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転生暗殺者のゲーム攻略  作者: 武利翔太
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第四十話 ストロングスタイルスピード解決

なんとか間に合ったぜコラァ!

なおクオリティはお察し下さい。

「とう、ちゃーく!!」


 間の抜けた声と共に、俺を抱えて屋根を走っていた晃生が着地する。

 そこにあったのは喫茶店。

 古びた雰囲気ながら清潔に保たれている外装から、昭和初期の喫茶店という印象を受ける。

 まあ、それなりに外装は違うから、まったく一緒ってわけじゃないんだが。

 店名は……『エデンの園』?

 多分元ネタは創世記のやつだろうが……喫茶店につける名前じゃないだろう。


「よし、入るぞ」


待て(ふぁふぇ)! 縄外せ(ふぁふぁふぁふふぇ)!」


 クソっ、まともに話せない!

 このバカなんで外さずに入ろうとしてんだ!

 地味にこの縄硬いから引き千切れないし!


「あ、(わり)ぃ、忘れてた」


 忘れてた!?

 人を縛り付けたことを忘れるか普通!?


「諦めなさい、そいつがバカなのは今更よ」


 いつの間にか近くに来ていた春香がため息混じりの声でそう言った。

 その側には優希と思しき魔術師風少女の姿もある。

 ちなみにコイツらは晃生がドタバタ脱出劇を繰り広げてる間にしれっと抜け出してた。

 つまり、俺が縛られるのを放置してた大罪人だ。

 あ、やっと縄解けた。


「初手誘拐とは、お前の行動コマンドはどうなってんだ」


「だから悪ぃって! 抜け出す方法あれしかなかったし!」


「いや、別にあれしか無いわけじゃなかったと思うけど……」


「周りも興味本位なんだから、適当にあしらえばよかったのに」


「うぐっ……悪かったって! ほ、ほら、早いとこ中入ろうぜ? また人来るかもしれないしさ!」


 明らかに話題そらしのための言葉だったが、一理あるのも間違いない。

 春香達に目配せして、「任せる」という意志を受け取ったので、晃生の言葉に従って中に入ることにした。


 中に入ると、仰々しい名前とは裏腹に一般的な喫茶店という内装だった。

 うん、割とこの雰囲気は好きだ。

 ただ、人がほとんどいない。

 中にいるのは俺達とカウンターにいた中年の男性のみだ。

 単純に寂れているだけなのか、知る人ぞ知る名店的な立ち位置なのか……ぶっちゃけ前者な気がしてならない。


 だが、晃生達はよく来ているようで、慣れたように奥のテーブル席に座った。

 余談だが、座った席は四人がけで晃生と春香、俺と優希が隣である。

 この席順も中学からであり、晃生と春香がさも当然のように隣に座ったので必然的にこうなった。

 久々に言っておこう、この二人付き合っていない。


「まー、話したいことは山程あるけど……とりあえず注文しようぜ。マスターももうじき動きそうだし」


 晃生がソファ型の座椅子にどっかりと座り込みながら、カウンターの男性に視線を向ける。

 あのオッサンがマスターだったのか。

 ……あれ、となると、マジで俺達以外の客いないじゃん。

 経営成り立ってんのか、この店。


「あー……じゃあ、コーヒー。それ以外はいらねえ」


「あいよー、すいませーん!」


 晃生が中年マスターにフランクな感じで注文する。

 注文する時に「いつもの」とか言ってるあたり、やはり常連なんだろう。


 ……あ、そういや、仮面着けたまんまだった。

 コイツら以外客もいないし……外してもいいだろう。


「フゥ……やっぱつけっぱなしは違和感ハンパねえな」


 違和感というか、息苦しいというか……おまけに不審者感が強すぎる。

 だからといって、性能的に外すわけにはいかないし……メイさんが性能トントンくらいの頭装備作ってくんねえかな。

 いやでも、統一感的にはこれが一番だし……ん?


「どうした、こう……リヒト?」


「……お前まさか現実設定でそのまま終了した?」


「ん? ……ああ、そういやそうしたが」


「このアホがー!!!」


「だぁ!?」


 お前叩くんじゃねえよ!

 紙装甲の低体力舐めんなよ!?

 今の一撃で死にかけたわ!!


「何考えてんだテメェ!!」


「そりゃこっちのセリフだボケェ!! ネットリテラシーって言葉を知らねえのか!!」


 はあ? 何を言って……おや、何やら隣の春香まで俺に冷ややかな視線を向けている。

 ちらりと隣を見ると、優希まで呆れ顔……その中に少々焦りに近いものも見える。

 あー、なるほど、分かってきたぞ……


「これ俺が悪いやつだな?」


 今度はグーで殴られた。

 HPはギリギリ残ってた。

 一応見えない位置で回復魔法使っとこう。


「さーて、アレン君、なんで責められてるかわかったかなー?」


「……素顔でのプレイが良くないんだろう、ということなら」


 晃生は手を額に当てて、深い……相当に深い溜め息をついた。

 いつもならそうするのは、俺か春香なんだが……


「良くないじゃねえ、タブーだ! もしリアルの知り合いがいてソイツが広めたら、リアルバレ一直線だ! ちょっとは考えろこのバカ!!!」


 返す言葉もございません。


「ねえ、アレン君、素顔でプレイしてた時に深く関わったプレイヤーっている?」


「あー……割と最速目指してやってたから、多分十人くらい……?」


 ディールさんとメイさんとアーティ達のパーティと……メイさんの店にいたカリンくらいか。

 うん、十人もいないな。


「そのくらいならまだどうにかなるわね。理由を説明……は無理だから、これ以上関わらない奴は放置でいいわね。まだ関わる予定がある人は、最悪ギルドに勧誘するなりして……あとは、今外した仮面ずっとつけときなさい。そんで絶対外すな」


 少し低いトーンで言われたセリフにこくこくと頷く。

 関わった人間が少なかったのが幸いだったかもしれない。

 これでもし俺にコミュ力が備わっていたら、実に恐ろしい結果になっていたかもしれない。

 まさか、己のコミュ力の低さに感謝する日が来ようとは夢にも思わなかった。


「なんか……ホントにすいませんでした」


「別に謝ることじゃねえけどよ……」


「まあ、リアルそのままでプレイする奴が予想外だったのは間違いないけれど」


「どうにかなりそうで良かったね〜」


 この状況を一言でまとめるなら優希の言った言葉になるだろう。

 そんなわけで、俺達のファーストコンタクトは無事に……無事? に終わった。

 そして、俺は一つの事実に気付いた。


「そもそも、俺ら名乗ってないじゃん……」


 呟くような一言に、晃生達もハッとしたような顔をする。

 まあ、俺が仮面取った後のくだりが長すぎたせいだが、それを言うとまた責められるので黙っておくことにする。


「そーいや、そうだな。一応しとくか。まあ、もう分かってるだろうけど俺は」


「ご注文の品でございます」


「……………」


 おいコラ、そんな目でマスターを見るんじゃない。

 マスターはちゃんと自分の仕事を全うしてるだけなんだぞ。

 ちなみに、それぞれが注文したのは、晃生がオレンジジュース、春香が紅茶、優希がカフェオレだった。


「とりあえず知ってるだろうが、俺はアレンだ。よろしく」


「……リヒト」


「ハキルよ、よろしく」


「ユカだよー、よろしくね」


 リヒトにハキルにユカね……由来とかは別にいいか。

 ゲーム内では脳内もリヒトで統一しておこう。

 とりあえずリヒトは早いとこ機嫌を直せ。

 セリフ遮られたからって拗ねるんじゃない。

 うーん、このままだと話が進まん。

 なんか話を逸らせる話題は……あ、あれがあるな。

 聞きたかったことだし、ちょうど良いや。


「なあ、リヒト」


「あん? どした?」


「『進化のクリスタル』って知ってるか?」


 唐突にも聞こえるその話題だが、俺にとってはずっと気になっていたことだ。


 スキルは進化する。

 この『アナザー・ワールド・オンライン』では当たり前のことだが、俺のスキルは一回進化した状態……第二階梯で止まっていた。

 その後の進化に必要なアイテムが『進化のクリスタル』だということまではわかっていたが、その所在がわからなかったのだ。

 ぶっちゃけ、攻略サイトで調べれば出てくるんだろうが、今回はちょうどいいので話題転換に使わせてもらった。


「多分お前ならもう第二より先に進んでるだろうからな。どこで取れるのかを知りたいんだが……」


「よし、行くぞ! 今すぐにだ!」


 いきなりリヒトが立ち上がり、そう宣言した。

 俺も席を立って止めようとするが、時すでに遅し。


「は? いやおいちょっ待っ」


「うるさーい! またダンジョン潜る気だったし、ちょうどいいや! どうせお前も時間は空いてんだろ?」


 いや、確かにそうだけど……、とそう言いかけた時、俺の肩に手が置かれた。

 振り返ると、ハキルがフルフルと首を横に振っているのが見えた。

 近くに来ていたユカも苦笑している。

 ああ、分かった……諦めろってことね。

言うのを忘れてた小ネタまとめ


○【変声】スキル

 MPの持続消費によって、声の高さなどを変えられるスキル。簡単に声を変えることができるが、通話システムなどを通すと無力化するため、アレンが危惧していたような詐欺行為には使えない。そのため、目の前の相手に声色を変えてギャグを囁くことくらいにしか使えないネタスキル。しかし、このスキルのためにMP持続回復アクセサリーを着けまくった上級プレイヤーがいるとか……


○第二層突破RTA

 普通のRPGのような全クリRTAができないため、階層突破のRTAが多い。だが、そもそもRTA界隈が小規模のためそんな盛んではない。ちなみにアレンが出したスコアは歴代ならトップ10に掠るくらい。


○リヒトがアレンを拉致るときに使った縄

 名前は【魔縛鋼縄(まばくこうじょう) レージング】。基本的に【従魔】スキル持ちが大型モンスターを捕獲するときに使う。一応鞭カテゴリの武器ではあるが、ステータス補正がゴミなので縄としか使われない。北欧神話履修者なら察してるかもしれないが、シリーズとして【ドローミ】と【グレイプニル】が存在する。今後出てくるかはわかんないけど、今後重要になるのはこの縄ではなく、この縄を切ったリヒトの剣。


○『エデンの園』

 中年男性のプレイヤーが一から作り上げた喫茶店。実はプレイヤーが作った店舗の中ではかなりの老舗。しかし、立地条件が悪いことと味が飛び抜けて美味いわけではないため、経営状況としては若干赤字。足りない分はマスターが自力でクエストを受けて稼いでいる。

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