10.本当に今さらでしたね
「いったいどうしてセナさんがこちらにいらっしゃるのですか? 用事があったのではないのですか?」
木の上から降りてこられたセナさんを問いただします。
ですが、セナさんはまるで心当たりがないというように首を傾げてしまいました。
「………………俺、そんなこと言ったっけ?」
「あれ、私の聞き間違いでしたか? セナさん、明日は外せない用事があるからひとりでレベル上げといてくれって言ってたじゃないですか」
「そうだっけ?」
「あれ?」
おかしいですね。確かに記憶にはあるのですが。やはり私の勘違いなのでしょうか。
「ま、どーでもいいだろ、そんなこと。そーいやさっきの先に殺しちまってすまなかったな。狙ってたら誰かが急に飛び出してきたもんで、慌てて殺しちまった。あんた、俺が昨日言った通りレベル上げしててくれたのか?」
ん? なにか辻褄があいませんね?
でも、セナさんは話したくない様子なので、もう追求しないでおきます。
「はい。言われた通り上げておきました」
「今はどのくらいだ?」
「あ、えっと。カクレさん、どうです?」
「ん? カクレさん?」
いつの間にかいなくなっていたカクレさんに声をかけ、その出現を待ちます。
「はい! ご主人様のレベルは現在6です! ステータスポイントスキルポイントともに貯まっていますよ!」
「えっ? まじ?」
「?セナさんどうされたのですか? あ、まだ紹介していませんでしたね。こちら、私を助けてくださっている妖精のカクレさんです」
目を見開いているセナさんにカクレさんを紹介します。
「え、ナビ妖精の?」
「はい! 私はナビゲーション妖精のカクレです! 是非カクレちゃんとお呼びください!」
「俺はセナ。よろしく」
セナさんとカクレさんが握手を交わします。
「ところでカクレちゃん、俺のこと覚えてる?」
「すみません、私はナビゲーション妖精でチュートリアルのカクレとは違うんです。名前は同じでキャラクターとしても同じなのですが、記憶は共有していないので、プレイヤー名 《セナ》さんの情報は蓄積されていません」
「ゔっ、そうか……」
セナさん、すごく微妙な顔をしましたね。頬を引きつらせて、苦瓜でも食べたかのような顔です。
「でも今から、私の記憶の中には残るので、セナさんのことを覚えていると言うことができますよ!」
「お、そうか! じゃあ、これからよろしくな」
「セナさんはご主人様のフレンドでいらっしゃるのですね。では、これからもよろしくお願いいたします!」
セナさんが笑顔に戻りました。良かったです。
「そうだ、俺のことはさん付けじゃなくていいよ」
「ではなんとお呼びすればいいですか?」
「えー、じゃあ、セナちゃんで!」
「セナちゃんですね。わかりました!」
「そういえば、セナさんは男性なのですか? 女の子なのですか?」
「え、今さら?」
セナさんにすごく嫌そうな表情をされてしまいました。
何か気に障ってしまったでしょうか。
「えっと、そういえば聞いていなかったと思いまして」
「俺は、男だよ。中身はな。見た目と設定は可愛いロリだよ」
「男の方だったのですね。納得です」
「何がだよ」
「喋り方が随分勇ましいので。でも、見た目は女の子だなーっと思って判断がつかず」
「このゲームは性転換できるからな。俺みたいなのは割といると思うぜ? そっちこそ、男じゃないだろうな?」
「ええ、私はれっきとした女の子です」
「だろうな。……あ、話変わるけど、あんた、ポイント貯まってるんだってな?」
「ポイント?」
「るりさんのポイントはステータス、スキルともに十分に貯まっていますよ!」
ポイント……昨日ネットで記述を見ましたね。ステータスとスキルにそれぞれ入れると、自身の強さが変わるんでしたっけ?
「話し合いたいことがある。ちょっとそこの街まで急ぐぞ」