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5.賭け狂いましょう!!

「ごめん、お金なくなっちゃった」


 街の繁華街に戻ってきたところで、ハイル先輩がそんなことを口にした。


「……………………はぁ?」

「さすがに君のために散財しすぎたかもね。てへぺろ」

「え、ただの馬鹿じゃないですか」

「だって⋯⋯可愛い一番弟子のためなんだよ~」


 街で立ち寄った武器屋で剣を新調したあとのことだった。


 俺も正直、彼女の資金源が不明すぎて不審に思っていたのだが、まさかこんなところでボロが出るとは思ってなかった。


 そう簡単に貧乏人は金持ちに養ってもらえないものなのだ。

 世の中はそう甘くない。


「まあ、俺も甘えすぎましたし⋯⋯なんとかしますよ」

「ほんとに? よし、そうと決まったらこの街を出て隣街へ行こうよ」

「隣街? なんでですか?」

「君、元ギャンブラーでしょ?」

「?⋯⋯はい」

「そういうことだよ」


 俺の辞書に新しい項目が追加された。

 ハイル先輩について。


 先輩が曖昧な表現をするときは、絶対にロクなことがない。


 

  ***



「勝ちました」

「すごいね(きみ)⋯⋯今日できっと一生分の運を使い果たしてるよ」


 隣街――エルダール王国の小都市――スフィアに連れてこられた俺は、彼女の代わりにギャンブルを打っていた。そして何故か今日はとてつもなく勝ちまくっている。なんか怖い。


「これでとりあえず、僕の服と武器代は取り戻せましたね」

「そっか、これでチャラだね。でもせっかくだからもっと稼いでこうよ。今後の資金が危うくなったときのために」

「ものすごく嫌な稼ぎ方しますね」


 十六歳の少年に代打で賭け事させて稼ぐ成年済みのエルフって一体⋯⋯


「君、その歳でギャンブルの才能があるの?」

「ここの賭場の人たちが弱いだけなんじゃないっすかね」


 チップが移動していくのを眺めながら、そんな舐め腐ったことを言ってみる。


 なぜだか今日は面白いくらい勝ててしまう。応援があるからだろうか。

 応援されるギャンブラーもどうかとは思うが。


「すごい⋯⋯何が起きてるのか全然わかんない」

「純粋無垢でいいと思いますよ」


 こんな落ちぶれた大人たちの遊戯のことなど、彼女には知ってほしくない。所詮この世界のギャンブルは一発逆転を狙った貧乏人の挑戦か、人を嵌めることを楽しむ金持ちの遊戯でしかないのだ。




「少年、ちょっといいかな?」


 テーブルを移動しようとした俺は、背の高い男に肩を叩かれた。

 糸目がちで、一見温厚そうな印象も受ける優男の外見だ。


「なんですか? 僕は別にこの人の代打で打ってるだけなんですけど」

「そうなの?」

「うるさい」

「いや、君の年齢のことを言いたいんじゃない。君のその実力、どこで培われたものなのか知りたくてね」


 改めてみると、その男はその会場の中で一番裕福そうな見た目だった。大人の余裕あふれる微笑み、高そうな材質のジャケット、首に光るネックレス、左手に二個、右手に三個はめられた指輪。探せばその特徴はいくらでもあった。


「僕は⋯⋯もともと貧乏で、稼ぐ手段がこれしかなかっただけです。両親ももう死んでるので」

「なるほど。道理で必死なわけだ」


 必死⋯⋯なのか、俺。


 確かにパーティを追放されてからの三週間、各地を転々としてギャンブルの腕を磨いてきたが、生きるために必死だったとは言い難い。神様が自分に少しだけ運を恵んでくれれば、逆転の余地はあると踏んでいただけだ。


 それがこの男には、そう映るらしい。


「ひと勝負しないか? 手始めに君は六千エルドで」

「いい、ですけど⋯⋯」


 そうか、と彼の目が妖しく笑う。

 俺の嫌な予感が、外れることを祈った。


 その実、彼はやはり俺より上手だった。

 一戦目、二戦目と俺を勝たせて油断させたのだ。


 彼が本気でないことなど知っていたはずなのに、俺は彼の賭ける金額に目が眩んで三戦目に挑んだ。


 その結果、三戦目以降はペースを持っていかれてしまい取り返しがつかなくなった。

 支払い金額はとうに俺の手持ちを超えていた。


「十万エルドの借金だ、少年。ここでやめておくか?」

「⋯⋯そうします」


 ここで俺に退却を勧めただけ、彼は善良的だろう。

 これ以上の借金は重ねられない。


「あの、猶予期間は⋯⋯?」

「ほう、子供の割には随分ドライな反応だな」

「慣れてるので」

「そうだな。⋯⋯と思ったが、いいことを思いついた。少年、君本職は剣士だろう?」


 腰に携えた剣を見て、彼は言った。


「ええ、まあ」

「そこのエルフのお嬢さんもか?」

「そーですよー」


 俺が負けて不貞腐(ふてくさ)れているのか、先輩はテーブルに突っ伏して適当な返事をかました。なんとも無責任なことだ。


「では、君たちに個人的に依頼があるのだが⋯⋯受けてはもらえないか?」

「依頼、ですか」

「ああ。達成してくれれば借金は免除しよう。もちろん、報酬はまた別で用意する。どうだ?」

「うーん⋯⋯どうします、先輩?」

「んー? それは弟子くんが決めればいいんじゃないかなー」

「ですよね」


 どうやらこの人は自分に関係ないことには無頓着らしい。

 らしいといえばらしいのだが。


 ともかく依頼の方は受けておいて損はなさそうだ。

 依頼内容にもよるが、借金全額免除に別途報酬つきは条件としてはおいしい。


 それに、彼女の言う「修行」の一環にもなると俺は勝手に思っている。


「受けます。それで弁償させていただけるなら」

「そうか、それはこちらとしても助かる。では、肝心の内容についてだが⋯⋯」


 

 このときの俺は、まだ気づいていない。

 この男が未だ、俺という人間を弄んでいることを。

 

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