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第1話 ギャルに脅される

「この小説の作者って、キミだよね?」


 放課後。

 楠原伊月くすはらいつきは呼び出された屋上でそう告げられた。


 スマホを見せつけて笑みを浮かべる少女はクラスメイトの篠宮双葉しのみやふたばさん。

 明るい色のゆるふわパーマが特徴的な今風ギャルだ。性格は明るく天真爛漫。当然、カースト上位のリア充様。

 陰キャでボッチでオタクな俺にはトリプルパンチで苦手意識のある相手だ。


「……な、なんのことですか? 知りませんよそんな小説」

「あ、そうやって知らんぷりするんだ〜。そうなんだ〜。もう冷や汗ダラダラでバレバレなのにねっ」

 

 どうやらコミュニケーションスキルに差がありすぎるらしい。

 動揺が軽く見透かされている。


 それでも会話の手綱を握られまいと気丈な態度を保とうとしていたが……


「じゃあ音読しちゃおっかな〜」

「え……!?」


 それも一瞬で崩れ去る。


「あーあー、こほん。’あれは桜の舞い散る春のことだった——‘」

「わー! わーわーわー! それだけはマジで勘弁してください! すみません! しらを切ろうとしてすみませんでした!」


 必死の形相で呼びかける。すると篠宮さんはニマっと笑って、読むのをやめた。


 マジでやめてくれ、肝が冷えた。寿命が縮むぞ。


「やっぱり、キミだった♪」

「…………くっ」


 もはや誤魔化しはきかない。


 篠宮さんが見せたのはたしかに俺が趣味で書いているweb小説だった。


 苦虫を噛み潰す俺と対照的に心底楽しそうな篠宮さんはスッと距離を詰めてくる。


 甘い香水の香りが鼻をくすぐった。


「ねぇねぇねぇ、これって、このヒロインの子ってさ、神楽坂さんだよね?」

「なっ!?」

「やっぱり。ねぇ好きなの? 好きなんだよね?」

「そ、それは……」


 詰め寄ってくる顔の近さと、心中を言い当てられた恥ずかしさで急激に顔が熱くなる。


「好きなんだ〜! ウケる〜ww」

「〜〜〜〜〜っ」

 

 俺はただ羞恥に悶えることしかできなかった。

 

 思う存分笑った篠宮さんは、改めてスマホを掲げてみせる。


「楠原くん」

「な、なんですか……」

「これ、神楽坂さんにバラされたくないよね?」

「……っ、それは、もちろん。あたりまえじゃないですか」


 俺が書いていたのは現実にいる片想いの女の子をヒロインのモデルにしたラブコメ小説だ。


 こんなの本人知られたら、とてもじゃないが生きていけない。


「それなら、わかってるよね?」

「…………」

「あの子にバラされたくなかったら、私の言うことなんでも聞いてね♡」

「そ、そんなっ…………」


 これは完全に脅しだ。しかしこの状況では俺は屈するしかない。

 くそっ、なんでこんなことに!?

 どうしてあんなオタクしか読まないような小説にリア充ギャルである篠宮さんが気づいてしまったんだ……!?


 ああ、思えば今までは幸せな陰キャ人生だった。友達なんていないけど、虐められることもなく、届かない恋をしながら妄想を文字にして……。

 今日、ついに神様から見放されてしまったらしい。


「一体、俺になにを、させるつもりなんですか……!?」


「えー?」


 問いかけると、篠宮は勝ち誇った表情で緩く返答する。

 

「そんな怖い顔しないでよ〜。大丈夫。私ってべつに悪い子じゃないし、危険なことはさせないよ? もちろんお金を要求したりとかもしないから」


 ないない、と安心させるように手を振る篠宮さん。


「そ、そうですか……」

「うん♪」


 少しだけ安心した。

 篠宮さんの笑顔は、悪意ばかりで出来ているものには見えない。むしろ無垢な悪戯っぽい。

 いや、こんな脅しをしてくる時点で信用できないしタチ悪すぎだけど……。


「そうだなぁ、まずはなにしてもらおうかな〜、うーん……あ、そうだっ!」


 篠宮さんは顎に指を当てて考え込んだ後、ポンと両手を合わせる。



「これから、私とエッチしよっか♡」



 それは小悪魔の誘い(強制)だった。

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