第七十九話 王者の独白
今回もアレンは出ないけど、関係のあるお話。
フラグやら伏線やらをつけるのにこういう話は便利だけど、あんまり使えないし、ナンバリングするのも迷うというジレンマ。
◇Side:ジーク◇
「ふう……これは終わり、っと」
『光明聖城』にある最奥の私室にて、僕はようやく処理を終えた書類の束を『処理済み』と書かれた棚に置く。
いつもならこれくらい処理すれば終わるはずなんだけど、リヒトのギルド結成記念パーティーを開いたこともあって目を通さなきゃいけない書類が多い。
今終わったのを含めても大体半分くらいかな。
そもそも僕は書類仕事なんて向いてないのに……後は目を通すだけという状態にしてもらってる時点で文句を言える立場にないことはわかってるけどさ。
「あー、疲れたよー」
僕は机に突っ伏してわめく。
もうお風呂入ってから泥のように寝たい。
今日は本当に疲れてるし、久しぶりにログアウトしてお酒でも飲もうかな。
ゲーム内だと味は楽しめても酔って寝落ちするなんてことができないから困る。
「大分お疲れのようだな」
「ここまでみっともない大人も久しぶりに見たのです」
不意に扉から声が聞こえる。
机に伏したまま顔だけ上げると、そこには良く見知った人物が二つ。
僕と同じ金髪碧眼の少女と明らかに人間の体格を超えた黒い大鎧の男……『聖光十字師団』の幹部扱いのプレイヤーであるニコラとクラストだ。
「ニコラにクラストか……散々な言いようじゃないか。この量の書類の処理は結構キツイんだよ?」
「そう言われても、俺達もいくつかの書類は終わらせた上でダンジョンアタックの帰りだからな」
「そもそもその書類は目を通すだけで済む状態まで進めたのは私なのです」
「はい、ごめんなさい。ただの言い訳です」
この二人はリアルではただの学生のはずなのに、何故か僕より書類仕事ができる。
僕も一応大学は卒業してるんだけどなぁ……
「それでどうしたんだい? 君らのことだし、ただダンジョンアタック終了の報告をしに来たわけではないだろう?」
「ああ。ニコラが少し聞きたいことがあるってよ」
「なのですなのです」
「聞きたいこと?」
ニコラは僕なんかよりよっぽど頭が良いから、何も言わずとも僕の意図なんてすぐに気づいてしまう。
そんな彼女が僕に質問とは珍しいこともあるものだ。
「ズバリ、リヒトのギルド結成記念パーティーを開いた理由なのです」
何が聞かれるか、と身構えていた僕に問い掛けられたのはその一言。
そうか、ニコラにはまだ話してなかったか。
「理由って言われても……僕としてもリヒトがギルドを結成したのは嬉しいことだからね。せっかくなら大々的に祝おうと思って他の人も大勢呼んだんだ。彼らも喜んでくれたようでなによりだよ」
「それは聞いているのです。問題はそれをした状況なのです」
「状況?」
「なのです。ほとんどの九人の大騎士が何らかの理由で欠席、その場にいたのはライガーとクロエのみ。外に出ることの多いクラストやサボりがちなカナンとかはともかく、スワトシルトまでいないのは明らかにおかしいのです」
九人の大騎士とは『聖光十字師団』の九人の幹部格メンバーの名前だ。
そのメンバーのほとんどを参加させずに何か大きなことをするなんてことはなかった。
そして、僕がそのメンバーを意図的にその場から外したのではないか、と言われれば……それは正しい。
「……うん、ニコラの言ってることは間違いないよ。でも、済まない。君達に僕の目的を話すことはできない」
「……以前言っていた、ラストピースとやらに関わるものなのです?」
「そうかもしれない、ってとこかな。悪いけど、それ以上は話せない」
ニコラはその表情を苦々しげなものへと歪ませる。
クラストもフルフェイスヘルムで顔は見えないものの、不機嫌そうな感情が滲んでいる。
おそらくだが、『ならば何故ライガーとクロエは許されているのか』とでも聞きたいんだろう。
「ライガーとクロエがパーティーにいたのは彼らは僕の目的を知っているからだ。ライガーはその目的を据えることを決めた場にいたから、クロエは何故かそれを知っていたから。どこで知ったのかははぐらかされたけどね」
本当にクロエがどこで知ったのかは僕も知らない。
ただそれを知っていて僕に協力したいというのは事実のようだから、僕は彼女を迎え入れた。
「……それを探って知ることに関しては止めないのです?」
「そうだね。それを知って核心に迫れば……僕はそれをニコラに話すよ」
これは僕なりの誠意。
僕からそれを話すことはないが、それを隠すことはしない。
真実に辿り着いた時は、ちゃんと話す。
その二つはその目的を据えた時から決めたことだった。
「それならいいのです。私はもちろん、クラストもジークさんを尊重する気持ちは同じなのです」
「……いや、俺はできるなら聞きたいんだが」
「今言うとメンドイから黙ってろなのです。早く戻るのですよ」
「むう……」
ニコラは納得したようにその表情をいつもの無気力なものへ戻すと、クラストを引っ張って退室した。
クラストのステータスなら魔法型のニコラには抗えるはずだけど従ってるってことは、ある程度は納得してくれたってことでいいのかな。
「そろそろ隠し通すのもキツくなってきたかな……」
ニコラが本腰を入れて調べてもそう簡単には出てこないとは思うけど、それもどこまで持つか。
だけど、僕としては別に知られたって構わない。
おそらくだがこれは━━いずれ全てのプレイヤーが知ることになるだろうから。
僕は再び書類に向かうが、そんな中で頭に浮かんだのはリヒトやアレン、ニコラといった少年少女たち。
僕がそれを目標に据えたときからは、僕自身も強くはなってきている。
だが、それじゃダメだ。
どれだけ強くなっても━━僕ではラストピース足り得ない。
「頑張れ少年少女。僕の代わりにラストピースになってくれ」
僕は確かな期待を込めてそう呟いた。
そんなことを考えていたからか、書類を全て処理し終えたのはこの二時間後のことだった。
疲れたから今日はお酒飲んで寝ることにした。
明日のことは明日の僕に任せよう。
詳細が無いネームドがドンドン増えていく〜〜〜(どのへんで出せばいいのかを検討する作者)




