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魔法訓練

「ジェレミーの場合、魔力は十分だからコントロールさえできれば問題ない」

 それが一番難しいんだよな、という心の中の声は出さずに、黙ってフレデリックの言葉に頷く。

 目の前ではフレデリックが右手の手のひらを上にして、ジェレミーの方に差し出すと、ふわり、と手のひらが光に包まれる。

「まずは身を守ってもらう事が最優先だ。お前の場合、死ぬのはもちろん相打ちもダメだ。だから、相手の攻撃を弾く魔法を最優先で扱えるようになってもらう」

 そしてフレデリックが自分と同じ事をするように言うと、ジェレミーも同じように右手の手のひらを上にすると、そこに魔力を集めるように集中する。

「そう、そのままもっと魔力を集中させる」

 言われるまま現れた光に集中すると、光の玉が少しずつ大きくなっていく。やがて両手で抱えるほどの大きさになったところでフレデリックが次の指示をする。

「それを頭上に掲げ、一気に魔力を解放する」

 言われた通りにジェレミーが集めた魔力を一気に解放すると、屋敷全体を覆う程のドームが展開される。

「…えっ!?ここまでかよ!?」

 屋敷内にいた使用人達が光に驚いて何人か外に飛び出してきている。屋敷をまるごと包み込む光に唖然としている者もいる。

 屋敷を覆っている光は力強く輝いていて、すぐに消える様子もない。

 一緒にいたエドワードとウォルターも言葉を失っている。

「え、何か間違ったか…?」

 周囲の反応に不安になったジェレミーが尋ねると、エドワードが「間違ってないよ」と笑顔を見せる。

「疲れとかだるさはない?」

「ないな」

 軽く腕を回したりして身体を動かしながらジェレミーが答える。あれだけの魔法を使いながら、何ともないとは驚くしかない。

 実際ウォルターが眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。

「お前の魔力量はどうなってるんだ」

「そういわれても…」

 自分にだってわからない、と肩を竦めたジェレミーを見てフレデリックが笑ったが、すぐに真剣な表情になる。

「ウォルター、頼んだ」

「わかった」

 こちらもまた真剣な表情になったウォルターが、ジェレミーに近づいてくる。そして目の前に立つと、先ほどのフレデリックとは逆に左手の手のひらを上にしてジェレミーの前に差し出す。

「同じように左手を出せ」

 言われるままに左手の手のひらを上にしてウォルターの前に差し出すと、ウォルターが説明を始める。

「先ほどフレデリックが教えたのは光魔法の方だ。今度はそれと同じ方法で闇魔法を使って、お前が張った光属性の結界を消す」

「相殺するって事か?」

「そんな感じだ。光と闇は表裏一体だ。お前の場合、両方の属性を持っているからな。右手と左手で使い分けるのがわかりやすいだろう」

 光属性の魔法を使いたければ右手を、闇属性の魔法を使いたければ左手を、という事らしい。

 すると、ウォルターの左手の手のひらに、黒色の玉が浮かび上がっている。

「魔力の集中のさせ方は同じだ。先ほどの光とは反対のイメージ…そうだな、暗闇を集めるような感じでやってみろ」

「…っていうかウォルター、水属性って言ってなかった?」

「少しだけなら闇属性も使える。だが実践では役に立たないレベルだな。元々こちら側に闇属性の魔法を使えるものはほとんどいない」

 つまりレベルはともかく見本を見せられるのはウォルターだけということだ。

「お前の光属性の結界を相殺することはできないからな。お前がなんとかしろ」

 これほどの光属性による結界は目立ちすぎる、と言われ「理不尽だ…」と呟いたが無視された。

「ジェレミー」

「わかった」

 目の前のウォルターの魔法を見ながら、先ほどと同じように左の手のひらに魔力を集中させる。

「発動させるのは先ほどと同じ結界魔法だ。光と闇は相殺される。自分が張った光属性の結界と同じ大きさの闇の結界を張れ」

 繊細な魔力制御が要求される。普通ならできるはずのない要求だが、ジェレミー以外の全員が彼ならできると思っていた。

 そしてその予想は間違っていなかった。

 先ほどと寸分違わぬ大きさの黒色の玉を手にしたジェレミーがそれを頭上に掲げる。

 次の瞬間---屋敷を覆っていた光が綺麗に消え去った。




「…で?まだ魔力量には余裕があるどころか減った気もしないって?」

 少し休憩しようと用意されたお茶のテーブルで、紅茶のカップを手にしたフレデリックが呆れたような口調でそう言った。

「特におかしな感じはないな」

 あれから何度か光属性と闇属性を対になるような魔法で練習したが、ジェレミーの底知れない魔力量にフレデリックが呆れていたのだ。

 そのため予想より多くの魔法を練習することができたのは幸いというべきか。

「魔力解放した時の様子からして相当な魔力量だとは思っていたが予想以上だな」

「彼女の血を引いているなら魔力制御についてもコツさえ掴めば問題はないと思っていたから、僕はあまり驚かないかな」

 自力で封印を破り、異世界を渡ったほどの女性だ。超一流の使い手だったのは間違いない。

 エドワードもウォルターも、彼が持つ属性の使い手が何度か実践で教えればすぐに使えるようになると思っていたらしい。

「光と闇の両属性持ちなんていうからもう少し大変かと思ってたのに、あっという間に習得しやがって」

 教える立場がない、と不満そうな表情をしたフレデリックを見て全員が笑う。

「あとは実戦的な攻撃魔法と、それぞれの属性特有の魔法について学べば魔法の方はなんとかなるね。あとはこの世界の事については、戻ってから夜にでもウォルターに教えてもらうといいよ」

「わかった」

 こうして今までの人生とは全く異なる知識と力を付けていくにつれ、後戻りできない事を実感する。

 カップを持ったまま少し表情を曇らせたジェレミーにエドワードが声を掛ける。

「何か気になる事でも?」

「いや、ちょっと今までとあまりに違うから…まだ慣れないな」

 自嘲するような表情でそう言ったジェレミーに他の3人が黙り込む。その沈黙を破ったのはエドワードだった。

「君の力は僕たちにとって希望だ。そして君の力が敵に渡ればそれはすぐに絶望に変わる。でも、だからこそ覚えておいてほしい」

「エドワード…?」

「例え君がどこにいようと、僕たちは必ず君の味方でいると。どんな時も君を信じるから、君も僕たちを信じて欲しい」

 それはきっと「絶対に闇に堕ちるな」という事だ。

 ジェレミーもそのことを正しく理解したのか、小さく頷いて笑みを見せた。


少し間隔が空きましたが、これからもできるだけ間隔を空けずに更新したいと思いますので、お付き合いいただける嬉しいです!

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