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転生暗殺者のゲーム攻略  作者: 武利翔太
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第七話 黒の破壊者

お待たせしました。今年最後でございます。是非御覧下さい!

 いよいよ戦うという時に、空に『Battle Start』という文字と緑色のゲージが現れた。

 いつもは出てこないからボス戦限定の仕様なのだろう。

 緑色のゲージの上には『アビスオーガ』と書かれていた。

 コイツの名前なんだろうが、面倒なのでこれからも黒鬼と呼ぶことにする。


「グルァアアアアアアアア!」


 始まるやいなや、黒鬼は咆哮し、手に持った金棒を振り回しながら俺に突進してくる。

 かなり速い。今まで見た中では間違いなく最速だ。

 だが、避けられないほどじゃない。


 俺は黒鬼の突進を横っ飛びで回避し、黒鬼の側面へと回り込む。

 そして、金棒をかいくぐり脇腹に回し蹴りを打ち込んだ。

 後ろ飛びで黒鬼から距離を取るが、黒鬼は全く気にした様子は無い。

 むしろ、何かしたのか、とでも言いたげだ。


 黒鬼が再び突進を行う。

 もう一度それを避け、今度は〈ウィンドニードル〉を撃ち込んでやる。

 しかし、それらは黒鬼の体表に当たると同時に霧散した。

 ゲージを見ても減っているようには見えない。


 ならばと俺は黒鬼が動き出す前に一気に接近する。

 黒鬼は金棒を振るうが、そんな苦し紛れの攻撃が当たるわけもなく、黒鬼の懐に潜り込むことに成功した。


「〈ウィンドカッター〉!」


 俺は指先を黒鬼をなぞるように滑らせる。

 それによって生まれた三日月形の鎌鼬が黒鬼の身体に炸裂した。


「ゴアァッ!?」


 苦しそうなうめき声を上げる黒鬼。

 〈ウィンドカッター〉はレベル三で獲得したアーツで、飛距離も手数も〈ウィンドニードル〉には劣るが威力の高い魔法だ。

 それをゼロ距離から喰らえば流石の黒鬼も多少は効くだろう。


 続けざまに短剣を抜き、右足の太腿あたりを何度も斬りつける。

 迎撃のために金棒を振ろうとしたのを見て、再び後ろ飛びで距離を取る。

 体力ゲージを見ても少しずつだが削れている。

 これを繰り返していけば確実に━━


「グゥルァアアアアアアア!」


 三度黒鬼は咆哮する。

 だが、今回は明らかに今までとは違う。


 今までのは威嚇と自身の鼓舞で、明確に俺を対象にしたものではなかった。

 だが、今のは咆哮の中にはっきりとした殺意が込められていた。

 それが意味するのは━━俺を敵と認めたということ。


 恐らくだが、今まで俺は敵ではなく、あたりを飛び回る羽虫くらいの印象だったんだろう。

 しかし、それにダメージを与えられたこと、出し抜かれたことを認識したことにより、はっきりと俺を殺そうと思ったんだろう。

 人間だって、あたりを飛び回る蚊と血を吸われた蚊では後者に対する怒りのほうが高くなる。それと似たようなものだ。


 黒鬼は今までとは違い俺をまっすぐに目を向けた。

 なぜかはわからないが、コイツからは怒りに近い感情を感じない。

 なんというか……俺のことを“敵”というよりは“相手”として見ている感じだ

 説明が難しいが、なんとなく違和感を感じる。


 だが、はっきりしているのはコイツが俺を真正面から叩き潰そうとしていることだ。

 ならばそれに応えるのが筋だろう。


 俺は両手の短剣を逆手に持ち、身体の重心を落とした。

 魂にまで染み付いた、前世から変わらない戦闘の構え。

 全力には全力で返す。それが俺の流儀だ。


「さあ、第二ラウンド開始といこうか」


 俺は黒鬼へ向けて、全力で走って接近する。

 黒鬼もそれに呼応するように突撃を開始する。

 双方の距離が一メートルをきり、互いの攻撃が交わるほどに近づいた瞬間、俺は足の力を抜いた。

 身体を倒すように姿勢を下げ、スライディングのように黒鬼の足の間を潜り抜ける。


 俺は黒鬼が振るった金棒が後ろを通り過ぎるのと同時に、両手の短剣を黒鬼の背に何度も突き立てた。

 黒鬼は先程よりも早い反応でこちらを振り返り金棒を振るう。

 だが、それを感じ取った瞬間に離れた俺にはかすりもしなかった。


 俺が黒鬼に注意を払いながらゲージを見ると、やはり少しずつ減っている。

 どうやらやっと状態異常の〈火傷〉と〈凍傷〉が効いてきたようだ。

 力も速さも防御力も高い相手とまともに組み合うわけないだろうが。

 悪いが、卑怯な手はガンガン使わせてもらう。


 そうやってじわりじわりと削り続けること約十分。

 俺は黒鬼のHPを残り八割弱まで削ることに成功している。

 だが、余裕があるかと言われれば、否と答えざるをえない。


 黒鬼は明らかに手傷を負っているというのに、動きが衰えることはなく、むしろ徐々に速さが増している気さえしてくる。


 俺は黒鬼に突撃を仕掛ける。

 早く倒さなければならないという強迫観念に近いものを感じる。

 また近付いて連撃を食らわせる。その繰り返しで着実にHPを削るしかない。


「グゥルガァアアアアアアアアア!」


 だが、黒鬼は俺目掛けて咆哮した。

 今までは上を向いていたからわからなかったが、黒鬼の咆哮は生物が出せるのか、というレベルだった。

 最早それ自体が殺傷力を持った音の塊とさえ言える咆哮で、俺は硬直は免れたが、バランスを崩した。

 黒鬼がそれを見逃すわけもなく、俺の頭へ金棒を振り下ろした。


 俺はバランスの崩れた方へ重心をずらし、無理矢理身体をよじって回避する。

 地面を転がってなんとか距離を取ろうとするが、俺が起き上がった時、既に黒鬼は目の前に迫っていた。


 再度振り下ろされる金棒を屈んで避け、続けざまに振られるすくい上げるような一撃を全身をバネのように使い、跳んで回避する。

 どうにか連撃を躱しきり顔を上げると、俺の顔のすぐ横に━━黒鬼の拳があった。


 無理だ、躱せない。俺は直感でそう感じた。

 俺はさっきの金棒を跳躍して躱したため、まだ地面に足が着いてない。

 どうにかして躱せても、間違いなくバランスを崩して大きな隙を晒すことになる。そんなことをすれば絶対に死ぬ。


「━━負けてたまるかよ」


 言った俺自身でさえほとんど聞き取れないような小さな声。

 だが、それは紛れもない俺の魂から漏れた本音だった。

 俺は全感覚・全能力を集約させ、思考するが━━その前に身体は動いていた。


 俺は宙に浮いていた身体の重心を前に倒し拳を回避する。

 そして、足が着くと同時に踏み切り、バク宙の要領で身体を回転させながら跳び、左手で角を掴み、左足で黒鬼の右肩を押さえつけた。

 金棒での追撃を狙っていた黒鬼はそれによって動きをとめることを余儀なくされた。


 俺はそれを見逃さず、黒鬼の顔面を思い切り殴りつける。

 それだけでは飽き足らず、右足の蹴りや短剣での斬撃も組み合わせ、黒鬼にダメージを与え続けた。


 一方の黒鬼も受けているばかりではなかった。

 黒鬼は右手の金棒を横に振るい、自分にはギリギリ当たらないが、俺には当たるという絶妙な場所を狙ってきた。

 しかし、それを予期していた俺は、左足で黒鬼の肩を、右足で顎をそれぞれ蹴り、その反動で後ろに跳び避けた。


 苛ついた様子で俺を睨みつける黒鬼に、俺はニヤリと笑ってみせた。

 だが、これはただのハッタリでしかない。

 なぜなら、今のは意図してした動きではないからだ。


 前世で何度かあった“考えるより身体が先に動く”という現象。

 この感覚が起こった時は大体死の間際にいる時だった。

 今まで思考してから動いていた身体が先に動くことで身体がその動きに適応し、なんとなくでしていた動きが完全に自分の物になる。

 俺は挑発ではなく、感謝の意を込めて黒鬼に笑いかけた。


 ありがとう黒鬼。これで俺はまた強くなれる。

 俺は二本の短剣を強く握り、黒鬼を向いて構える。


「ファイナルラウンドだ。最後まで殺し合おうぜ、黒鬼」


 俺はそう言うと、何度目かもわからない突撃を黒鬼に仕掛けた。

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