◆シェフ・ラビットちゃん ドラゴンにリベンジする
こんにちはー!
ボクは今、幽神霊廟の地下6階層の草原に来てまーす!
ちなみにアリスちゃんは休みです。
『自粛かな?』
『警察と消防が来る事態になったからなぁ』
『クマ増えてるんだから許してやってくれ……』
それもあるんだけど、バリスタの聖女を名乗ってカフェラテを淹れる動画をアップしたのに「バリスタ(攻城兵器)の聖女」ってタグが付けられたのでフテ寝してます。
『誰が上手いことを言えと(ry』
『それは流石に草』
『戦犯誰だよw このコメント欄にいるだろw』
まあ、ここの探索を進めたらアリスちゃんの力を借りられるヒントも出てくるだろうし、そのときみんなで呼びかけようね。
『天岩戸か』
『シェフ・ラビットちゃんが裸で踊るんですか!?』
ぶぶー! しません!
えっちなのは禁止でーす!
『この一線の引き方が本当に中身男なのか疑わしくなる』
『魔性の男だ』
いや、ここでマジレスしないで……。
と、ともかく!
今日の配信は、新兵器のコンパウンドボウでドラゴンを狩れるか試してみる! です!
アーチェリー体験教室の後始末が落ち着いてからボクも色々と試射してみたけど、魔力を乗せて矢を放つっていうのがけっこう楽しいんだよね。髪の毛一本を矢の羽部分に入れると、飛距離とか威力がなんか伸びるんだ。
というわけで、ちょっとやってみるよ……。
今、ウサギの力が宿ってるから音とか気配には敏感だし、静かに行動すればドラゴンに見つかる前にこっちが見つけられるはず……。
『ん? いきなり第三者視点になった』
『ラビットちゃんのケツと尻尾が見える』
あ、これはガーゴイルがビデオカメラを念動力で動かしてるんだ。
ボクの3メートルくらい後ろを浮遊してるから、狩りの様子を見せられるよ。
ボクの一人称視点の方がいいかな?
『いや……このままでお願いします……』
『揺れる尻尾に目を離せなくなる猫の気分になる』
『えっちなのダメって言ったじゃん!』
えっちじゃないですけど!?
『いや……えっちだよ……。射撃と回避を繰り返しながらケツが揺れるあのゲームだよ』
『前傾姿勢で動く中身成人男性のケツにどうして俺たちはやましい思いを抱いてるんだ』
そこは自分の心の中に秘めておいて!
と、ともかくドラゴンを狩れるよう頑張るよ……。
ってわけで本格的に狩猟モードになるからちょっと黙るね。
ご歓談しててください。
『……ちょっとやましい気持ちで見てたけど、動きがマジで獣だな。国営放送のネイチャー系番組見てる気持ちになってきた』
『速いのに動きが静かすぎる。すげー』
『首の動かし方とか耳の反応とか、マジでウサギっぽい』
『ケモナーはもっとやましい気持ちで見てます』
『そこうるさい』
『ちょっとカメラが離れたり草むらに伏せられたりすると見失いそうになるな……かろうじて背中の弓と矢筒で見える』
『ん? 止まった』
『全然動かん。耳だけ微妙に動いてる』
『マジで野生動物』
『静かだ。隠れてるってよりは、機をうかがってる感じ?』
『ってことは……いるのか?』
『あ、カメラ側も気付いた。ズームアップしていく……ドラゴンだ』
『ほんとだ。たまたま一匹だけ池のほとりにいる』
『こっちには完全に気付いてない』
『ラビットちゃんが動いた。矢筒から矢を取り出した』
『慎重だな』
『弓を引くのも静かだ……』
『マジで緊張するな。ながら見ができない』
『……まだか?』
『まだっぽいな』
『ドラゴンが警戒してる。まだラビットちゃんには気付いてないっぽいが』
『水を飲み始めたりしたときがタイミングじゃないか?』
『お? ドラゴンが動いた』
『……いくか?』
『池の水を飲んでる。完全に油断して……あっ』
『撃った! ラビットちゃんが撃ったぞ!』
『はやっ! レーザービームかよ!』
『気付いたら光が走ってドラゴンが貫かれてた』
『あれ、でも生きてね? 動いてる』
『飛ぼうとして羽ばたいて……いや、墜落した』
『ラビットちゃんがダッシュしてくぞ』
『速すぎてカメラが付いていけてない。小さくなってく』
死んでる……。
最後の気力で羽ばたこうとしたけど、無理だったみたいだね。
『おお……』
『ついに地球人がドラゴンを倒した……』
『こうして見ると迫力も緊迫感も生半可じゃないな……。アリスちゃんのときとは違った印象だ』
なんまんだぶなんまんだぶ……。
『そこは仏教なんだ』
いや、まあ、狩猟の後には敬虔な気持ちになるというか。
ドラゴンさん、戦ってくれてありがとうございました。
『実際、礼儀は大事』
勝った以上は、ちゃんと捌いて美味しく頂きます。
『食うの!?』
『食うんだ!?』
『マジで!?』
料理人としては狩猟した以上は食べるのがマナーかなって。
前にアリスちゃんに狩ってもらったのを調理とかしてみたし。
あ、流石に捌いたりトリミングしたりは動画にするの遠慮します。
BANされそうだし……。
あ、その前に矢を回収しなきゃ……って、あれ?
『なんかそのドラゴン、首輪みたいなの付いてね?』
『え、飼われてるの?』
『んなまさか。飼い主がいるにしてもスプリガンちゃんだろ』
なんかカードっぽいな……って、アリスちゃんのブロマイドだ。
『なんで?』
『あ、あれじゃないか。アリスさんの力を借りられるってやつ』
あー、なるほど。
フィールド上にいるモンスターを狩ると、こういうアイテムをもらえるって趣向なのかな。
それじゃあ遠慮なくカードを頂いてこうかな……って、あっつ!? 誰!?
『なんだなんだ!?』
『火の玉が飛んできてドラゴンが燃えてる! 敵の魔法か!?』
『魔法使う敵とかいたっけ?』
『そんなのいないはずだけどな』
『アリスさんが攻略してたときもケモノ系の敵しか出てこなかった』
いや、マジで心当たりない!
魔物!? 守護精霊!?
「……ふん。ちょっとは骨のある挑戦者かと思ったけど、全然弱いじゃない」
『なんだぁ……? いきなり炎が出てきて、その中から誰かが出てきたぞ……?』
『女の声っぽいが』
『むせる』
『けっこうガチな強キャラオーラじゃないか……?』
『ラビットちゃん知ってる?』
全然知らないって!
え、えっと……初めまして。
シェフ・ラビットです。
「あら、ご挨拶なんて丁寧な挑戦者ね……?」
ど、どうも。恐縮です。
『めっちゃ美人だ……』
『赤髪の美女なんていたっけ……初めてだよな……?』
「なんか妙ね……変な声が聞こえるけど……? ま、いいわ。素直な評価と平和ボケした態度に免じて名乗ってあげる。私はランダ。炎の魔女、ランダよ」





