅くて、目元はキリッとしてる。
が!目の下のクマがひでえ、社畜時代の名残が抜けてない。
そして極め付けに、首には薄黒くロープの後がチョーカーみたいにうっすら残っていた。これじゃまるでメンヘラ野郎じゃねえかよ、消しとけよおっさん…。
ともあれ前世よりかはマシになったんだ、少しは感謝しよう。
一通りの確認を終え、覚悟を決める。
さあ、とりあえずまずは町を目指さなきゃだな。
ギルドか…、人と関わるのは面倒なんだけど、行くしかないよなあ。
*****
ーーチョロインーー
このスキルは目的地設定をしていると道にルートが浮かび上がるらしい。
なのでそれを頼りに町を目指していると、突如茂みの奥から女の悲鳴が聞こえてきた。
うわ…、これあれだろ。助けたら『命を救ってくれてありがとうございます!お礼にこの身を
あなたに捧げます』的な、ご都合展開が始まるやつだ。
やだなあ、女性と最後に話したのなんて満席の大学の食堂で、嫌そうに『隣…、いいですか?』って聞かれた時だぜ。
でも助けない訳にはいかないし、いくしかねえか。
俺は覚悟を決めて、草をかき分けて声のする方へ進んだ。
そこにいたのは小さいゴブリンと絶賛襲われているローブ姿の女性。
武器は持っていないが、俺にはこの”目”がある。
目を凝らすとうっすらとだが弱点らしき箇所が光って見える。
それに残りのHPも数値化されている、これなら勝てそうだ。
俺は狙いを定め、大きく振りかぶって弱点目掛けてパンチをかました。
だが、さすがは前世で運動をしていなかった俺、同じ側の手と足を出して盛大に空振って転び、
急いで立ちあがろうとしてゴブリンの下顎に頭突きをかまして倒すという、トム○ェリ顔負けの
グダりっぷりを見せてしまった。
痛え…、でもゴブリンは消滅したのでどうやら勝てたっぽい。
ともあれ命は助けたんだ、もういいだろう。
「あ、あの、助けてくれてありがとうございました」
「あっ、いえいえ、怪我とか大丈夫ですか、お姉…さ…」
思わず目を疑った。眼前には前世で大好きだったキャラと瓜二つの美女。
やばい…。俺の推しにそっくりな、ヒロインに出会ってしまった。
*****
「助けてくれて本当にありがとうございました!」
俺たちは近くの岩に腰をかけて話をしていた。
まさかとは思ってたけどいきなりヒロイン参戦。
それにしてもこの人可愛い、ピンク髪ツインテールとかいう俺の理想を詰め込んだルックス。
思わず見惚れそうになるが、とりあえず情報収集をしなければ。
「あ、ああ。それにしてもなんであんなところに?」
「実は私、冒険者になりたくて村から飛び出してきたんです。
それでとりあえず街まで行こうと思ってたんですけど、途中で襲われちゃって…」
出た、ご都合展開。
こういうのが苦手なんだよ、苦手なんだけど……おっぱいでっか。
信条と理性で揺れ動いてる自分が憎い。
「あの…、もし迷惑でなければ、次の目的地までご一緒させてもらえませんか!」
追い討ちに来たああ、この流れ。
正直断りたいんだが、如何せん俺の前世の推しに似過ぎてる。
まあ豪に入っては豪に従えって言うし、仲間がいた方が序盤は色々と都合がいいだろう。
下心なんて微塵もない、微塵も。
「い、いいよ、その代わり色々教えてもらいいたことがある。
とりあえずよろしく、えっと…」
「メイ、私はアリアス・メイ。あなたは?」
名前、どうせならかっこいい、中二病ネームにしよう。
「ル、ルイン。よろしく」
「よろしくね!ルイン!」
そう言うと俺の手を握ってきた。フォークダンスの時ですら手をつなげなかった俺が…。
悔しいがおっさん、今回ばかりはありがとう。
少し休んだ後、俺たちは街へと向かった歩き出した。
目的地は、”最初の街 エアスト”。
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