第七十五話 女三人寄れば姦しい
パーティー編(多分二、三話で終わる)開幕。
メイさんとディールさんをギルドに勧誘することに成功した翌日にしてギルド結成お祝いパーティー当日。
俺は迎えを寄越すと言われた場所で立ち尽くしていた。
しかし、あと一〇分かそこらで待ち合わせの時間になるというのに誰も来ないな。
リヒトはともかく、時間に厳しいハキルやリズさんが遅れてるのは珍しい。
何か手違いか不都合でもあったのだろうか。
ぼんやり考えながら待ちぼうけていると、不意に視線を感じた。
気づかれないように目だけを動かしてそちらを見ると、そこには一人の少女がいた。
フリルの多い可愛らしいドレスを着ており、身長はかなり小さく、恐らく一三〇センチ前後といったところ。
体格からしたら小学校中学年くらいだろうか。
顔立ちは中学生くらいに見えるが、ゲームである以上いじれるのであまり参考にはならない。
そんな少女がなぜか俺を凝視している。
果たして何で見られてるのか……まあ、こんな不審者ルックの男がずっと立ち尽くしていたら注目はされるか。
だけど、明らかに目についたから見てるって見方じゃないんだよなぁ……マジで心当たり無いんだけど。
「なあ、ちょっといいか?」
俺が思い出そうと唸っていると、少女は見つめるだけに飽き足らず話しかけていた。
さて、ホントに記憶にないぞ。
一体どこで関わったのか、そもそも本当に俺が関わったことがあるのか……人違いとかじゃないか?
「あー、悪いな、会ったことがあるのかもしれんが記憶に無━━」
「━━手合わせ頼むぜ」
は? と俺が聞き返す前に少女が俺の頭を狙って右足のハイキックを繰り出した。
何がなんだかわからんがここで死ぬわけにはいかないので、首を後ろに傾けて回避する。
少女は続けて跳躍し、ハイキックの回転を利用して左足の踵回し蹴りを放つ。
俺はそれを掌底でかち上げて逸らし、殺さない程度の力を込めて前蹴り。
しかし、少女はそれを既に身体へ引き戻していた右足を突き出し、俺の蹴りの勢いを利用してバク転するように距離を取る。
少女は着地と同時に地面を蹴って俺と肉薄し、再び首を狙った蹴りを放ち……直前で止めた。
「━━ハハッ」
少女が心の底から楽しそうな声で笑う。
少女が動きを止めた理由は、少女の腹部にかざすように向けられた俺の手。
その中には渦巻くように回転する風の弾丸……俺オリジナルの改造魔法“エアバレル”がある。
少女の蹴りが命中して【不屈の精神】が発動したら放つつもりだったのだが、それをわかっていたようでそれを止められてしまった。
まあ、こっちとしてはそれでも構わないけど。
「なあ、なんで止めたんだ? 蹴りと同時に撃てばオレ殺せただろ?」
振り上げた脚を下ろしながら少女が問う。
俺は手の中の風の弾丸を握り潰しながら考える。
ふむ、色々と理由があるにはあるが……
「殺気のないただの喧嘩売ってきた子どもを殺す気はねえよ」
結局のところはその一言に尽きる。
コイツの攻撃は全部急所を狙ったの一撃必殺。
俺の耐久は紙だから当たりどころが何処だろうが一撃で死ぬが、他のプレイヤーでも確殺できるような攻撃を繰り出してきた。
大抵のプレイヤーは【不屈の精神】を持ってるから一回の一撃死ならノーリスク。
コイツはそれを狙っていた。
つまり、殺す気なんて一切無かったのだ。
それがわかってる以上、俺も殺す気は無い。
それを聞いた少女はポカンと口を開けている。
俺何か難しいこと言ったかな……
「ハハハッ! いいじゃんいいじゃん最高じゃん! オレそういうの大好きだぜ!」
そう思っていたら、少女は大笑いして俺に飛びついてきた。
なんなんだコイツ。
身長のせいで頭が腹に刺さって若干苦しい。
痛みはないけど苦しいってこんな感覚なんだ、新しい発見だね。
間違いなく今後の人生では全く役に立たないものだろうけど。
「ああいた……って、何やってるんですか貴女は!?」
どうにか引き剥がせないかと奮闘していると、離れたところで焦っているような女性の声がした。
身体を覆い隠すようなローブを身に纏い、髪は三つ編みに束ね、メガネを掛けている。
いかにも真面目そうな印象を受ける女性だった。
「こら! 他人に迷惑を掛けないように言ったでしょう!」
その女性は俺のほうへ駆け寄ると、俺の腹にしがみついている少女を無理矢理引き剥がした。
「げえ!? いいんちょーどっから湧きやがった!」
「貴女のお目付け役ですよ! あとその渾名はやめなさいって何度言えばわかるんですか!」
「うがー! やめろ離せー! オレは自由だー!」
突然現れた女性に羽交い締めにされた少女がバタバタともがいている。
なんで俺は初対面の少女と女性のコントを見せられているのだろうか。
ああ、早く誰か来てくんないかなぁ。
誰でもいいからこの意味の分からないアウェー空間から俺を救い出してくれ。
「申し訳ありません、遅くなりました」
誰か来たぁ!?
希望を抱いて声のしたほうへ向くと、そこには真っ黒な服で身体を覆い隠した人影があった。
歌舞伎とか狂言の黒子みたいな全身黒装束。
体格は男にも女にも見えるが、さっきした声は女性のものだった。
しかし、【変声】なんてスキルのあるこの世界じゃそれも当てにならない。
だが、それは別にいい、これで俺がこの謎空間から解放されるんなら……
「私の名はクロエ。『聖光十字師団』よりゲストのご案内を任ぜられた者です。“クロエ”、“クロちゃん”、“クー”、“カス”、“ゴミクズ”、“生きる価値のないこの世の産業廃棄物”、お好きにお呼び、お罵り下さい」
どうしよう、また別の謎空間が展開されてしまった。
なんならさっきよりこっちのほうが関わり合たくないんだけど。
「えっと……よろしくお願いします?」
「敬語及び敬称は不要です。というより、罵っていただいたほうが興奮するので嬉しいのですが。それとこれを」
恭しく頭を下げながら黒装束の人影……クロエが手渡してきたのは大振りのナイフ。
サバイバルナイフのような形状で刃渡りは二〇センチほど。
「これは?」
「ナイフです。それで私を罰して頂きたく存じます」
「……ん?」
なんだ、全く意味の分からない言葉が聞こえたぞ?
俺の耳が壊れたのだろうか。
「案内人を任ぜられた身で予定された時刻に遅れるなど言語道断。つきましては、貴方様の手で罰して頂きたく」
おお、聞き間違いじゃなかったのか。
ここまで聞き間違いであって欲しいと思ったのは前世を含めても十指に入るだろう。
「さあ早く! そのナイフで私の首を落として下さい! 痛覚はオンにしておりますので、問題はございません!」
さっきまでの丁寧な口調はそのままに、明らかに興奮した様子で捲し立てるクロエ。
問題ないって何が?
状況も、懇願されている内容も、コイツの頭も全部大丈夫ではないと思うが。
「あ、それとも一撃で死ぬよりも苦しめるほうがお好みでしたか? それならばわざと斬れ味を落としたナイフもございますが……」
ああ、やっぱり完全にヤバい奴だコイツ。
ほら、さっきまでコントしてた二人が呆気に取られて完全に停止してるもん。
ここまで来ると恐怖心すら機能しなくなるのか、全く役に立たない新しい発見パート2だな。
「しかし、私の役目は案内人。それを果たさぬまま死ぬわけにはいきませんね。ままならないものです」
クロエは本当に残念とも言いたげな雰囲気を醸し出しながら自身の懐から一本の巻物を取り出したり
クロエがその巻物を開くと、光が溢れ出し、それが俺とコントをしていた少女と女性、そしてクロエ自身の足元に大きな魔法陣が形成される。
「それではご案内致します」
その言葉と同時に魔法陣が激しく明滅し━━
ぶっ飛んだキャラは書いていて楽しい。私が手に入れた結論です。




