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転生暗殺者のゲーム攻略  作者: 武利翔太
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第四十二話 規格外

送還(リターン):“グランド・ホース”」


 リヒトとユカがそれぞれのテイムモンスターをジュエルに戻す。

 ジュエルが砕けたからどうなるのかと思ったが、普通にジュエルも復元するようだ。

 そうなると、わざわざジュエルを砕く意味ってなんなんだろうか。


「なんとなくカッコいいからとか……?」


「何考えてんだアホ。早く入るぞ」


 むう、リヒトにアホと言われてしまった。

 まあ、ここは呑気に考え込んでいた俺が悪いので、素直に従っておく。


 洞窟の中は俺が以前入ったゴブリンの巣に一部似ていた。

 洞窟特有のジメッとした空気感や暗さ、天井がある故の圧迫感なんかが一致している。

 しかし、内装は到底一致しているとは言えない。

 ゴブリンの巣は洞窟剥き出しのゴツゴツした質感だった。

 だが、こちらは隅々までキッチリと整備され、壁は石材、床は一面石畳が敷き詰められている。

 ゴブリンの洞窟や第一層の鉱山とは明らかに雰囲気が違う。


「洞窟ってより遺跡って感じだな」


「その認識で合ってるわよ」


 俺の呟きにハキルが答える。


「ここはダンジョンの中でもかなり特殊な立ち位置なのよ」


 そう言いながら右手の指を三本立て、左手の人差し指を薬指に当てる。


「このゲーム……『アナザー・ワールド・オンライン』のダンジョンには三つのパターンがあるわ。一つ目が『自然環境型ダンジョン』。洞窟やら森林やらに住み着いたモンスターなんかが自然と形作るダンジョンよ。このタイプが一番多いわ」


 続けて人差し指を中指に動かす。


「二つ目は『遺跡型ダンジョン』。数千年前……確か三千年だったかしら? そのくらい前に滅んだとされてる『始原文明』に造られた建物が遺跡として残ってるパターンね。一般的なモンスターはほとんど出て来ない代わりに、ゴーレム系統やトラップなんかがアホみたいな数出てくるのが特徴ね」


 そして、人差し指に。


「そして三つ目が『神代迷宮』。始原文明よりも前の時代『神代』に造られたダンジョンよ。なんでも『神からの贈り物』だとか『天が与えた恵み』だとか言われてるけど……まあ、言ってしまえば運営が作ったダンジョンね」


 いやぁ、そんなに種類があるとは思わなかった。

 俺が挑んだダンジョンの中なら、黒鬼がいた洞窟や第一層の鉱山は自然環境型になるのか。

 ……いやでも、なんか一部遺跡みたいに整備されてる場所もあったよな

 あれは一体どういう区分になるのか……


「『ステップダンジョン』は?」


「『ステップダンジョン』は単純に機能としての呼び名よ。階層踏破のためにダンジョンが生まれるんじゃなくて、階層踏破のためのダンジョンとして認定されるの」


 なるほど、いまいちよく分からん。

 それに『神代迷宮』は運営が作ったダンジョン?

 ダンジョンは運営が作ってるんじゃないのか?


「……いまいち分かんないって顔してるわね」


「チッ、バレたか」


「安心しろアレン! 俺もよく分かってねえから仲間だぞ!!」


「私もだよー!」


「アンタらにはもう五回くらい説明したはずなんだけど……」


「「反省はしている。だが後悔はしていない」」


「声揃えて理解を放棄するな!」


 コイツら相手にするの大変そうだなぁ。

 他人事が過ぎるだろって?

 俺の現状に関与してないなら全部他人事だよ。

 万が一何か言われたら未来の俺に丸投げするさ。


「アレン! ボーッとしてこの状況を逃れようとするな! 元はと言えばアンタが原因だからね!?」


 ちくしょう俺も指摘されてしまった、恨むぜ過去の俺。


         ◇ ◇ ◇


 そんなこんな漫才じみたやり取りで幕を開けた遺跡探索だが、実に順調に進んでいた。

 リヒト達が既に複数回挑んでおり、さらにユカが大半のルートを覚えていたのがかなりデカい。

 リヒトとハキル(あとたまに俺)の探索スキルで時折罠を感知すると、ユカがそれを解除しに掛かる。

 三人での行動に慣れた見事な分担作業だ。

 俺もできなくはないが、俺の場合は経験が足りない。

 いずれはできるようになりたいが、ここは熟達者に任せておくのが吉だろう……っと。


「前方二体」


「分かってるよ」


 リヒトの警告に全員が武器を構える。

 俺はいつもの短剣二刀流、リヒトは騎士剣と盾、ハキルは大盾と片手斧、ユカは杖である。

 全員に緊張が走る中、それらはゆっくりと現れた。

 まるで騎士を模した石像をそのまま動かしたようなモンスター、それが二体。

 ゴーレム系統のモンスターか?


「アレなんだ?」


「ストーンナイト。ゴーレム系モンスターの一種よ。耐久力と技巧はそれなりだけど、動きが遅いから上級者相手ではただの的になるわ」


 おぉう、辛口ぃ。

 まあ、大した相手じゃないってのはホントっぽいな。

 マジで動きがトロい……AGIで換算したら50もいかないんじゃないか?

 もうリヒトが剣下ろしてるよ。


「あれなら大したことねえからなぁ……つまんね」


「私がぶっ飛ばそうか?」


「別にそれでもいいけど……あ、そうだ。アレンやってみろよ」


「え、俺?」


「うん、お前のスタイルとかも見れるしちょうどいいじゃん?」


 ふむ、言われてみれば確かに。

 リヒト達のスタイルは装備からなんとなく予想がつくが、俺のはちょっとわかりにくいか?

 それに、連携をとるためにもお互いのスタイルを知っておくことは必要だ。

 それを見せておくにはちょうどいい機会だろう。


「分かったよ、ちょっと行ってくる」


「万が一負けかけても大丈夫だぞ! ユカがお前ごとぶっ飛ばすために魔法待機しとくから!」


「おう、その未来が来ないように頑張るよ」


 軽口を叩きながら、俺は一歩踏み出して石の騎士……ストーンナイトと対峙する。

 どうやら向こうも俺に気付いたらしく、携えていた騎士剣と小盾を構える。


「うーん、反応が遅い、動きが遅い、何より展開が遅い。漫画なら読者が鬱陶しくなってくる頃だ」


「言ってる場合か。さっさと終わらせて来なさい」


「はいよ、っと」


 俺は両手の短剣を握り直しながら、身体を低くして突撃する。

 ストーンナイトは小盾を前に構え防御の姿勢に入る。

 俺は右側のストーンナイトの小盾に短剣を引っ掛け、力まかせに引き剥がしながら、勢いそのままに脇腹付近を斬りつける。

 さらに足払いを仕掛けて、ストーンナイトの片割れを地面に倒す。


 その隙を狙ってもう一体のストーンナイトが、地に這う姿勢になっている俺に石の騎士剣を振り下ろす。

 しかし、それは空いていた左手で前腕部を掴んで止める。

 そして、身体を起こしてストーンナイトの頭を掴み、膝蹴りを一発。

 頭を掴んだまま、身体を起こそうとしていたストーンナイトにストーンナイトで殴りつけた。


 わー、いたそー。

 やっぱ硬いものを壊すときには、同じくらい硬いものをぶつけるのが一番だわ。

 長引かせてもあんまり意味なさそうだし、もう終わらせようか。


「【一撃必殺】……〈フェイタル・スラッシュ〉!」


 急所に当てるとダメージが加算されるアーツを使用して、二体のストーンナイトの頭を破壊する。

 HPを削って殺すはずだったが、頭にコアがあったようでそのまま塵となった。

 ドロップアイテムは……石の破片とかコアの一部か、シケてんな。

 まあ、あんま期待してなかったしいいや。


「おーい、終わったぞー」


 俺が声を掛けながら振り返ると、遺跡までの道中と同じような視線を向けられた。


「ああ、うん……やっぱ規格外だな」


「いや、アンタ、ええ……うわぁ」


「全身黒装備のクール系凄腕暗殺者……うん、アリだね!」


 リヒトは呆れてるし、ハキルは引いてる。

 違うのはユカがキラキラと目を輝かせたことだ。

 多少マシになったように感じるかもしれないが、言われた言葉からは不安しか感じられない。


「あー……なんかマズかったか?」


「いや、大丈夫だよ、大丈夫なんだけど……うん、先に進もうぜ」


 やめて、気遣わしげに言葉を選ばないで。

 俺の心中の叫びも虚しく、リヒトが先陣を切って再び進み始める。

 なんでだ、俺はただ指示に従っただけなのに。

 それに……


「規格外ってねぇ……」


 俺はウィンドウを操作してパーティメンバーの欄を開く。

 それに表示されるのはパーティメンバーのキャラネームと簡易ステータス。

 そして今パーティリーダーとして表示されているのは……



リヒト

Lv91

HP 130〈+120〉/130〈+120〉

MP 100〈+140〉/100〈+140〉

STR 180〈+144〉

VIT 145〈+110〉

AGI 110〈+60〉

DEX 60

INT 110〈+80〉



「それお前が言うか?」


 このステータスを見てようやく理解した。

 俺の目の前の少年は、ランクマッチ第四位。


 ━━このゲームで最強格に位置する者なのだと。

○ハキルの解説の補足

・自然環境型ダンジョン

 『アナザー』内では普通に食物連鎖などの生態系が構成されており、その中で自然と形作られるダンジョン。現在判明している中ではゴブリンの巣や第一層の鉱山、第二層の四大怪虫の棲家などが該当する。最も多く、最も難易度が上下する。また、自然と作られたものであるため、そこに住み着いているモンスターが全滅するとダンジョンとして認定されなくなる。


・遺跡型ダンジョン

 三千年前に崩壊した『始原文明』によって造られた施設が、長い年月を経てセキュリティの暴走などによりダンジョン化したもの。トラップなどが非常に多い、ゴーレム系モンスターが多く出現する、明らかに現在使われていないオーバーテクノロジーが用いられているなど、多くの特徴が見られる。現在第一層と第二層に一つずつ、第三層に二つ確認されている。


・神代迷宮

 『始原文明』よりさらに前の『神代』から存在するダンジョン。いつから存在するのか、どうして生まれたのか、なぜ重要なアイテムや設備が『神代迷宮』に集中しているのか、その全てが不明。しかし、そのダンジョンからはモンスターが外部に出て来ないこと、いくらモンスターを狩り続けても無限に発生することの二点により、『神からの贈り物』、『天が与えた恵み』などと呼ばれ、有り難がる存在となっている。一部のプレイヤーの調査により、NPCに伝わる伝承で各階層に一つずつあることが判明しているが、現在発見されているのは『昇位迷宮』のみ。


時代の流れとしては、神代→始原文明→現在

『始原文明』と呼ばれているのは一番最初に生まれたとされている文明であるため。滅んだのは三千年ほど前と判明しているが、発足した年代は分かっていない。

『神代』に至っては何があったのかすら分からない。


○リヒトのステータス

 超越者と呼ばれる次元に片足踏み込んだ怪物であり、以前掲示板で言われていたレベル90オーバーの一人……ではない。その時点ではまだ90手前だったので頑張って上げた。現在レベル90オーバーは九人『確認されている』。

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