涼介⑥&麻里子⑥
私のこの悩みはマリッジブルーというのだそうだ。地元の友人達が教えてくれた。結婚式の案内状を送ると言ったら、「集まるから手渡し!」と言われ、涼介さんの話を散々させられている。みんな独身なのによく知ってるね…と感心していたら、小説にも雑誌にも書いてある!と言われ、やっぱり麻里ちゃんそっち方面は疎いままなのね…安心したわ!だって。夜の事もたくさん聞かれて…結果、みんなの方が大人でした…。
その話が頭から離れなくて、次に涼介さんに会った時、おもいっきり挙動不審な私は、涼介さんに質問攻めにされて…全部俺が教えるから何も心配しなくていいよ…って言うけど、その笑顔がとても妖しいのですが…。
結婚式当日、お迎えの車にお母さんと一緒に乗る。お父さんは陽菜ちゃん達と一緒に後から来る予定。愛ちゃんも一緒なので、こちらもハイヤーが迎えに来てくれる。兄は、愛娘に『愛』と名付けました。とても素敵な名前です。
神前式に合わせて純白の白無垢に綿帽子。古典的な鶴の刺繍のこの装いは、お母さんと私が一目で気に入ったもの。私が用意してもらっている間に黒留袖を着付けてもらった母と、やっぱり素敵ね…と。
ホテル内の式場で行われた神前式は厳かな雰囲気で、紋付き袴姿の涼介さんの隣で心洗われるような気持ちになった。あまり神様とか信じたことなかったけど、やっぱりいるのかな…。こんな日は信じたくなる。
日本の結婚式に興味を持ったマダム・マフタンのご期待に答えようと、今回、特別に花嫁の控え室を広い部屋にしてもらった。マダムや今日のために来日してくださったお姉様方、私の友人達が集える部屋を用意してもらい、私はその部屋の片隅で着替えたり、メイク直しをすることになっている。すっぴんの幼い頃からの付き合いなので、メイク途中を見られるのは平気だし、着替えも裸を見られるわけではないので…流石にそれは衝立の中。むしろ大変だったのは、メイクや着付け担当の方達で、マダム達の英語での質問攻めに困っていた。
そのため、神前式から披露宴までの間の時間を多く取り、さらに、披露宴の後もここで休みながら、メイクオフする私と一緒に過ごせるようにしてもらった。これは、ホテルの宴会場フロアを一日貸し切りにしたから出来たことで、招待客用の控え室も広めに作って、涼介さんはそちらで伯父様達とお客様をおもてなしをする段取りになっている。
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会場入口でお客様をお迎えする。媒酌人をお願いした佐倉ご夫妻、俺の両親、麻里子の両親。そして、紋付き袴の俺と赤い打掛の麻里子。金銀の華やかな刺繍に赤い髪飾り。日本人形のような愛らしさだ。
媒酌人である佐倉頭取の仕切りにより、伯父…真野自動車社長の挨拶に始まり、麻里子の上司である『エマ・ダンススクール』の主宰者、藤崎恵舞先生の挨拶、ムッシュー・マフタンの乾杯の発声。ここで、仕事の付き合いで招かれた取引先のお偉いさん達は驚いている。ただのバレエ教師と聞いていた新婦が、今だに日本の経済界に強い影響力を持つマフタン夫妻が娘のように可愛がっている女性なのだから。とたんに麻里子を見る目が変わる。現金な世界だ。しかも、よく見ると、麻里子と話している女性達…ロンドンのIT企業社長にスイスの老舗時計メーカーの社長夫人、フランスのアパレルメーカーのオーナー…と、知る人ぞ知るヨーロッパ経済界の有力者達なのだ。しかも席次表の肩書は新婦恩師・新婦友人と書いてあるだけ。そんな彼女達が揃って『プティ』と呼んで可愛がるこの女性は何者?って感じになる。
はぁ…伯父も父親も性格悪っ。この驚いた顔が見たくて、麻里子の情報を今日まで流さずにいたんだよね~。
披露宴そのものは順調に進む。俺の学生時代のバスケ仲間によるスピーチや、光希や麻里子の教え子達のダンスがあるだけで、後はゆっくり過ごしてもらおうと弦楽四重奏の生演奏をずっと奏でてもらっている。途中、俺はグレーのモーニングコート、麻里子は純白のドレスにお色直し。エンパイアラインのレースが綺麗なドレスは小柄な麻里子にとてもよく似合っている。会場が広いので、ベールを長めにして、入場の時に映えるようにしてもらった。デザートもバイキングにして、麻里子の友人達にはたくさん食べてもらい、お偉いさん達には席までカートで運んでもらって選んでもらうことにした。
式の最後、父親の挨拶と俺の挨拶。麻里子が泣かせる演出を望まなかったので、お互いにお礼の気持ちを込めて、花束を贈った。
式の後も、麻里子の控え室に女性陣は集まり、ドレス姿の麻里子を囲んで楽しそうに話をしている。披露宴の間は礼儀的に挨拶以上の話は出来ないお偉いさん達が、終了後、ムッシュー・マフタンに突撃するであろうことは予想出来たので、こちらも控え室を用意して、交流の場を設けることにした。これもお偉いさん達に恩を売る気満々の伯父達が仕組んだことだ。「腹黒」って言ったら、まだまだ「お坊っちゃま」だなぁだって。ムッシューには予め話をして、麻里子のお祝いの席だからと大目にみてもらう許可を取ったけど、こんなワザを身につけられる日が俺にも来るのだろうか…。
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披露宴が終わって控え室でお着替え。ここでもマダム達のおしゃべりは続いている。兄と陽菜ちゃんは先にハイヤーで帰った。涼介さんが愛ちゃんのために行きも帰りも手配していたのだ。今日の愛ちゃんは大活躍。式の間は兄の腕の中でぐっすり眠り、披露宴は用意していたベビーベットで最近覚えた寝返りを披露して、みんなに可愛がられていた。ありがとう愛ちゃん。
マダムとお姉様方をお見送りすると、大樹君が呼びにきた。涼介さんが酔い潰れていると…。
お酒が強い涼介さん。滅多にお友達の前で酔って乱れることがないらしく、今日は潰れるまで飲ませる!とお友達一同決めていたそうで…。最後の挨拶があるからと、終了後の控え室で潰しにかかったそうなのですが、お友達も一緒に潰れてしまったそうで…。慶介お父様も伯父様もホテルの方に頭を下げて謝られて、とりあえず、空いている客室をお借りしてお友達を運び、私達が泊まる部屋に涼介さんを運び…と大変な騒ぎになってしまいました。こちらのホテルと真野家はお仕事でもプライベートでもご縁が深いそうで…この件で涼介さんは益々伯父様に頭が上がらなくなりました。
披露宴では新郎新婦はお料理を落ち着いて食べられないので、式では前菜のみを出して、他のお料理は宿泊する部屋に後で届けてくれるサービス。お魚料理にお肉料理、パン、サラダ、デザートまで二人分並んだテーブルにつく両親と私。涼介さんはベットで熟睡中。
「結婚式当日の夜にお父さんお母さんと、こうして夕ごはんを食べるなんて不思議な感じね」
「本当に予想外の事をするわね、涼介さん」
「でも、3人で外で夕食を食べるなんて初めてだから、いい記念になったね。涼介君に感謝しないと」
「そうね」
「麻里子…これから先、思いがけないことが沢山起こると思う。でも、麻里子と涼介君、二人なら乗り越えられると信じている。時間をかけて、ゆっくり、二人の形を作っていったらいい。焦ることはないからね…」
流石に今日は酔ったかな…説教くさいことを言ってしまった…と言う父親とその隣で微笑む母親。
「はい」
涼介さんのお嫁さんになる夢は叶ったけど、夢はまだまだ続く。これから先、二人で歩んで築く未来の夢。明日の朝「おはよう」と言う私に、なんて返事が返ってくるのかな…。涼介さんと歩む日々は始まったばかりです。
(終)
本編はこれで終わりです。
あと少しだけ小話を。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




