第三十九話 遭遇、あと合流、そんで拉致
今年もありがとうございました更新。
蠍を討伐した後、手早く宝箱のアイテムをインベントリに仕舞い込む。
ちなみに、内訳は多少の金銭と蠍由来らしき素材、鉱石類などが入っていた。
アイツの甲殻は鉱石やら金属やらでできていたのだろうか。
その割には周りに鉱山や炭鉱は見当たらないが……
「まあいっか。考察の類いは俺の仕事じゃない」
その辺は多分他のガチ勢の方々がどうにかしてくれるだろう。
もっとも、俺の知るガチ勢はそんなことはしそうにないが……っと、こんなことしてる場合じゃないな。
早く行かないと約束に遅れてしまう。
「よし、これで全部……そんじゃ、行きますか」
そう言いながら、俺は第三層への転移魔法陣に飛び乗った。
◇ ◇ ◇
転移の光が晴れ、目の前に広がったのは山岳。
見渡す限りの山、山、山。
それも木々が生い茂った自然溢れるものではなく、巨大な岩石が鎮座しているような岩山である。
周りに建ち並ぶ家も石造りやレンガなどが主流で、木造建築は見当たらない。
そのせいか、全体的にどこか武骨な印象を与える階層だった。
この階層の名は『穿石の鉱山地帯』。
その名に違わず、山岳や鉱山が数多く存在し、そこから取れる鉱石類などによる鍛冶が盛んな階層らしい。
言われてみれば、確かにあちらこちらに煙突が並び、モクモクと煙が立ち昇っている。
まあ、今に限ってはどうでもいいか。
先に解決すべきは待ち合わせについてだ。
「えっと、アイツから言われた場所は……『巨剣広場』だったっけか」
なかなか珍妙な名前だ。
なんでも、第三層の転移魔法陣出口から遠くない上に、非常に分かりやすい『目印』があると言っていたが……
「まあ、行きゃわかるか」
俺は晃生達との約束を果たしに歩き出した。
◇ ◇ ◇
「えぇ……」
少し歩いてから、俺はそんな声を漏らした。
その理由は、晃生が言っていた『目印』が理解できたからだ。
「いや確かに『巨剣』とは聞いていたが……」
いくらなんでもデカすぎる。
高さは目算だが五十メートル近く、幅も五メートルはありそうな超弩級大剣。
というか、これはそもそも武器なのか?
これを持って振り回すような存在がいるとすると、その高さは百メートルを超えるだろう。
ただのオブジェクトか、はたまた……
「ダメだな、分からんものを考え込んでも意味が無い」
やっぱり俺に考察は向いてないわ。
これがボス戦ギミックの看破とかならもう少しマシになるんだが。
まあ、その辺は置いといて待ち合わせについてだ。
今日学校で第三層に到達するであろうことを伝え、明日にでも合流しようと言おうとしたのだが、ここで晃生がバカげたことを言い放った。
『じゃあ、今日会えるよな!』
朗らかな声と屈託のない笑顔で言われたその言葉にNOと言うことはできず。
あれよあれよという間に、今日会う手筈を整えられてしまった。
そのために爆速で第二層を踏破する羽目になったわけだが、もう終わった話だ。
ちなみに、その時に俺の格好やプレイヤーネームは伝えたが、晃生達のネームは教えてもらえなかった。
なんか「公衆の面前で叫ばれると面倒くさいことになる」とかよくわからんことを言っていた。
ふと待ち合わせ時間を確認すると、ゲーム内時間で午後零時五十二分。
約束の時間は午後一時だ。
時間までは大体あと十分程度、もうじき来てもおかしくない時間だが……なんかトラブったか?
だが、晃生や優希ならともかく、春香がそんなことになるとは考えにくい。
とことん真面目な奴だし、他二名も一緒だから遅れるとは思えないが……って、ん?
「……なんだあれ」
待ちぼうけていた俺の目に映ったのは人だかり。
もっとも、その程度では目に止まるほどではない。
まがりなりにも、ここは現状追加されてる階層の最上層、かなりの数のプレイヤーがいる。
そんな中で多少の人だかりができていようが、別に注目を集める理由にはならない。
それなのに、その人だかりが俺の目に止まった理由は二つ。
一つ目はその人だかりの規模が段違いであること。
おそらくは今この広場にいたプレイヤーの半数以上……正確には大体百人近い人間が集まっている。
そして、二つ目の理由。
その人だかりから聞こえる声が━━歓声だからだ。
「歓声か……なんか有名プレイヤーでも来たのか?」
好奇心に駆られて人だかりを掻き分けて進む。
すると、そこにいたのは……いや、注目を集めているらしきものは三人のプレイヤー。
一人目は水色の髪でローブを着た魔術師のような小柄な少女。
二人目は赤い髪で鎧と大盾を装備した切れ長の目の少女。
そして三人目は━━金髪碧眼の聖騎士風の少年。
一瞬ランクマッチで当たった男を思い出したが、あの男と目の前の少年は違う。
鎧は金色ではなく、白に金の装飾を施したもの。
髪も金髪だが、ミドルヘアではなく短髪。
極めつけにその顔。
目の前の少年は明らかに十代半ば……おそらくは俺と同年代だろう。
あの聖騎士風の男を思い出しはしたが、良く似ているわけではない、ただ印象がダブってるだけだ。
そして、俺はこの三人が注目を集めていた理由も理解した。
それは俺が口に出した予想を肯定するもの。
このプレイヤー達……というか、この金髪聖騎士はこのゲーム『アナザー・ワールド・オンライン』屈指の有名人。
この少年の名はリヒト。
第四回ランクマッチ第四位に輝いた超級の実力者である。
なんでも、稼働時間三ヶ月少々で最上位格に名乗りを上げた怪物だとか。
三ヶ月前というと三月中旬頃……大体高校受験が終わったあたりか。
とすると、リヒトは俺と同年代……下手したらタメの可能性すらあるのか。
そんなことを考えていると、人混みの中心にいた少年……リヒトと目が合った。
俺はすぐに視線を逸したが、リヒトは俺をじっと凝視している。
……? なんだ、注目されるような見た目は……してるが、リヒトの目は好奇心とかから来るものじゃない。
なんというか……何かを“確かめる”ような視線だ。
「なぁ、ちょっと、そこのまっくろくろすけさん」
「へあ?」
いきなり話しかけてきたリヒトに面食らった俺の口から変な声が出た。
いや、それ以前に今の声どっかで聞いたような……
「お前、アレンだよな?」
「は? いや、そうだけど……」
「あー、やっぱり! 良かった〜、確かに分かりやすい見た目って言ってたけどホントだな!」
なんだコイツ。
思ったよりもフランクな感じだけど、いきなり知らん奴からテンション高く話しかけられても……いや、待てよ?
コイツの纏う雰囲気、口調、声、顔の面影……そして、アイツが言っていた『公衆の面前で叫ばれると面倒くさいことになる』という言葉。
まさかコイツは……
「お前、もしかして晃せ、むぐぅ」
俺が声を出そうとした瞬間、後ろから口を塞がれた。
「ゲーム内でリアルネーム言うバカがどこにいんのよ……!」
そう言いながら俺の口に籠手付きの手を当てていたのは、晃生と一緒にいた赤い髪の少女。
え、この声って……
「春香!?」
「だから言うなって言ってんでしょうが!!」
え、マジで!?
ってことは、水色髪の魔術師は優希!?
ランクマッチ四位パーティなのコイツら!?
「えーと、混乱してるとこ悪いけど……とりあえず、こっから離れよっか」
そう言う晃生の手に握られていたのは━━縄。
おいおい、一体それで何をする気だ?
なるほど、短く切って俺の口に噛ませて?
そんで、俺の手首と足首を縛って?
残りの全部を俺の全身に巻きつけて?
簀巻き状態になった俺を小脇に抱えて……なるほどなるほど、良く分かった。
「良し、そんじゃ、行くか!」
そう言うと、晃生は複数のスキルを発動させ━━人混みに背を向けて全力で走り出した。
これただの誘拐じゃねえかぁぁぁぁぁあああああああ!!!
一応明日も予定してるけど、間に合うか不安(あらかじめ予防線を張っておくスタイル)




