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2つのロンドン

「別のロンドンといったな?」

「そう、この世界は君の知るロンドンとは似て非なる世界だ」

 それが本当だとして、それを知っているこの人物は一体何者なのか。

「胡散臭い話に付き合ってる暇はない。さっさと元のところに戻せ」

「残念ながらそれはできないよ」

「ふざけるな!」

 小さく肩を竦めたエドワードに、かっとなったジェレミーが怒鳴り返す。

 怒鳴った勢いのまま、怒ったジェレミーが勢いよく店の扉を開けて出ていこうとすると、扉の寸前でエドワードの手がジェレミーの腕を掴む。外見からは想像もつかない強い力で掴まれて、ジェレミーの手が扉の取っ手の僅か手前で止まる。

「今、ここから出たら殺されるよ?」

「馬鹿なことを…」

「あ、嘘だと思ってる?」

「当たり前だ!」

 当然ながら信じる様子の無いジェレミーに、困ったような表情をしたエドワードが「それじゃあ、証拠を見せてあげよう」と言って、ジェレミーを扉の右横にある窓の前に立たせる。

「そこから窓の外を見てて」

 それだけを言い残すと、エドワードが扉の外に出る。

「おいっ…」

 慌ててそのあとを追おうとしたジェレミーの耳に金属同士がぶつかる大きな音が聞こえた。反射的に音のした方向---窓の外を見ると、エドワードが黒い服を着た見知らぬ男と剣で打ち合っていた。

「え…剣?」

 先程までいた世界ではありえない光景に絶句する。その目の前では今も二人の激しい打ち合いが続いている。

 黒服の男も相当な使い手のようだったが、素人の自分から見ても明らかにエドワードの方が実力が上だった。

 まるで遊んでいるかのように相手の剣をあしらっていたエドワードだったが、さらに数回打ち合ったあと、相手の身体の左腰から右肩へ勢いよく切り上げた。

 それが致命傷だったのか、血濡れの剣を持ったエドワードの足元に相手の男が倒れると、またたくまに血溜まりが広がっていく。

 その光景に呆然としていると、いつのまに戻ってきたのか隣にエドワードが立っていた。

「あれは、君を狙ってきた刺客」

「…俺を?まさか…どうして…」

 これまでの人生で、日常の些細な諍いはあるにせよ殺されるほどの恨みを買った覚えはない。

「君はこの世界の救世主であり、同時にこの世界を滅ぼす悪魔でもあるからね」

「わけのわからないことを…」

「わかるようにきちんと説明してあげるよ。何故君が狙われているのかも」

 その表情から、どうやら冗談を言っているわけではないらしいと察したジェレミーが観念したように小さな溜息を吐く。

「わかった。とりあえず話を聞こう」

 小さな笑みを浮かべたエドワードは店内にある応接セットのソファに座るよう促し、自分も向かい側のソファに座る。

「いらっしゃいませ」

 突然現れた人物が、自分とエドワードの前に紅茶を置く。

 身長は自分よりも少し高く、仕立てのいい黒のスーツをきっちりと着こなした姿だけならば、エリート会社員のようにも見える。エドワードと違って濃い青のネクタイもきちんとしめている。

「ウォルター、いいところに。君も同席してくれる?」

「かしこまりました」

 そう言うとソファに座るわけではなく、エドワードの後ろに控える。

「え?」

 突然現れたもう一人の人物にジェレミーが戸惑っていると、エドワードが彼を紹介した。

「僕の秘書だよ。ウォルター、挨拶を」

 ウォルターと呼ばれた人物は黒い瞳でジェレミーを真っすぐに見た後、丁寧なお辞儀をする。後ろで一つにまとめられた、少し長めのストレートの濃いブラウンの髪がさらり、と肩から前に流れ落ちる。

「ウォルター・スコットと申します。エドワード様の秘書をつとめさせていただいております」

「彼はかなり優秀でね。剣も魔法の腕も一流だよ」

「恐れ入ります」

 目の前の会話を黙って聞いていたジェレミーだったが、さらりと凄い事を言われた気がして思わず聞き返してしまう。

「魔法?」

「はい、私の場合は火属性の魔法を得意としております」

「あ、ちなみに僕は水属性ね」

「いや、だって魔法って…それこそ物語の中の話だろ…?」

 困惑するジェレミーに、エドワードの表情が真面目なものになった。

「少し、この世界について説明しようか。この世界はレベルに差はあれど、誰もが魔法を使う事ができる」

「誰でも?」

「そう、誰でも。でも使える魔法の強さとか、種類は人によって違うかな。そして持って生まれた魔力の総量も人によって違うし、その総量は生涯変わる事はない」

「魔力の総量?」

「魔力とは…そうだな、君のいた世界ならゲームのマジックポイントとでも言ったらわかりやすい?それがゼロになると魔法は使えない。だから魔法を使った戦いは長期戦になればなるほど魔力が少ない方が不利になる」

「それって単純に量が問題なのか?少なくても質が良ければ、短時間でも強い魔法が使えるとかは?」

 純粋に疑問に思っただけなのだが、エドワードは「良くできました」というように笑顔を見せた。隣ではウォルターがほんの少しだけ驚いた表情をしている。

「そう、君の言う通り魔力には質も関係してくる。それは代々受け継がれた血統だったり、持って生まれた素質だったり要素は様々だ。それでも普通の人間であれば、魔力の質にそれほど大きな違いはない」

(なるほど、そこでの差は元々あまり生まれないということか…)

 そんな事を考えていると、「ジェレミー」と声を掛けられた。その声に顔を上げると、目の前のテーブルには直径10センチほどの水晶が置かれていた。

「これは?」

「ちょっと持ってみてくれないかな?」

 考えの読めない笑顔で言われ、思わず顔が引き攣る。嫌な予感しかしない。

「さ、どうぞ」

 しかしウォルターに紫のサテンの生地に乗せた水晶を差し出されてしまえば、手に取らないわけにはいかない。

 仕方なく差し出された水晶を手に取る。

「これがどうした?」

 手の中の水晶は特に何か変わるわけでもなく、小説やアニメのように持った途端光に包まれるとかそんな事もない。

「なるほど。これは興味深い」

 水晶を手渡した時のまま自分の隣に立っていたウォルターを見上げたが、続きを話すつもりはないようだった。

(いやいや、なんか言えよ)

 状況がわからないジェレミーに向かって、ようやくエドワードが口を開く。それまで組んでいた足をゆっくりほどくと、膝の上で両手を組む。

「その水晶はね、特別なんだよ」

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