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35.単騎迎撃

ハイル先輩のほぼ初めてのガチ戦闘です。見納めください。

 夜の地下深くで、火花が散っていた。


「クソっ、こいつ……!」


 魔晶石まであと一歩のところでハイライトに足止めされた魔族の少年は、彼女に苦戦を強いられていたのだ。というのも、地下と狭い通路という大剣を振るうには不利な条件下での戦闘を彼は想定していたからだ。


 だが現実は違う。


(この斬撃……魔法で防御できないだと!?)


 エルフの少女が両手から放つ紅と蒼の斬撃は、彼が生成した血の爪はおろか、魔法で生み出した防御壁すら切断してくる。


 つまるところ、防御という手札は彼には与えられていないのだ。

 回避行動を余儀なくされた彼は、予想とは裏腹に狭い空間で追い詰められていく。


「こんな……こんなものが魔法であっていい筈がない!!」


 魔族の少年は激昂し、両目を斜に構えて前傾姿勢をとる。


 牽制目的で飛ばされた斬撃の間を縫って進み、彼は直線の通路で彼女と距離を詰めていく。彼女の手の動きだけ見ていれば軌道は読める。最後の蒼い斬撃の下をくぐり抜けて、その場で直立していた彼女に肉薄する。


「っ、くたばれ!!」


 自らの血でリーチを拡張した爪で、彼はハイライトの喉元を狙う。


 が、それより速く形成された防御魔法が阻む。

 力を込めてそれを貫くよりも、彼の爪が折れる方が先だった。


(こいつの魔法……質が本人の魔力量と比例していない?)


 魔族の少年は爪を失った手を引いて後退する。


 ハイライトは身を引く彼を見て追うことはせず、その場で斬撃を放ち続ける。


 彼の目的は魔晶石の破壊。

 彼がそう命じられている以上、ここで後に退くことはしないだろう。


 だからこそ、彼女はここで防衛戦に専念できる。


「そんなに逃げないでよ。キミも走り回ってると疲れるでしょ?」

「黙れ……図に乗るな!!」


 後退した少年は血で生成した爪を振りかざす。だが先程とは打って代わり、鋭利な爪の先端は弾丸のごとくハイライトを目掛けて射出された。


「へぇ……芸が細かいね、三下くん」


 瞬間的に召喚した大剣でそれらを弾き飛ばした彼女は、好戦的な笑みを浮かべる。少年の見せた奥の手にも彼女の余裕の表情は崩れない。遠距離攻撃に切り替えた少年の様子を窺いつつ、ハイライトは手にした大剣を大きく振り下ろす。


「せーのっ」


 石畳の床を盛大に破壊して、生み出された斬撃は弧を描きながら進む。

 少年は自らの身の丈ほどの大きさの斬撃を、咄嗟に身を捻ってかわす。


 そこにハイライトは追撃が加わる。


 両手同時に放たれた斬撃。

 少年はそれらを迎え撃つ構えをする。

 

 が、彼女の狙いはそこではない。


「――結合(チェイン)


 少年の目前まで迫った二つの斬撃とハイライトの掌から伸びた光が繋がり、それはまるで――光の鎖のように、彼を拘束する。


「何っ!?」

「つかまえたっ!」


 上半身を鎖のような光で拘束された少年は、身動きも取れずその場で立ち尽くした。彼の唯一の武器である爪が使えなくなった今、彼女に太刀打ちできる手段は残されていない。


 そしてこの鎖の持つ力次第では、彼は完全に『詰み』なのだ。


「どうする三下くん? 無様に命乞いするなら今だよ?」

「フッ……馬鹿を言うな。今さらその必要はない」


 彼が圧倒的不利に見えた、この瞬間。

 すでに彼の勝利への算段は整っていた。


「――お前の負けだ!!」


 ハイライトの目の前まで、()()()()()()()()は一瞬にして迫っていた。


 今度こそ勝利を確信したという表情で少年は鋭利な爪を血で作り出し、判断の遅れた彼女の懐に飛び込む。


 爪がハイライトの身体を貫通して終了……かのように見えた。

 だがやはり、最後まで彼女の余裕は崩れなかった。


「がはっ……、」


 次の瞬間、ハイライトの突き出した大剣で、少年は壁に(はりつけ)にされていた。

 剣の刃に貫かれた彼の腹から、血がドクドクと淀みなく流れ出ている。


「な、何故……だ」

「幻影の魔術で『身代わり』を作ってみたまでは、まあよかったかな。でもそれなら、不意打ちくらい背後からやるべきじゃない?」


 彼を壁に磔にしたまま、彼女は依然剣の柄を握っている。

 予想を裏切られて困惑する少年を見据えて。


「キミのその魔術を知ってなかったら、危なかったかもね。いい隠し玉だったよ」

「っ、ふざけるな!! 俺はまだ……」


 その瞬間、少年の頸をハイライトの手が包み込む。

 そしていとも簡単に、静かに、一筋の閃光が彼の頸を落とした。


 頸が胴体から分離した身体は力を失い、まるで消し炭のように灰となって崩れていく。


「よし、任務完了っと」


 壁に突き刺さったままの大剣を、ハイライトは引き抜く。

 灰となって崩れかかっている彼の残りかすを視界の端で見つめながら、彼女は一つ溜息をついた。


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