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護り手

「特別…って、なんともないぞ?」

「なんともない事がおかしいんだよね」

「どういう事だ?」

 まだ手の中にある水晶を見てもどこもおかしな事はない。

「その水晶はね、手にした人間の魔力を吸って光るんだ。その光の色で属性がわかる」

 それを聞いても何も不思議な事はない。自分に魔力があるわけはないから、光らなくて当然だ。

 だが次の言葉を聞いた途端、ジェレミーの動きが止まった。

「逆に魔力がなければ、魔力の代わりに生命力が吸い取られる」

「は?」

「心配しなくても死ぬほどじゃないよ。それにこの世界には魔力の無い人間はいないから、普通はそんな事態は起こらない。ところで…何か身体に異変は感じる?」

「いや、特に…」

「少し身体がだるい、とかでもいいんですが…」

 ウォルターの探るような質問にも「何もない」と答えるしかない。実際何も感じていない。

 その答えを聞いた二人が視線を交わす。

「なるほど…」

「だから説明しろよ」

 いい加減このわからない状況にいらつき始める。そんなジェレミーにエドワードの視線が真っすぐに刺さる。

「君はこの世界の人間ではないから魔力に反応しない、ということまでは予想していたんだ。でも生命力を吸い取る方は多少なりとも影響が出ると思っていたんだよね。それなのに君は何も影響はないという。それは…君がこの世界の理の外の存在であるということ」

「わかりやすく言えば、あなたに対しては一切の魔法が効かない、ということです」

「あ、物理攻撃は別ね」

「剣で切られたりすれば当然死ぬ、ということか」

「そういうこと」

(だからさっき外に出るのを止めたのか)

「そして、ここからが本題」

 エドワードが視線でウォルターに指示すると、心得たように店の片隅からロンドンの地図を持ってくる。そのまま机の上に広げると、エドワードが自分の店の場所に赤いバツ印を付ける。

「ここが僕の店。この店は君が体験した通り二つの世界を繋いでいる場所でもある。ここと同じような場所がこの世界にはいくつかある」

「…迷惑な話だな」

「それはお互い様だよ」

 自分だけが被害者だと思わない方がいい、と言われジェレミーは次の言葉を飲み込んだ。彼の世界側から攻め込まれたわけでもないのだから、一方的に被害者面するのも確かに違うだろう。

「…悪かった」

「別にいいよ。ただ、これだけは覚えておいてほしい。二つの世界を繋いでいる場所が消失すれば、世界のバランスが崩れる。その時どうなるかは…考えたくもないかな」

「過去にそんな事があったのか?」

「一度だけ、まさにこの場所が消えそうになった事はあるよ」

 驚くジェレミーの前に一枚の古ぼけたモノクロの写真が差し出される。そこには強気な目が印象的な女性が写っていた。

 そしてジェレミーはその女性を知っていた。


『おばあちゃんはちょっと不思議な人だったのよね』

『不思議って?』

『おじいちゃんと出会う前の事は誰も知らないんですって。もちろん、おじいちゃんもね』


 子供の頃、母に言われた言葉が甦る。

 だがどうしてここに祖母の写真があるのかがわからない。

「見覚えがある?」

「祖母の写真だ」

「やっぱりそうか。この女性はね、こちら側の世界の人だったんだよ。そして彼女が君の祖母だというなら、僕たちは親戚ってわけだ」

「まさか…」

 言葉を失うジェレミーにエドワードが問いかける。

「彼女は…どうしてる?」

「13年前に亡くなったよ」

 自分から見てもどこか不思議な人だったと思う。気が付くとふと消えてしまいそうな雰囲気を持っていた。

「彼女からこの世界の事を聞いた事は?」

「ない。どこか不思議な雰囲気を持った人だったとは思っていたが…」

 今は無き祖母を思い出したのか、ジェレミーの表情が柔らかくなる。その表情を見たエドワードが複雑な表情をしたが、すぐに元の表情に戻ると、その女性について語り始めた。




 この世界には二つの世界を繋ぐ場所を護る事を義務付けられた一族がいる。エドワードもその一人だ。

 その一族は特に強い魔力を持つだけでなく、幼い頃から二つの世界について徹底的に知識を叩きこまれる。そして死ぬまでその場所を護り続け、死んでいく。

 だが義務と使命感だけではどうにもならない事がある。

「彼女は好奇心旺盛な人だったらしい。ある時、護るべき場所の向こうにある世界に興味を持ってしまったんだ」

 一度抱いた好奇心は膨らむ事はあっても消える事はなく、ついに彼女は自らが向こうの世界に行くという禁忌を犯した。

 それは場に施された守護を破る事であり、この場所を悪用しようと狙っている輩に隙を見せる事でもあった。

「その時に彼女が空けた穴を再び閉じるために、相当な犠牲があったらしいよ」

 冷静なエドワードの声が室内に淡々と響く。

「一番問題だったのは、そのことによって二つの世界を繋ぐ場所があるという事が裏の世界の連中に知れ渡ってしまったことだった。この場所を手に入れる事は世界に対して大きな人質を取ったようなものだからね。悪用されれば世界は別の意味で崩壊するかもしれない」

 それが冗談や作り話でないことは、エドワードとウォルターの表情を見ていればわかる。しかしそれが自分にどう関係するのかがわからない。

「そして最近、かつての彼女の行動の影響が思わぬ形で現在に影響を与えている事がわかった。普通は君のいる世界からこちらの世界に来ることなどできないけど、例外がいるってね」

「それが俺ってわけか」

「そう。正確には彼女と血がつながっているなら誰でもその可能性はあったんだけど、こちらから簡単に連絡を取るなんてできないからね。今まではどうにもできなかったんだ。でも君が元の世界の方のこの店に接触してくれた。きっと彼女の血縁ならば、この世界にくることも可能だと思ったから…呼び寄せた」

「何のために?」

「もちろん、君にもこの二つの世界の護り手となってもらうためだよ」

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