第八十三話 坩堝に咲く火花
そろそろストックに底が見えてきた。後一週間くらいかもしれん
顔合わせが終わった後、鍛冶屋を開けるというので叩き出されたメイさんに叩き出された俺達は新たに追加された第三層のステップダンジョンへと向かっていた。
ディールさんの紹介によって正式加入となったセレンさん、カエデ、リラの三人を引き連れてダンジョンアタック……と行きたかったが、今日はディールさんを含めた四人でリラの第一層のステップダンジョンの突破を手伝うのだそうだ。
俺達も協力しようかとも思ったのだが、ディールさんから『あまり人数が多くなっても彼女の力が付きません。すぐに追いつかせますので先へ行って下さい』と言われたので、一足先に追加された階層へ向かうことにした。
そんなわけで俺達はリヒトの馬車に揺られて、第三層のステップダンジョンに向かっている。
今回のステップダンジョンの名は『岩石兵の流転地』といい、鉱山の頂上にあるだだっ広い武闘場のようなものらしい。
そして、何よりも特殊なのが━━このダンジョンにはダンジョンボスが存在しないことだ。
なんでも一桁パーセントくらいの確率でドロップする特殊アイテムが通行符扱いになるらしい。
一桁パーセント……うぅ、嫌な記憶が蘇る……。
ま、まあ、今回は運の良いリヒトとかもいるし、どうにかなるだろう。
断じてフラグではないので注意するように。
そんなわけで他愛のない話をしながらスプルの引く馬車に揺られていると、次第に戦闘音が聞こえるようになってきた。
「これって今戦ってるやつらの音か?」
「十中八九そうだろうね。派手なことだ」
「うひょー、盛り上がってきたー!」
俺の独り言にリズさんが応え、リヒトがテンションを上げる。
もうじき戦場……それも音から察するに特大級のやつに飛び込むのだというのに呑気なことだ。
もっともハキルやユカ、タイガにも緊張した様子は見られないし、呑気というよりは余裕なのだろう。
それは俺も同じこと、これから戦うべきはゴーレムよりも確率の壁なのだ。
「お、頂上見えてきたぞ! スプル、加速しろ!」
『もう到着するが、それに意味はあるのか?』
「俺の気分が上がる」
『なるほど、従う必要はないようだな』
「なんでだよ!?」
理由が適当にもほどがあるからだと思うよ。
そんな理由でテイムモンスターに負担をかけるんじゃない。
そして、頂上に辿り着くと━━そこには地獄絵図が広がっていた。
『岩石兵の流転地』は円柱形がくり抜かれたみたいな形状だが、その広さは目算で直径一キロとバカみたいに広い。
そこで大小や形状、強さもまちまちなゴーレムが跋扈してプレイヤーのみならずゴーレムにも襲いかかっている。
襲いかかられたプレイヤーも死んでたまるかと言わんばかりに、武器や魔法、拳やなんだかよくわからないスキルを放って抵抗する。
それだけならまだいいが、乱戦状態でミスって他のプレイヤーに当ててしまって、そこからプレイヤー同士での争いまで起こっている。
戦闘と共食いと逆襲が横行し、新たなゴーレムとプレイヤーが追加されてはそれが広がる誕生と破壊の坩堝。
命が生まれては消える、“流転地”とは良く言ったものだ、ほとんど皮肉じゃねえか。
「……あー、うん、なるほど。こんな感じね、オーケーオーケー」
「何がオーケーなの? ねえ、なにこれ? 地獄?」
「私知ってるよ。これダンジョンって呼ばない、死地って呼ぶんだよ」
「闘技場のバトルロワイヤルに似てるな。……いや、あっちのほうが人間しかいねえからより生々しいな」
「鬼や悪魔より人間のほうが恐ろしいというのは間違いないみたいだねえ……」
俺達は荒れ狂う群衆……というより獣の群れを見下ろしながら口々に勝手なことを言う。
これ以上って闘技場は人の形をした魔物しか住んでないって噂は本当なのだろうか。
しかし、何故かリヒトが静かだな……なんか嫌な予感がするんだが……
「よっしゃあ、やってやるぜーー!!!」
スプルとリアカーを回収してバッグに収めたリヒトは全力でダッシュして踏み切り、暴れるゴーレムとプレイヤーの群れの中へ飛び込んだ。
「オラオラぁ!! リヒトだ!! “聖剣”のリヒトがやって来たぞ!! 巻き込まれたくねえやつは逃げろ!!」
着地と同時に光を纏った黄金の騎士剣【聖剣 エクスカリバー】を振り回す。
それだけで周りのゴーレムが消しとび、プレイヤーは「ヤベえやつだ、逃げろ!」とか言いながら散っていく。
うん、やってることはヤベえけど、あんまりの言われようである。
「何やってるの、あのバカ!!」
「うわー、流石に俺でももう少し躊躇するぞ」
「仕方ない、私達も突入しよう。ああそうだ、皆にはこれを渡しておくよ」
いきなり飛び込んだリヒトを横目にリズさんが白っぽい石がついた奇妙な耳飾りを渡してきた。
「なんですかこれ」
「【思念のイヤリング】という特殊アクセサリーだ。設定した相手とテレパシーみたいに脳内で会話をすることができる。必要かと思って買っておいたんだ」
なるほど、この混戦状態じゃまともに会話すらできないだろうからな。
それでは有り難くもらっておこう。
ちなみにリヒトの分は「後から追いついて渡しておきます」と言ってハキルが受け取っていた。
「そんじゃ俺らも行くか。先行くぜ」
「私達も行こう、ハキルちゃん!」
「わかったから口閉じなさい、舌噛むわよ」
「よし、よろしく頼むよ、レンくん」
「あ、やっぱり今回も俺はタクシー扱いなんすね」
高所から飛び降りる時の手段を身に着けてほしいと思うが、一々指摘するのも面倒くさいから放置する。
そんなこんなで、俺達もリヒトに続いて戦場に飛び込む。
さて、後は確率の壁を超えるだけだ━━!!
◇ ◇ ◇
「全く出ねえじゃねえか!!!」
「まあ、物欲センサーってそういうものだしねえ……」
いや、もう既に軽く一〇〇体くらいは倒してるのに一個も出てこない。
ちなみにリヒトは何故か一発ツモ、ハキル、タイガ、リズさんは二、三〇体ほどで獲得、ユカは少々時間が掛かったが六〇体ほどで獲得、俺だけが延々と獲得出来てない。
やはり物欲センサーは悪である。
「レンくん本当に引き弱いな……御祓いでもしてもらったらどうだい?」
「それで解決できるものなんですかね」
しかし、本当に何故なのだろうか。
日頃の行いはそんなに悪いわけではないと思……あー、いや、前世の分までカウントされてるなら大分……というか、世界屈指のレベルで悪いな。
この程度で罰が済んでるならむしろ幸運なほうか。
「まあ、とりあえず頑張りますよ。俺中心のほうに行くんで」
「ならば私は外縁に行こう。別の場所で戦ったほうが効率は良いだろう」
皆は当然のように俺の分まで獲得しようと力を尽くしてくれる。
しかし、さっきは一発で獲得したリヒトの豪運も見る影もなく経過時間とゴーレムの討伐数のみが積み上がっていく。
途中なんかメチャクチャにキラッキラした宝石か結晶みたいな明らかにレアアイテムっぽいのがドロップした。
これが通行符扱いのアイテムなのかとリヒトに聞いてみれば、「それよりドロップ率低い鍛冶用のアイテムで結構いい値段で売れる」と返答された。
そんなとこでの幸運は求めちゃいねーんだよ、バカヤローが。でもあとでメイさんに売りに行こう。
「クソ、なんでここまで出ないんだ……!」
最早二〇〇体を超えたあたりから数えるのは止めた、ここからは己と確率との勝負だ。
しかし、これほどまでに出ないとなると、リヒト達には先に行ってもらったほうが良いかもしれない。
今まで頑張ってもらったのにもういいよ、とは少し言いにくいが……
「ん? なんだアイツら」
突撃してきたイノシシみたいな獣型ゴーレムを蹴り砕いている俺の目に止まったのは一組の男女。
一人は魔術師のような男。
黒地に金の刺繍が入ったローブを纏い、右手に重厚な黄金の籠手、左手に黒と赤の禍々しい手套。
フードのせいで顔は見えないが、歩き方から察するに、おそらくは男だろう。
もう一人は白衣を着た女。
くすんだ朱色のショートヘアを雑に束ねた髪型からはどこかだらしなさを感じる。
明らかにサイズの合ってないダボダボの白衣を着ていることも相まって、なんとなく胡散臭い科学者のようにも見える。
魔術師と科学者、創作の世界なら敵対してどちらかが排斥されそうな組み合わせだが、その二人……というか、科学者風の女のほうは楽しげに話している。
こんな混沌とした戦場には似合わない穏やかな雰囲気である。
異色とも言える組み合わせだが、一体何をしているのだろうか。
「大体このへんが真ん中かなぁ……? ま、ある程度ならズレても大丈夫だけどね」
科学者風の女が足元を靴のつま先でカツカツと鳴らしながらローブの男に話しかける。
ローブの男は「そうか」とだけ簡単に返答する。
「その魔法式作るの大変だったんだから魔力足りなくて起動不可とかヤダよ」
「それはわかってる」
「オッケ〜。そんじゃ、早速やってみよ〜」
科学者風の女の気の抜けるような掛け声と同時にローブの男が一枚の紙片を手に取った。
おおよそA4サイズのルーズリーフほどの大きさのそれを指先の炎で焼き切る。
すると、ローブの男から膨大な魔力が溢れ出し、それが収束してピンポン玉ほどの炎の球が出現した。
━━瞬間、俺の背筋に悪寒が走った。
『全員その場に伏せろ!!! 何をしていようがそれを最優先しろ!!!』
俺は【思念のイヤリング】越しに指示を飛ばす。
何が俺をそうさせたのかはわからない。
しかし、絶対にそうせねばならないと確信を持って無我夢中でその場に倒れ伏す。
「廻炎斬渦」
ローブの男の魔法発動に呼応して炎の球が強く輝き━━周囲のゴーレムが上下に両断された。
いや、周囲なんてものじゃない、全てだ。
この武闘場……『岩石兵の流転地』全てのゴーレムが両断されている。
さらに、両断されたゴーレムの破片が発火。
光の塵となることすらなく、ただの灰とドロップアイテムだけを遺して消滅……否、焼滅した。
『おいアレン!! なんだよ今のは!? そっちでなんかあったのか!?』
その光景を呆然と見ている俺に耳に付けた【思念のイヤリング】からリヒトの困惑の叫び声が聞こえた。
『落ち着け。そっちは全員無事か?』
『あ、ああ、近くにはハキルとユカしかいねえけど、遠くにリズ先輩とタイガも見える。遠目だけど、目立った外傷もねえ』
『そうか、わかった。詳しくは後で話す』
そう言って俺はイヤリングを外してインベントリに放り込む。
リヒトには悪いが、今の最優先はあの二人組だ。
「いや〜、派手にやりましたな〜」
ケラケラと笑う科学者風の女。
その手にはいくつかの石の破片や赤い石板を手に持っている。
あの石板が通行符扱いのアイテムだろうか。
「使用感どんな感じ?」
「範囲が狭いから躱しやすい、魔力消費が大きすぎる、使用場面が限定的すぎる。その三つが大きい問題点だな」
「まあ、それはそうだよねー。それならあの術式を組み合わせて……そしたら飽和するからあそこを省いて……あー、それだと火力不足かなー……だったらあっちを省けば……」
「反省は後にしろ。まずは次の階層に行くぞ」
「アイアイサー」
ローブの男の言葉に促されるままに腕にいっぱいの石片を抱えて武闘場の奥……次の階層に繋がる扉へと歩いて行った。
「あ、いた! 何してんだテメェは!」
ただそれを見送ることしかできない俺に追いついてきたリヒトが声を掛けてきた。
「お前ホント何があったのかくらいは説明……って、あの人……」
「知ってるのか?」
「隣の科学者みてーな人は知ってるし……そもそもあんな魔法を撃てる人は一人しか知らねえ」
リヒトは既に扉の向こうへと消えたローブの男のほうをジッと見つめる。
「“炎帝”ガラ。ランクマッチ第二位で全プレイヤーで最強の魔導師、そんで━━全プレイヤー中最高の総火力を誇る男だ」
“炎帝”……炎の帝王とは大層な二つ名だが、さっきの魔法を見ればそれも頷ける。
俺の中で強さの頂点と言えばジークだが、あの男……ガラも間違いなくそれに近しい実力を持っているだろう。
あれほどの化け物が、まだ存在するというのか。
「まだ、遠すぎる」
リヒトにも聞こえないほどの声でそう呟く。
頂点までの遠さを、改めて認識させられて。
最高火力→一撃で出せる攻撃のダメージ数
総火力→一度の戦闘で出せる攻撃のダメージ総数
私の中のイメージはこんな感じ




