8.なるほどです
「もう! るり姉どこにいってたの!」
VRゴーグルを外すと、隣で琥珀が頬を膨らませながら起こっている様子でした。
「どこって、ゲームの中ですが?」
「んー! そういうことじゃなくて!」
琥珀が周りに気遣って小さな声で私に訴えてきます。
「では、どういうことですか?」
「私は聞いてきてって言ったのに、ぜんっぜん戻ってこないんだから!」
「ごめんなさい。そのまま遊んでしまいました」
「……んー」
琥珀は眉を下げて何とも取れない表情を浮かべると、ふうと息を吐きました。
「戻ってきてねって言わなかった私も悪かったし、この話はこれで終わりにしよっか」
「ありがとうございます。琥珀」
琥珀は手元のコードを指でいじりながら、
「遊んできたってことは、陣営変える気はないんだよね? るり姉はこれからどうするの?」
「そうですね。明日はセナさんはゲームをしないそうなので、ひとりで遊ぶことになってしまいました」
「えっそうなの?」
「そうなのです。そこでなのですが、私一人ででも遊べるようにする方法を教えていただけませんか?」
「あーなるほどね。るり姉だけで、ねえ。そういえば、初心者をナビゲーションしてくれるなにかがあるって聞いたよ。たしか、ナビゲーション妖精、だったかな? それがあれば、るり姉だけでも遊べるかも」
「なるほど。わかりました。調べてみます」
「うん。じゃ、今日は帰ろっか」
ナビゲーション妖精、ですか。言いづらいですね。ピクシーではダメなのでしょうか?
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「ふう」
私はタブレットの画面を落として、息を吐きます。
もう夜も随分更けてしまいました。暗い中で電子機器を触るのは行けないとわかってはいますが、どうしても調べたいことが多いと時間も忘れてしまいます。
目を閉じ頭の中で、先程まで調べていたハイド・アンド・シーク・オンラインについてまとめます。
ゲームの中では不甲斐なくもセナさんに頼りきりだったので、ある程度の知識は入れようと調べてみました。
まずはこのゲームで大事なのはやはり陣営のようですね。陣営が変わるだけでだいぶ遊び方が変わってしまうようなのです。
まだハイドについてしか調べていませんが、ハイドで一番重要なのは"隠れること"だそうです。
シークを倒すときに見つかってしまえば、あちらから与えられるダメージが一気に増えてしまうと書いてありました。
あとは、クエストですね。セナさんも教えてくれようとしていましたが、思わぬシークとの遭遇によりその詳細を知ることは叶いませんでした。
なので、今得たばかりのネットの知識を。
クエストというのはシークとハイド両方が取り組めるものなのだそうですが、その内容は全く違うそうです。
シークがモンスターを倒すものが多く、ハイドはお手伝いだったりシークを倒しに行ったりといった感じですね。
なんでも、ハイドはモンスターを倒せないだそうです。ハイドとモンスターは仲間なのだと記されていました。
でも殺せないことはないらしく(その辺はよくわからないですね)、万が一傷つけたり殺してしまったりした場合は、グレーとなって一定期間ハイドではなくなってしまうのだそうです。
元に戻るためにはモンスターを殺した数の倍のシークを殺さないといけないのだとか。
モンスターを殺しても利益はないので、殺さないのが得策ですね。
クエストはNPCという方からもらえるのだそうですが、その方がもう色んな場所にいて、地図を見た瞬間気が滅入ってしまいました。
これではどこに行けばいいのかわからないので、明日が不安です。
実は私、明日もあのゲームで遊ぶことになったのですが、明日はセナさんは来れないのだそうです。
セナさんには、「俺がいない間にレベルを上げててくれ」と言われたので、一人でも遊ばなければなりません。
そこで困ったのが、私の知識の不足です。私はにゅーびーなのでゲームのことを全く知りません。
そこでネットで調べてみたのですが、わからない用語も多く思ったよりも時間がかかってしまいました。
でも、琥珀が教えてくれたナビゲーション妖精というのも見つかりました。明日はこの子を購入してみるとしましょう。
「ふわぁ」
そろそろ眠くなってきましたね。今夜はもう寝ましょうか。明日は9時からネットカフェですし。
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「るり姉、ホントに大丈夫?」
VRゴーグルを手に持つ私を琥珀が心配そうに見つめてきます。
本当に、この子は心配性ですね。
「んー。少し不安も残りますが、きっと大丈夫です」
「でも、ひとりなんだよね?」
「ええ」
「やっぱり不安だよ……」
「では、琥珀が教えに来てくれるのですか?」
「いやいや。すぐ殺されちゃうし場所わかんないって」
「私は大丈夫です。幸い、昨日良い情報をネットで見つけましたし」
「ほんと?」
「私を信じてください。もう琥珀に頼ってばっかりではいけませんから」
「それならいいけど……」
「では、行ってきますね」
私はまだ不安を残す様子の琥珀を横目にVRゴーグルをつけました。
もう目を開けばそこはゲームの中です。