表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/49

32.諸刃の剣

 それから俺は、フェルトと一緒にノアさんに謝罪しに行った。

 寛大で器の広いノアさんは全然許してはくれたけど、流石に肝が冷えた。


 まさか、あそこまで盛大に環境破壊してしまうことになるとは。


「はぁ……マジで焦った……」

「あはは、律儀だね君は」


 土下座をかましてきた俺の横で、レリアは和やかに笑う。

 貴族特有の余裕とでも言うのだろうか、彼はとても俺なんかと同い年とは思えない。


「ところで、さっきの子って街のパン屋さんの店員じゃなかったっけ?」


 再び宿舎のデッキに戻ると、レリアが訊ねてきた。

 さすがは聡明な領主の息子、記憶力は半端じゃない。


「まあ、そうだけど……今はわけあって、魔法使いを目指してるって感じだな」

「へぇ、なるほど……僕、あそこのパン好きだったんだけどな〜」

「パン屋はなくならないよ、たぶん」


 先輩が例の『宿題』とやらをサボっていなければの話だけど。

 ……そういえばずっと捕まったままだけど、そこは大丈夫なのか?


「そうだ、ねぇルフト君、暇なら僕と手合わせ願えるかな?」


 そして唐突に、レリアはそんなことを言ってきた。


「手合わせって、俺と?」

「そうだよ。君も剣士なんだろう?」

「それは、まあ……」

「なら決まりだ。大丈夫、僕もそこまで強い方じゃないし」




 というわけで、俺とレリアの模擬戦は始まった。


 レリアは俺と同じく、剣一本で戦うシンプルな剣士スタイル。


 ただし、俺の剣はロイファーさんから譲り受けた紅の直刀。

 彼の剣は刀身の細いいわゆるレイピアだ。


 お互い搦手がなければ、単純な剣術の技量だけで勝負がつくこの試合――。

 果たして、俺に勝機はあるのだろうか?


「一応、魔法・魔術もありのフリーの打ち合いでいこう。必要以上に追い詰めるのは、お互いなしで」

「わかった。……じゃあ、始めよう」


 互いの視線が交わる。

 俺の発言を合図として、既に試合は始まっていた。


 俺もレリアも、まだ剣は抜かない。

 柄に手を添えたまま、ジリジリと睨み合いを続ける。


 初速が命の剣士同士の戦いだ。

 出方を窺うような状況になれば、先に動いた方が有利な分カウンターを食らいやすい。


「おや、来ないのかい?」

「俺は自分から攻めるタイプじゃないんでな」

「そう……なら、先攻は取らせてもらうよ!」


 レリアが刀身を見せた。

 素早く繰り出された一撃が目の前を横切る。


 俺は咄嗟に剣を抜き、それを弾いていた。


 自ら攻めに入った、レリアのレイピアによる連撃。

 突きと払いの入り混じった剣戟の応酬を、俺は反射神経だけでなんとか防ぎ切る。


 まだ、見切れる。ついていける。

 あいつらと一緒に戦ってきた経験が、まだこの腕に残ってる。


「堅実な守り……まるで盾でも持ってるみたいだ」

「っ、御世辞の言葉どうも……!」

「でも、守ってばっかりじゃ、そっちもつまらないだろう!?」


 直後、レリアが後ろ向きに飛んだ。

 いきなり開かれた大きな距離、これの意味するところは――

 



「【凍てつく氷雪の花弁よ、影をも穿つ刃となれ】――〈氷刃(ひょうじん)〉!!」

 



 短文詠唱からの、魔法による遠距離攻撃。


 レリアの周囲に出現した無数の氷の刃は、そのまま俺に向かって直進してくる。


(……っ、防ぎきれないっ!!)


 こっちは剣一本に対して、相手は遠隔攻撃とレイピアによる高速斬撃。


 模擬戦と言っていた割には、どうやらレリアは本気のようだ。


 俺は今、圧倒的に、手数で押し負けている。一撃一撃はそこまで重たくないものの、捌ききれなかった場合のダメージの蓄積は大きい。


 そして何より、現状、対抗手段がない。

 守りに徹する他に、俺にできることはない――


「だからって、諦めてたまるかよ……!」


 俺はたしかに、前のパーティでも自ら最前線に立つようなことはしてこなかった。


 身の程を知っていたから、と言われればそうだ。

 前線に立つ味方の援護こそが、剣士その2である俺の役割だった。


 けれど、この状況でそんな言い訳は通用しない。


 単純な戦闘力が試される、一対一のぶつかり合い。

 味方の援護なんてものはあてにできない。


 今は嫌になるほど優秀な前衛も、ピンチのときに駆けつけてくれる先輩もいない。

 ――戦況を変えられるのは、頼りになるのは――自分自身の経験と能力だけだ!




「【常闇を照らす紅き灯火よ、光と闇をもたらさん】――〈発火魔法(イグニッション)〉!!」




 気づいたら、俺はそう叫んでいた。

 左手から発した火炎が、迫りくる氷の刃を一瞬にして溶解する。


 咄嗟に口にした初級魔法。相手が氷なら、こちらは炎だ。


「なるほど、そっちは炎の初級魔法か。これは……面白くなってきたって感じだね」


 レリアの隙のない連撃が、容赦なく続く。

 俺は炎を駆使して防ぎつつ、確実に反撃の機会を探る。


 発火魔法イグニッションは確かにこの盤面では強力だが、いかんせん初級魔法だけあって出力が低い。


「さあ、それでどうやって切り抜ける?」


 余裕そうなレリアの表情は、依然として涼しげなままだ。


 いま俺はきっと、彼に試されているんだ。

 この盤面をここからひっくり返せるかどうか。

 剣士として、ここから成長できるかどうか。


(やってやるよ……俺だって!)


 相手と一定の距離を保ちながら、俺は目を閉じる。

 呼吸を落ち着かせて、思考をクリアにする。


「【神々の威光よ、我が(つるぎ)に宿りて】――」


 技術で勝てないなら、発想で勝て。

 少ない引き出しから、役立つ経験を引っ張り出せ。


「【常闇を照らす紅き灯火となり、光と影をもたらさん】――」


 もう、脇役ではいられない。

 この舞台の主役は、俺だ!!




「――〈魔法付与(エンチャント)発火魔法(イグニッション)〉!!」




 手にした剣に、火炎が宿った。

 



「――――!?」


 視界全体を、炎の障壁が包み込んだ。


 刀身に付与した火炎は、一瞬、俺の想定していた何倍もの威力と効果を発揮した。龍のごとくうねった灼熱が迫っていた氷の刃を一掃し、形勢を一気に逆転させる。


「あはは……そんなのある? 普通……」


 一瞬だけ発現した炎の渦に、レリアは圧倒されている。

 遠隔攻撃の手段を奪われ、彼は呆然と立ち尽くす。


 けど情けないことに、一番驚いていたのは俺だった。


「な、なんだよ、今の……」


 燃え尽きた刀身を地面につける。

 魔力切れからか、それ以上の出力はしなかった。


 だがはっきり言って、今の威力はおかしい。


 俺は元々魔力量の少ない上に、今使ったのはただの初級魔法だ。魔力操作に慣れていない俺の魔力が、何らかの理由で一時的に暴走したとも考えられるが……


「君、今の……どうやって?」


 当たり前のようにレリアに訊ねられ、俺は言い淀んだ。


「今のは、その……偶然出来た感じで」

「じゃあ今、何をイメージした?」

「イメージ?」

「そう。魔法は想像(イメージ)だからね。例え君が魔法に慣れていなくても、発想とそれを現実化する技術だけのさえあれば、今みたいな化学反応は起こりうるものだよ」


 魔法の強さは、扱う者の発想によって左右されることもある。ハイル先輩もたまに、そんなようなことを言っていた気がする。


 だとすれば、今のは、俺のイメージが具現化した炎?


「……『一発逆転の切り札』、みたいなのをイメージしたかもしれない」

「なるほど……。それで、瞬間火力に重きが置かれたわけか」

(まあ、そのせいで今は魔力切れだけど……)


 要するに、今のは魔力消費を度外視した一撃なわけだ。

 燃費が悪い代わりに、盤面をひっくり返すだけの力を有した諸刃の剣。


 今まで考えたこともなかった、俺の持つ武器。


「でも今のは、簡単にできることじゃないね。才能の一種かも」

「そう、なのか……」

「うん、誇っていいと思うよ。この僕が保証する」


 剣を鞘に納めたレリアは、そういってフレンドリーな笑みを浮かべた。


「俺の、才能か……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ