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1つ目の場(1)

長期間更新できていなかった異世界倫敦ですが、漸く再開します。

当面は週1くらいのゆっくり更新ですが、お付き合いいただけると嬉しいです。

 ソフィア・ベイカーの懐中時計が見つかったという事実は、当面ジェレミー、エドワード、ウォルターの3人以外には知らせない事になった。何故なら例え身内といえど情報は広がれば、いずれどこかから漏れるものだからだ。

「それにしても…レオンがこれを探している理由が気になるな」

 顧客に頼まれたと言っていたが、それが本当だとしても今度はその顧客が怪しい。

 昔からの知り合いではあるが、仕事上の付き合いがあるだけで彼のプライベートも交友関係もほとんど知らない。

「調べてみますか?」

 ウォルターの声に、だがエドワードは頷かなかった。

「情報が足りなさすぎる。迂闊に動くわけにはいかないし、もう少し様子を見ようか」

「わかりました」

 そしてエドワードがジェレミーを真剣な表情で見ると1つの提案をした。

「この懐中時計だけど、ジェレミーの力で封印してほしい」

 簡単に使用できるとは思わないが、安全策を取っておきたい、というエドワードにジェレミーが躊躇う。何故なら封印と言われても自分にはやり方すらわからない。

「ウォルター」

 ジェレミーの躊躇いの理由を察したエドワードがウォルターを呼ぶ。するとウォルターは透明なアクリルでできた箱を持ってくると、エドワードに差し出す。

 エドワードはその箱の中に懐中時計を入れると、ジェレミーに差し出した。

「イメージしやすくするために箱の中に入れてみたけど、そのうち箱がなくてもできるようになると思うよ」

 そう言って箱を受け取ったジェレミーにウォルターが声を掛ける。

「箱の中に入っている懐中時計をこの箱の中に閉じ込めるような感じで魔力を流してください。箱に沿って、できるだけ均一に隙間なく魔力を流すように…」

 言われるまま、右の手のひらに乗せた箱に魔力を流し込んでいく。

「そう…ゆっくり。もう少し魔力を厚めに流して」

 ウォルターの声を聞きながら、魔力の制御に集中していると「もういいよ」とエドワードの声が聞こえた。

「うん、上出来」

 満足そうに自分の手のひらの上にある懐中時計を見るエドワードに、ジェレミーはほっと息を吐いた。

 見た目は全く変わっていないものの、よく見れば固い魔力に覆われているのがわかる。

「これでいいのか?」

 まだ自分の力をきちんと把握していないジェレミーが不安そうに尋ねれば、エドワードもウォルターも「問題ない」と言う。

「念のためこの時計は僕が預かっておくけどいい?」

「それは構わないが…」

 むしろそんな物騒なものは持っていたくないと思うので、預かってくれるなら助かるくらいだ。それを聞いたエドワードが「良かった」とだけ言うと、懐中時計を自分の魔法で包む。その魔法の光が消えると、そこにはもう懐中時計は無かった。


 翌日、エドワードの元に1本の電話が入った。

「…わかった。こちらは気にしなくていい。それよりもロンドン大学だけは落とされるな」

 電話を切ったエドワードはショップの扉の看板を『Closed』に変更すると、ウォルターとエドワードを呼んだ。

「何かあったのか?」

 深刻な表情をしたエドワードにジェレミーが声を掛ける。

「ジェレミー、以前この世界にはここみたいな『場』が複数あると話したのを覚えているか?」

「あぁ、こことロンドン大学もそうだったか」

「そう、ここからだとロンドン大学と、ピカデリー、メイフェアの方にもある。そして先ほどの電話だが…フレデリックからロンドン大学が狙われているらしいという報告があった」

 ロンドン大学はこのロンドンにある『場』の中でもベーカー本家が護る場所だ。いくつかある『場』の中でも、ここに次いで重要な場所と言っていい。

 この場所はソフィアが実際に世界を渡ってしまったことで『場』が脆くなっている。だからこそ当主のエドワード自らが護っているのだが、本来なら最大の『場』はロンドン大学だ。

「エドワード様、本家に向かわれますか?」

 ウォルターの言葉に珍しくエドワードが迷いを見せた。まだジェレミーを完全な戦力としてカウントするわけにはいかない。だからと言ってロンドン大学が狙われている以上、当主である自分が行くしかないだろう。

「本当はもう少し時間をかけたかったけれど…ジェレミー、実戦だよ」

 決断したエドワードの視線を受け、ジェレミーの身体に緊張が走った。


 それからのエドワードの動きは早かった。

「ジェレミー、この間と同じ要領でこの店に結界を。できるだけ強く」

 今は見つかるよりも落とされない事が重要だ。

「わかった」

 ジェレミーは先日アクリルの箱の代わりに、この店の外観を思い浮かべると、店全体を強固な魔力で包み込んでいく。

 数分で結界を張り終えたジェレミーにエドワードが「行くよ」と声を掛ける。二人はウォルターが用意した馬車に乗ると、ベイカー本家に向かう。

 本家に到着すると、すぐにフレデリックが出迎えた。その表情にはいつもの軽さはなく、緊張した面持ちでエドワードに現状を報告する。

「まだ襲撃が始まったわけじゃないが、周囲に闇属性を持ったやつがうろついてる。こっちの家の近くにでも見かけたやついるらしい」

「現状の戦力配置は?」

 応接室に向かいながら状況を確認していくエドワードの後ろを着いていきながら、ジェレミーも緊張を隠せずにいると、隣にいたウォルターが声を掛けてきた。

「大丈夫ですよ。あなたは最初にフレデリックに言われた通り、自分の身を護る事を第一に考えてください。あなたが敵の手に落ちることはある意味『場』を落とされるよりも危険です」

 ぞくり、と背筋を冷たいものが落ちる。自分の存在が世界に齎す影響の大きさを今更ながら思い知らされる。

「わ…かった…」

 やがて応接室に着くと、エドワードはそれぞれの役割を決めていく。

「ジェレミーはここから本家とロンドン大学両方に結界を。フレデリック、サポートして」

「了解」

「僕とウォルターはロンドン大学に向かう」

 前線で指揮を取るというエドワードをジェレミーが心配そうな表情を見せた。だが、本来これが自分達の日常なのだ。

「ジェレミー、心配してくれるのは嬉しいけど、これからはこれが君の日常になる。今回はとにかく無事生き延びる事だけを考えて」

 厳しい表情でそう告げた彼の言葉にジェレミーは無言で頷いた。

 そうだ、理由はどうあれ、ここで戦うと決めたのだから。

「わかった。二人も気を付けて」

「あぁ、護りは頼んだ」

 そう言って二人が部屋を出ていくと、すぐにフレデリックの指示で結界を張る。


 徐々に強まっていく結界を見つめている影が一つ。

「へぇ…随分上達してるじゃないか。これはちょっと骨が折れそうかなぁ」

 少しも大変そうだとは思っていない口調で呟いた影は近くにいた別の影に指示を出すと楽しそうな口調で呟いた。

「さて、まずは一つ目を落とさせてもらおうか」

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