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闇魔法

間が空いてしまってすいません…。

読んでくださってありがとうございます。

 頭の中にふとあの日の光景が浮かぶ。

 エドワードにこの世界に呼ばれた直後、自分を狙ってあのアンティークショップに来た刺客を剣で切り捨てたエドワード。

 血濡れの剣を持ったエドワードの足元に相手の男が倒れ、瞬く間に血溜まりが広がっていった。


『あれは、君を狙ってきた刺客』


 …そうだ。あの言葉を聞いて戦慄し、そのあと彼の説明を聞いて、自分は選んだのだ。


 この世界で戦う事を。

 そしてそれは自分の命と仲間の命と…これから奪うかもしれない敵の命にも責任を持つということだ。

 ゆっくりと瞬きをしてから、もう一度レオンを見る。

 レオンの表情からは本当の感情が見えない。

 力量の差から来る余裕も、嘲笑も…それこそ楽しさを感じているかさえわからない。

 ただ、熱の感じられない笑みを浮かべているだけだった。

「…レオン」

 ジェレミーの小さな呟きが聞こえたのか、レオンが視線をエドワードからジェレミーに移す。

「へぇ…」

 レオンがジェレミーの瞳の奥に何を見たのか、口元の笑みが少しだけ深くなる。

「いいよ、『そっち側』の属性でお相手願おうか」

 そう言ったレオンの右手の手のひらに黒い霧が浮かぶ。ジェレミーの光属性の結界を一瞬にして消し去った闇魔法の力だ。

 それを見たジェレミーも自分の右手の手のひらを上に向けると、一度小さく息を吐いた。

 次の瞬間、レオンと同じ黒い霧が現れたのを見たエドワードが焦った声を上げる。

「やめろ!」

 だがジェレミーはそれには答えず、自分を庇うエドワードの横をすり抜けるようにして、レオンと対峙する。

「エドワード、下がって」

 レオンの闇魔法と自分の光魔法がまるで相殺されるように結界を消してしまうなら、同じ闇魔法ならどうなるのか。

 結果の予想などできないが、他に有効な手段など思いつかない。

 これまでは光属性の方が強いと言われていたので、そちらしか使っていなかった。

(怖くない、と言えば嘘になるけど…)

 レオン達と同じ魔法を使う事に危機感を感じないわけではない。

 ウォルターは同じ属性の魔法はお互いに引かれ合うと言った。


『わかりやすく言えば操られやすい、とも言えます』


 ならば、自分は絶対に自分自身を見失ってはいけない。

「エドワード…初めて会った時に君が使ってた剣を貸してもらっても?」

 その声音に何を感じたのか、エドワードが一瞬だけ肩を揺らした。しかしそれについて言及する事はなく、無言で剣を召喚するとジェレミーに差し出した。

 その剣はベイカー家当主に代々受け継がれてきたものだ。簡単に他人に渡せる物ではない。

 それでも、この剣が少しでも彼の助けになるならば迷うことはない。

「…ありがとう」

 剣を受け取ったジェレミーはゆっくりと剣を鞘から抜くと、レオンに剣の切っ先を向ける。

 同時に手のひらに浮かんでいた黒い霧を剣の刃に纏わせる。

 レオンは何も言わず、まるでジェレミーの覚悟を見定めでもするかのように、口元の笑みを消してジェレミーを見つめている。

 そうして二人が無言で見つめあった数秒後、ジェレミーが動いた。


 正面から切り込んでいったジェレミーの剣先をレオンが最小限の動きで躱す。

 直後に二人の魔法がぶつかり、消滅する。

「全く同じ力で返すのか」

 小さく舌打ちしたジェレミーの言葉にレオンが楽し気に返す。

「面白いから付き合ってあげるよ。どちらの魔力が上か…力比べといこうじゃないか」

 レオンの挑発に乗る必要はない。冷静になれ、と自分に言い聞かせながらジェレミーはレオンに向けて剣で攻撃をしながら、その切っ先から魔法を放つ。

 魔法と剣、両方で攻撃をしているのに、それに応戦するレオンに焦る様子は全くない。むしろこの状況を楽しんでいるかのようだった。

「…くっ…!」

 結界を維持しながらの戦いは魔力を使い切るわけにはいかないジェレミーにとって不利だ。それでもここでレオンを倒さなければ、自分達の勝利はないのだ。

 そんな二人の戦いを見ていたエドワードが唇を噛み締める。

「ジェレミー!場の結界を全て解け!」

 このままではレオンに負ける。安全策を取りながら勝てる相手ではない。

 エドワードの声と視線で彼の意図を悟ったジェレミーが小さく頷くと、全ての場の結界を解く。同時にエドワードがベイカー本家とロンドン大学の結界を張ったのが分かる。

「無茶をするね」

 エドワードの魔力では長くは持たない。それが分かっているのか、レオンがエドワードをちらりと見て呟いた。

 だがそれには何も返さず、ジェレミーはもう一度レオンに向かって剣を構えなおした。結界の維持という枷が無くなった事で、かなり自由に動けるようになった。しかしそれは同時に短時間で決着をつけなければならないという事でもあった。

 剣に纏わせる魔法を最大強度まで上げると、レオンに向かって走り出す。

 今度も最低限の動きでその切っ先を躱そうとしたレオンの背後からジェレミーの魔法が襲った。

「…何っ…!?」

 突然背後から受けた衝撃にレオンが初めて地面に膝をついた。

「馬鹿な…魔法の気配など…っ…」

 直後、正面からジェレミーの剣がレオンの腹部を貫いた。

「同じ闇魔法だからな…。お前の魔法に俺の魔法を紛れ込ませた」

「う…ぁ…」

 本当ならレオンの腹部から流れ落ちる血が地面を濡らすはずなのに、剣に貫かれた個所は全く出血をしていない。

 その代わり、傷口を剣に纏わりついた黒い霧が覆っている。

「や…めろ…っ」

 剣で貫かれただけとは思えない苦悶の表情を浮かべるレオンを見たエドワードが怪訝そうな声でジェレミーに尋ねる。

「一体何を…」

「同じ属性は操られやすいんだろ…?だったら、俺の魔法でレオンを従える。もう一人を止めるなら…それが手っ取り早そうだからな」

 簡単な事のように言っているが、お互いの魔力が強大である以上、そう簡単にいかないのはエドワードにもわかる。実際にレオンと同じかそれ以上にジェレミーの表情は苦しそうなものに変わってきていた。

「…ふっ…こんな…力比べのはずじゃなかった…んだけど…ね…」

 レオンの額から玉のような汗が流れ落ちる。同時に彼の身体を覆う黒い霧がどんどん濃くなっているのがわかる。

「あと…少し…」

 剣を握るジェレミーの力が僅かに強くなる。それに呼応するかのように放たれた魔力が完全にレオンを飲み込んだ---。




 その頃セルジュを追っていったフレデリックとウォルターは、ランガム・ホテルの前にいた。突然ジェレミーの結界が消え、ウォルターの結界だけが残ったことにも動揺を見せない二人を見ながらセルジュが笑う。

「おや…魔力切れですかね?」

 暗にジェレミーとエドワードがレオンに負けたのだろうという彼に、ウォルターとフレデリックがしっかりとした口調で答える。

「ありえませんね」

「あぁ、ないな」

 そんな二人の様子にセルジュが小さく首を傾げる。

 二人にはジェレミーの結界が消えると同時に、ベイカー家とロンドン大学にエドワードの結界が展開されたのを感じていた。

 つまりエドワードはジェレミーをレオンとの戦いに集中させ、それ以外の場の結界は自分たち3人で護る選択をしたということだ。

 相手があのレオンであれば十分に考えられる戦略だ。

 そうであれば自分たちがやる事は一つだけ。

「絶対に…ここを抑えますよ」

「わかってるって」

 同時に二人はセルジュと自分たち二人を二重の結界で覆った。

 すぐに破られるかもしれないが、無いよりはマシなはずだ。

「無駄な抵抗ですね」

 予想通り、セルジュの指先の一振りだけで結界が消えた。…だが二人にとって彼が魔法を発動させるその一瞬が必要だった。

 正面から魔法ではなく、手にした剣でウォルターがセルジュに切りかかると、それを躱した先にフレデリックが回り込む。

「無駄ですよ」

 フレデリックの剣先も躱したセルジュが揶揄うような口調で二人に実力の違いを見せつけるかのように笑みを浮かべる。

「そうかな」

 フレデリックの声の直後、彼の笑みが凍り付く。

「…っ…まさか…」

 驚いたセルジュの指先が左の脇腹に触れる。するとそこに触れた指先に鮮血が絡んだ。

「剣に気を取られたな」

 そう、フレデリックは剣で攻撃をすると同時に別方向から魔法での攻撃もしていたのだ。

 致命傷ではない。むしろ掠り傷程度でしかないが、時間稼ぎ程度にはなるだろう。

 今必要なのは『場』を壊されない事。

 セルジュの意識が自分たちに向いてくれれば好都合だ。

「なるほど…まずはあなたたちを殺す必要があるという事ですね。世界が壊れる様をお見せできないのは残念ですが…」

 セルジュの身体から膨大な魔力の霧が立ち上る。


「…お望み通り、この手で殺して差し上げましょう」

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