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1つ目の場(2)

 エドワードとウォルターはひとまずロンドン大学本部のあるラッセル・スクエアに向かう。ロンドン大学のように、2つの世界どちらにもある建物や場所は二つの世界を繋ぐ『場』になりやすい。ここもそういった場所の1つだ。

 エドワード達は本部の周囲に異常がないか確認していく。その間にも先に潜入していたベイカー家の手の者からの連絡が携帯に入ってくる。

「結界の方は完了したようですね」

 ウォルターが空をちらりとだけ見やると、エドワードにだけ聞こえる声で言った。

「あぁ、付け焼刃にしては悪くない」

 だがアンティークショップとロンドン大学、この二か所に強固な結界を張れる存在がこちら側にいると敵に知られたのはあまり歓迎できない事でもあった。

(切り札はもう少し隠しておきたかったところだけど…)

 そうも言っていられない事態になってしまった事にエドワードは内心で臍を噛む。

「エドワード様」

 ウォルターの声で意識を切り替える。今は余計なことを考えている場合ではない。エドワードは建物内の気配を探るように注視していたが、やがて小さく呟いた。

「いるな」

 目の前の本部の建物内から闇魔法の気配がするというと、それと同時にウォルターの携帯にメッセージが入る。

「建物内にいるものから、一部で衝突が始まったとの連絡が」

「わかった。まずはこの建物から奴らを引き離せ」

 『場』を破壊するには、場の中心となる建物を破壊すればいい。そう、もう1つの世界と同じ存在として世界を支えているならば、片方がなくなってしまえばバランスは容易く崩れる。

 エドワードの命令をうけて、ウォルターが各所へ指示を出す。その間にも建物内に響く音が徐々に大きくなっていく。

 その音がエドワード達のいる正面入口に近づいてきた時だった。

「エドワード様っ!!」

 ウォルターの叫び声と同時にエドワードの身体が地面に倒される。一緒に倒れ込んだウォルターのすぐ上の空間を切り裂いた力にひやりとする。

「…これは本気を出さないとかな」

 エドワードの声にウォルターが「そのようですね」と答える。二人は慎重に立ち上がると、背中合わせに立ち上がり周囲を警戒する。

 かさり、と微かに動いた気配に二人同時に反応する。

「そこか」

 エドワードの右手がふわり、と動くとその指先から赤い炎が気配に向かって放たれる。同時にウォルターの相手の退路を断つように自分たちと敵を含めたエリアを水の壁で囲んだ。

 これで周囲の建物が焼けることを気にしなくていい分、エドワードが自由に動ける。

 エドワードは自分の攻撃をかろうじて避けた相手にゆっくりと近づいていく。

「言え。誰の命令でここを狙った?」

 気配だけでまだ姿を現さない相手にそう問えば、相手は小さく笑ったようだった。

「答えるとでも思ったか?」

「思わないね。だから力づくで吐いてもらう」

 同時に相手の気配ごと炎の縄で縛り上げるように包むと、どさり、と音がしてそれまで姿を消していた相手が地面に倒れていた。

 エドワードは逃げられないように相手の足首だけを炎で縛り上げると男を見下ろしてもう一度問いかけた。

「もう一度聞くぞ。誰の命令でここを狙った?」

 エドワードの炎に焼かれても悲鳴一つ上げない男に眉を顰めたエドワードが口を開こうとした時、不意に男の口が動いた。

「…呪われるがいい…」

 それだけを呟くと、男の身体が黒い霧に包まれる。

「離れろっ!」

 ウォルターに向かってそう叫ぶと同時にエドワードが男の身体を炎で包む。すると炎と黒い霧の間に微かに見えた男の顔が勝ち誇ったような笑みを浮かべてるのが見えた気がして、背筋がぞくりと粟立った。

 やがて男の身体が完全に消え去ったのを見たエドワードが息を吐く。跡形もなく消え去った様子から、元々そうなるように仕組まれていたのだろう。

(手がかりは絶対に残さない…か)

 これまでも一切の手がかりを残さない相手に正直お手上げ状態だった。結果として相手の攻撃に対処するしかできず、事態は膠着状態に陥ろうとしていた時に現れたのがジェレミーだった。

「ウォルター、他に気配は?」

「少し離れた処に2人ほど。既にベイカー家の者が向かってますがどうされますか?」

「…本部に向かう」

 建物内の援護に向かうというエドワードにウォルターがどこかに連絡を入れる。

「…どういうことですか!?」

 不意に焦った声で電話の向こうの相手を問い詰める声を聞いたエドワードが驚いてウォルターを見る。彼がこんなに焦る事など滅多にない。

「どうした?」

「…アンティークショップの方の結界が破られました」

「どういうことだ?」

 ジェレミーの結界を張った上で、自分たちが不在になる代わりにベイカー家の中でも手練れのものを何人か『場』の護衛として配置してきたのだ。

 少なくとも彼の結界が破られる前にこちらに連絡をするくらいの時間はあったはずだ。

「代われ」

 エドワードはウォルターの電話を受け取ると、電話の相手に直接話を聞く。

「フレデリックか?」

『そうだ。ついさっき連絡が入った。既に結界は破られている』

「ジェレミーを連れて店に行ってくれ。結界の張り直しと侵入者を排除するんだ。こちらが片付き次第、僕達もすぐに向かう」

『わかった』

 簡潔に指示を出すと、エドワードは「時間がない、行くぞ」とウォルターに声を掛けると、本部の建物に向かって走り出した。




「ジェレミー、すぐにアンティークショップに向かうから来てくれ」

 フレデリックはジェレミーに声を掛けると同時に車庫に向かって走り出す。後をついてきたジェレミーと車に乗り込むと、簡単に状況を説明する。

「…というわけで、店についたらすぐに結界を張りなおして欲しい。念のためこの車の中から掛けて欲しいんだができるか?」

 この車はエドワードの防御魔法が掛けられている。屋敷内ほどでないにしても、敵がいる店の中よりマシなはずだ。

「やってみる」

 緊張しながらも落ち着いてそう答えたジェレミーに「頼む」と声を掛けると、運転手と助手席にいる味方に指示を出す。

「1人はジェレミーの護衛、もう1人は俺と店の中に入るぞ」

「承知しました」

 数分後、店の前に着いた4人は絶句した。

 ジェレミーが掛けた結界はまだ残っていた…だが、店の入口の扉の形に綺麗に結界が消えていたのだ。そんなピンポイントで結界を破るなんて見たことがない。

「…これは…」

 フレデリックの緊張が伝わってきて、ジェレミーの表情が強張る。

「予定変更だ」

 そう言ってフレデリックは助手席にいた男に店内の様子を見てくるよう指示する。ただ、くれぐれも無理せず様子だけ伺ってくるように念を押す。

(ここで別れる方が危険だ)

 そして助手席の男が店の方に向かって歩き出した直後、車の周囲が一気に黒く染まった。

「これはっ…!」

 あまりにも濃い、闇魔法が齎す闇にフレデリックが歯ぎしりする。自分の光魔法では弾き返すことができないほどの強さ。

「残念。本当はもう一人くらい店の方に行ってくれるかと思ったんだけどなぁ。ま、いいか」

 不意に聞こえてきた声にジェレミーが反応する。

(この声…どこかで…)

「忘れちゃった?この間会ったばかりなのに」

 くすくす笑いながら言われた言葉で思い出す。

「…レオンさん…?」

「当たり。迎えにきたよ」

 その声と同時にジェレミーが座っている側の窓がぱりん、と音を立てて割れた。

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