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スワンの初恋  作者: えいぷりる
6/12

涼介③

麻里子への想いを自覚した俺は、ムッシュー・マフタンの目を見つめて招待の礼を伝えると、俺の気持ちを読んだのか、


「真野君とは永い付き合いになりそうだ。また会えるのを楽しみにしている」


そう言って、車に乗り込む俺達を見送ってくれた。


発車するなり、パートナーの件について麻里子が話し始めるが、向かい合って話した方がいいと思った俺は、近くの公園の駐車場に車を停めた。


「私としては、このまま継続してお願いしたいと考えています。麻里子さんはどのように思われていますか?」


「私は、私よりも涼介さんのパートナーに相応しい方は沢山いらっしゃると思いますので、出来ましたら今日で終わりにしたいと思っています」


終わりにしたい…それは困る!


「どのようなところが相応しくないと思われたのでしょうか?」


「私のようなお子様よりも、もっと大人の落ち着いた方の方がよろしいかと…」


「大人…というのは年齢的に、ということでしょうか?確かに私は貴女より8歳年上です。相応しくないと言うのなら、私の方が貴女に相応しくないと言えると思います」


「いえ…年齢は関係ないです。社会的に…といいますか、立場とか…色々です。貴方のような素敵な方のパートナーを私のような者が務めたら、貴方が笑われます!」


「私のような…と言われますが、私は誰よりも貴女を素敵な女性だと思っています。語学に堪能で、話題も豊富。笑顔が可愛くて、ご家族やマフタンご夫妻、生徒達にも愛されている。こんなにも素晴らしい女性と知り合えたことに感謝しているというのに」


「でも、ダメなんです!だって…だって……このままでは、このまま貴方の隣にいたら、貴方のことを好きになってしまいそうで、怖いんです!」


えっっ。今、何て言った…?


「好き……?」


「ええ。困るでしょ?こんなお子様に好きになられても?」


「えっと…何が困るのでしょうか…?むしろ、私としては好きになってもらいたいのですが…」


大歓迎です!!


「好きって、恋愛感情の好きですよ!お友達とかじゃなくて、恋人同士の好きですよ!」


「ええ。もちろんです。私は恋愛感情で麻里子さんが好きです」


信じられない…って顔してる。信じてほしい…。


「あっ違いましたね。抱きたいと思っていますので、肉欲込みの感情です」


男性に興味なさそう…って夫人が言っていたから、思いきってストレートに伝えた方が良さそうだ。


「貴女が好きです。本当はもっとロマンチックな、思い出に残るような場所でお伝えしたいと思っていたのですが、仕方ありません。気持ちを伝えずにいたために、お会い出来なくなるなんて本末転倒ですからね」


麻里子の両手を握り、俺は出来る限り誠実そうに見えるように笑った。


「安心して私のことを好きになってくださいね。楽しみに待っています」


今日も自宅玄関まで送り、ご家族に挨拶する。


「麻里子さんと話し合いまして、パートナーの件は継続することになりました。ビジネスではなく、永続的な関係を前提にお付き合いを深めていきたいと、お互いの想いを確認し合いましたので、温かく見守っていただけたらと思います。正式な挨拶はまた後日に改めて伺いたいと思いますが、今後ともよろしくお願いします」


進む方向は決まった。麻里子の気持ちが固まるのを待ちつつ、準備をしていこう。



俺の親には『結婚したい相手』がいることだけ伝えた。彼女がこの春に社会人になるので、挙式や入籍はもう少し先の話になると思うが、もし、俺に縁談話が出た時には、断るように頼んでおく。伯父と従姉妹の華子姉にも仕事の件と合わせて伝えておく。彼女との未来のために、真野自動車で懸命に働くつもりだと。姉と光希には伝えると同時に口外しない約束をさせる。麻里子の気持ちが固まるまでは、余計な口出しはしてもらいたくない。


マフタン夫妻には、お茶会の翌日にお礼のカードを投函し、そこに『永続的な関係を前提に』お付き合いすることになった…と書いたら、すぐに呼び出された。


麻里子に「好きになっちゃうから、もう会えない」と言われたので、「貴女のことが好きなので、遠慮なく私のことを好きになってください」と伝えたことを話すと、ムッシュー・マフタンに爆笑された。あまりにも幼すぎる恋だと!時間をかけて、ゆっくり育んでいくつもりなので温かく見守ってもらえるようにお願いすると、マダム・マフタンに「私が元気なうちに麻里子のウェディングドレス姿を見せてね…」と泣かれた。ええ…俺も見たいです。


それからは『清く正しい男女交際』を心掛けた。

金曜日の夜か土曜日、仕事関係のパーティーがある時はパートナーとして同伴してもらう。ない時は、二人で食事をしたりコンサートや舞台を観たりデートをする。日曜日の午後はマフタン夫妻のお茶会ヘ俺の車で行き、夕食を麻里子の家で家族と一緒に食べる。最初の時こそ俺達二人しか招かれていなかったが、マフタン夫妻のお茶会は常に様々な業界の様々な立場の人が招かれていて、俺にとっては学ぶことや得るものばかりだった。精神はゴリゴリに削られるが…。


麻里子の家族とも良好な関係を築けている。父親は複雑そうな表情をすることもあるが、母親と兄嫁…陽菜ちゃん…はいつも大歓迎してくれる。陽菜ちゃんの作る料理はとても美味しい。10年日本を離れていた俺には懐かしい故郷の味ばかりで、毎回楽しみだった。それ以上に感謝したいのは、兄の駿さんと出会えたことだ。駿さんと駿さんの親友で研修医の柊平との出会いは、行き詰まり気味だった俺の視野を広げてくれた。


駿さん…歳下だけど兄になる予定だからと「駿さん」「涼さん」と呼び合うようにした…は、心の大きい人だ。「飯田先生のところの駿君」と地元密着の家業込みの目で周囲から見られることに反発しながらも、親の仕事の偉大さを理解し、尊敬していて、継ぐための努力を惜しまない。また家族想いで、妹の麻里子が膝を怪我した時も、名医と評判の柊平の父親に診てもらいたい!と同期だった柊平に土下座して頼んだ…という逸話がある。ちなみに、それがきっかけで二人は親友になったそうだ。その柊平も、偉大な父親に反発を感じながらも同じ道を歩むことを選んだ。結果として親と同じ道を歩んではいるが、それは自分が選択したことで、親は関係ない。自分の道は自分で拓いて進むのだと言いきる。「真野の御曹司」として育った自分がいかに甘ったれで、覚悟が足りなかったか…自らの未熟さに今さらながら気づいた。それ以来、仕事への想いが自分の中で変わった。俺が変わったからか、周りもなんとなく変わった。それが良い方向ヘ進むといいのだが、それは分からない。これからの俺次第だ。


少し前に麻里子が膝の話をしてくれた。話してくれるまで待とうと思っていたのだが、待ちきれなくて、話すように仕向けてしまった。話し終えた時には大号泣してて、家族を心配させてしまったけど、麻里子の口から聞けてよかったと思っている。お義父さん…こう呼ぶようにお義母さんと陽菜ちゃんから言われた…には、話すことで心の中の整理が出来るし、泣くことで心が浄化されるから、話を聞いてくれてありがとう!と言われた。本当にこの家の人達は医者というよりも一人の人間として素晴らしい人達だと思う。


春…卒業式には袴姿の麻里子と写真を撮り、河川敷で花見をした。新年度になり、新・社会人の麻里子も任される仕事の増えた俺も、環境が変わって戸惑うことや悩みが増えることもあったが、新たな目標が出来たりもしていた。そんな中、その知らせは俺達の元に届いた。

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