第四十九話 その先に待つのは
現実パートはまだ終わらない!
現在先輩達との約束の当日……の朝九時四十分。
俺は駅前で携帯を弄りながら待ちあわせまでの時間を潰していた。
なぜそんな状況になっているのかといえば、数日前に春香から送られてきた一通のメールが原因だ。
『今週土曜朝十時駅前』
新手の暗号か果たし状かと思うような内容だが、当然その類のものではない、その手のものを受け取るのは俺ではなく大河だ。
聞いた話では中学の頃に誰かしらからの依頼で高校生の不良軍団十数人を一人でボコったとか……アイツはア○トレイジの世界に生きてるのかな?
閑話休題。
このメールの意味及び意図についてだが、これは春香というより晃生が関係してくる。
周知の通り晃生はゲーム好き……最早ゲーム廃人と呼べるくらいのゲーム狂いだ。
平日に帰ってからゲームにのめり込むのは当然として、休日は食事・排泄・風呂・僅かな睡眠以外の時間全てをゲームに費やしてしまう。
そんな生活が身体にいいわけがないと考えた晃生の両親が、春香に『月に一度でいいからアイツを外に連れ出してやってくれ』と頼み込んだ結果が今に続いているのである。
要約するなら『ゲーム廃人のバカを外に引きずり出すために四人で遊びに行く』ということだ。
そんなわけで少し早く着いた俺は時間を潰しているのだ。
今は六月、梅雨ではあるが今朝の天気予報では今日は一日晴れだった。
メールは日時と集合場所のみで予定は特に書いてないが、春香のことだから何かしら考えているだろう。
まあちゃんとした予定を考えていても、気分屋の晃生と優希によってチャートは破壊されるから大体で良い。
「あっ、居た。蓮也くーん」
数分ほど経つと、少々離れたところから声が聞こえた。
そちらを振り向くと、優希が駆け寄ってくるのが見えた。
「おはよう優希」
「おはよー。まだ蓮也君だけ?」
「優希で二人目、晃生と春香はまだだ。特に連絡は無いから遅れたりはしないと思う」
「りょーかーい」
間延びした声で返答した優希が横に並び、再び待機の態勢に入る。
その間、俺はネットニュースを漁っていた。
芸能系のニュースばっかだな、そのへんはわかんないんだけど……あ、『アナザー』関連の記事あった。投稿者は『アナザー・ネットワークス』……なんか見る記事のほとんどコイツらが書いてんだけど?
バカな、前調べた時に見た「『アナザー』関連の記事は『アナザー・ネットワークス』が書いててクオリティが高いやつかそれ以外が書いててしょうもないやつ」という言葉は事実だとでも言うのか?
「おっ待たー」
「ごめんね、遅くなったわ」
俺がバカなことを考えている内に、晃生と春香が同時に合流した。
コイツらは家が隣だから待ち合わせの意味とか無く二人揃って来ることが大半だ。
そうじゃない時は大体晃生が前日に徹夜でゲームして春香が呆れた時だ。
「大丈夫、まだ五分前だ。全然間に合ってる」
「私達も今来たばっかりだよー」
「そう、良かったわ。それじゃあ早く行きましょ」
「いや、ちゃんと言えよ、朝うっかり二度寝したらこうなりましたってぶぐぬぅ!?」
「さ、早く行きましょ。時間間に合わなくなるわよ」
綺麗に肘鉄を脇腹に叩き込んだ春香が、身悶える晃生を横目にスタスタと歩き出す。
「ねえ、これどっちが悪いと思う?」
「どっちも悪いでファイナルアンサーじゃ……いや、なんでもないです今すぐ行きます」
優希の言葉に反応していたらこの前の軍事裁判の数倍の圧力を伴った視線を春香から感じた。
すまんな晃生、俺はまだ死ぬ気はないんだ。
◇ ◇ ◇
悶絶した晃生を引き連れて歩くこと約十五分。
俺達行きつけの映画館に辿り着いた。
行きつけと言っても毎日のように言ってるわけではなく、遊ぶ時には大体行くようになって館長とも顔馴染みになったくらいだ。
十分行きつけの域にあるってツッコミは禁止な。
「こんちゃーす!」
春香からの肘鉄から復活を果たした晃生が意気揚々と扉を開ける。
それに倣って俺達も挨拶をすると、奥のカウンターの館長が無表情でスッとお辞儀をして挨拶する。
あの館長は映画の内容と上映時間くらいしか話さない上にあの無愛想だ、休日の昼間だと言うのにほとんど人がいない。
それだから俺達がよく行ってるってのもあるが、通ってる人間としては経営が成り立ってるのか些か不安になる。
音沙汰もなくいきなり潰れるとかは流石に嫌だよ。
「なー、何見る?」
カウンター横のパンフレットを適当に漁りながら晃生が問いかける。
何かしら見たいものがない限り、俺達は当日に映画館で見るものを決める。
そもそも皆の趣味が違うせいで全員見たい! ってなる作品がほぼないんだよな。
だから大体パンフレットかポスターを見て直感で決めるわけだが……
「あのカップルがハグしてるのは? ラブロマンスとかもたまにはアリじゃない?」
「えーと……あ、ダメだ。アレカップルの彼女が殺されて男が二時間たっぷり復讐するサイコスプラッターだぞ」
「うえぇ……じゃ、じゃあ、あの銃持ってる男性のやつ見ましょう。アクション映画でスカッとするのが良いわよね」
「あー、俺これ知ってる。CGは手抜き、セリフは棒読み、ストーリーはめちゃくちゃ、なのに特殊メイクだけプロ並で最早コメディ映画って話題になったやつ」
「相変わらずろくなものないわね……」
そう何を隠そうこの映画館、館長の趣味によって集められた地雷臭のハンパないクソ映画しか上映されてないのだ。
おそらくこの映画館に人が来ない最大の要因でもあるだろうこの問題点には俺達もたびたび頭を悩まされる。
「今回はハズレが多いな。ちゃんと選ばないと痛い目を見るぞ」
「最悪千円ドブにブチ込む羽目になるからな」
「アンタのせいで何回も心当たりがあるわね」
「『次元の果てまで駆け抜けろ』は悲しい事件だったね……」
ああ、青春スポ根映画だと思ったらイナ○マイ○ブンみたいな超次元サッカーがゴミクオリティのCGで流されたやつな、アレはホントに酷かった。
見たあとに調べたネット評価が『ゴミさは次元の果てを追い抜いた』ってのには全員で大爆笑した。
しかし、それでも俺達がここに通うのをやめない理由もしっかりとあるわけだ。
「『真なる魔剣ザ・ファイナル』、『レッドカーペット〜英雄への道標〜』、『集まれ動物戦士の森〜血風と土煙の舞う七日間~』……やっぱ変なやつしかねえな」
待ってなんか最後のやつくっそ気になるんだけど。
ほう、森と共に生き生命を育む人型動物の部族と森を切り拓き自身の利益のために生きる人間の戦争……なぜだろう、妙に惹かれる。
俺がそれを見せると晃生達も同意見のようで、俺達にしては珍しく満場一致での決定となった。
「館長! これ何時から!?」
「あと二十分後くらい」
「フゥ、タイムリー! 早速買うぞ!」
今では絶滅危惧種となった現金投入式の前時代的券売機でチケットを購入する。
ついでに経費の問題でドリンク売り場が設置できないという理由で持ち込みが許可されているペットボトル飲料も自販機で買っておく。
ポップコーンメーカーもドリンク設備も経費の問題で消え去ったのもうギャグでしかないんだよなぁ。
飲み物は口の中を湿らせる程度で抑えるのがポイントだ、酷さのあまり笑いがこみ上げて吹き出す恐れがあるからな。
余談だが、晃生は飲んでるときに作中一番の笑いどころ(制作者は意図してない)にブチ当たり、盛大に吹き出して館長にこっぴどく怒られたことがある。
「心の準備はできたな!」
「おう」
「今更ね」
「晃生君ビニール袋持った〜?」
「安心しろ、三枚持ってきた」
「映画館にビニール袋持参する時点でおかしいんだよなぁ」
「そこに囚われたら負けよ」
「うるせえ! 行くぞ!」
晃生が先陣を切り、俺達三人がそれに続く。
この先にあるのは天国か地獄か、はたまた……
会話書くのたのしー(クオリティは知らない)
○書きたかったけど差し込む場所がわかんなかったので後書きに書く蓮也達の服装事情
蓮也:Tシャツにジーパン、その上に季節に合わせて何かを羽織る程度。同じようなTシャツを三、四枚着回してたりする。
晃生:パーカー多め。好きは好きだけど、それ以上に楽だからという理由が大きい。服装に関心がない。「お洒落してステータスが上がるなら考える」とのこと。
春香:パンツスタイルが大半。ヒラヒラしたスカートは似合わないと思ってる。四人の中では一番服を持ってる。タンスの中にはデザインがドストライクで衝動買いしたはいいものの、あまりに可愛らしいデザインのせいで自分では着れないワンピースが眠ってる。
優希:ワンピースが好き。着やすくて動きやすいのが最大の理由。ただ、晃生ほどファッションを舐め腐ってないため、デザイン最重視で選んでる。




