第三十七話 約束
ランクマッチ終了の次の日。
手早く夕飯やら学校の課題やらを済ませ、俺はログインした。
終了した時のアナウンスでもあったが、上位入賞者は様々な特典があるらしい。
大半は金だったり安価な消費アイテムだったりだが、百位以内ならスキルが進呈される。
まだ始めてから一ヶ月も経ってない俺からしたら是非ともスキルを獲得したいところだ。
ちなみに学校で晃生に話を聞いたら、晃生は上位入賞を果たしたらしい。
やっぱりガチ勢は違うわぁ。
「フウゥー……」
俺はウィンドウ待機画面で息を吐き出す。
ここからボタン一つで俺の結果がわかる。
目指すは上位百位以内で頑張ってきた。
実際にランクマッチでは、様々なイレギュラーに会敵したものの、自分なりのベストを尽くせただろう。
あとは天に祈るのみ……頼むぞ……!
「いけぇぇぇぇぇぇ!!」
俺は全力でウィンドウのボタンを叩く。
他の人からは見えないし触ろうとしてもすり抜けるくせに、本人に対してだけはアホみたいな硬度を持つせいで、脆弱な俺の指からダメージエフェクトが漏れた。
だが、そんなことはどうだっていい。(一応後で治療するけど)
ロードが終わると同時にウィンドウが再び開き━━
『プレイヤーネーム:アレン
ランクマッチ順位:十五位
武器種別ランキング:二位
特典:賞金三十万ゴールド
ミドルHPポーション三十個
ミドルMPポーション三十個
進呈スキル二個
スキルセレクトプールランク:A』
━━以上の文字が表示された。
「━━はあぁ?」
十五位? 百五十位の間違い……ではないか。漢数字で桁の間違いなんて起きないだろうし。
武器種別ランキングとかいうよくわからんのもあるが、何より注目すべきは……
「進呈スキル二個……!! よっしゃあぁぁぁ!!!」
俺は叫びながら全力のガッツポーズを決める。
その様子を周りのプレイヤーやNPCが遠巻きに見たり、そそくさと離れていったりしている。
おいおい、そんな不審者を見るような目をするんじゃないよ。
ただ全身黒い服で仮面と外套を着けた男が奇声を上げながらガッツポーズしてるだけじゃないか。
すんません、完全に不審者でした。
しかし、それも今の俺を止めることはできない!
早速スキルセレクトと洒落込もう!
ウィンドウを殴りつけるように叩き(その際またダメージエフェクトが漏れた)、セレクトプールへ移行する。
すると、選択可能なスキルが出るわ出るわ……え、ホントにアホみたいな数出てきたんだけど?
ざっと見ただけでも百とかそんな生易しいもんじゃないよ?
「なるほど、これがスキルセレクトプールAってことか」
恐らくこのランクで選べるスキルの数に違いが出るのだろう。
Aが最高ランク……と思いたいが、大抵この手のゲームはランクSかそれ以上が最高ランクだと相場は決まってる。
ランクSなんてのがあるとしたら、それは上位十人とかなんだろうな。
……羨ましいやらこれ以上増えることに憐れむやら。
まあいいや、サクッと済ませよう。
ウィンドウをスクロールしながら流し見る。
わりかし有能そうなスキルだったり、なんとも言い難いスキルだったり、完全なネタスキルだったり……【変声】とかどこで使うんだ?
ゲームで詐欺でもしろってのか?
うーむ、なかなか良いスキルが見つからない。
俺の戦闘スタイルがかなりピーキーなことも相まってこれ、というスキルが無い。
「いっそ汎用性の高いスキルで対応できる範囲を上げるべきか……ん?」
そう考え始めた時、一つのスキルが俺の視界に映った。
【闘争の鼓動】
能力 戦闘時間十秒につき自身のSTRとAGIを1%上昇させる。最大強化率50%
使用制限 パッシブ
……これはかなり良い。
俺の天敵は防御力特化型である。
『銀殻』のように、最大火力の【天賦の暗殺者】と【一撃必殺】が通らないなら、俺は勝てない。
十秒につき1%、最大までは五百秒……八分強。
黒鬼とは二時間は戦ってたみたいだし、俺のAGIを加味すれば、十分くらいは持ち堪えれるはずだ。
瞬殺されたのなんてあの聖騎士野郎くらいだし。
……マジでアイツには勝てる未来が見えん。
まあ、とりあえず一つはこれでいいな。
あと一つは……やはりコレにしよう。
別に俺のスタイルにシナジーがあるわけではないし、今では特に意味が無いスキルだが……なんとなく取りたくなった。
ある種の憧れみたいなものかね、これは。
さて、スキル取得は終わったし、早速実践……と行きたいが、今日はもう予定が決まっている。
「さあ、行こうか」
━━アイツらの元へ。
◇ ◇ ◇
戦闘音が響く。
剣が、槍が、盾が、弓矢が、魔法が、数多の音が戦場を描く。
対する獣も地を駆け、鳴き、魔法を放つ。
一進一退の攻防戦。
しかし、それも終わりを迎えた。
槍の穂先が光を帯びる。
明らかなスキルを使った攻撃は獣━━大羊の胴を穿つ。
大羊は苦悶の声を上げるが、未だ健在の四つ脚で大地を踏みしめ、槍使いを轢き潰さんと迫る。
しかし、それは罠だった。
背後にいた剣士が長剣を大上段に構えていた。
もちろん、大羊はそれに対しても注意を払っていた。
だが、今まで大した攻撃をして来なかった剣士に対して警戒は薄れ……大きなダメージを槍使いを優先してしまった。
剣士の剣閃が輝く。
光を纏う斬撃は美しい軌跡を描き……首を斬り落とした。
五メートルを超える巨体が崩れ落ちる。
それと同時にそれは光の塵と化し、大きな宝箱のみを残した。
━━文句無しの完全勝利である。
『━━ぃよっしゃああああああああ!!!』
先程まで激闘を繰り広げていたパーティのメンバー━━アーティ達が勝ちどきの声を上げる。
その顔に映るのは様々だが、皆自らの戦いに満足しているようだ。
「第一層突破おめでとう。良い戦いだった」
俺も手を叩きながら素直に称賛の言葉を述べる。
……と言っても、アーティ達が勝つことは分かりきっていた。
先程戦っていた大羊……『白羊王アリエス』はあくまで第一層のフロアボス。
レベル20程度のプレイヤーが三人もいればクリアできる難易度に調整されてる。
アーティ達のレベルは大半が二十代の半ば……アーティとラルゴに至っては三十に迫ろうとしている。
これで勝てないはずが無いだろう。
もっともそれを口に出す気は無い。
ここで勝利の喜びに水を差すほど俺は野暮じゃないつもりだ。
「これで分かったはずだ。お前達は強い。ランクマッチでは負けたかもしれんが、同格相手ならまず負けは無い。それを自覚しろよ」
『はい!!』
全員が一斉に返事をする。
最初に会った時より遥かに強くなっている。
なんならランクマッチで戦った時より腕を上げている。
次戦ったらもしかすると……
「アレンさん!」
「んあ?」
思案に耽っていると、不意に声を掛けられた。
間の抜けた声を漏らしながら振り返ると、アーティ達が揃って俺を見ていた。
「ありがとうございました!」
『ありがとうございました!!』
……人に感謝される、か。
前世じゃ無かったことが……ここにはありふれてる。
やっぱり気分が良いね。
「……ああ。お前らも頑張れよ」
その声が聞こえたかはわからない。
だが、非常に良い気分の中……俺は光に包まれて消えるアーティ達を見送った。
「……さて、俺も始めるとするか。【クイックチェンジ】」
俺はスキルを発動させて、装備を切り換える。
先程まで着ていた正体偽装用の一般的装備から━━決戦用装備“深淵鬼装”へと。
続けて目の前のウィンドウをタップして、フロアボス『白羊王アリエス』とのボスバトルを開始させる。
「メェエエエエエエエエエエエ!!!」
アリエスが鳴き声を上げながら突撃する。
アリエスが開幕と同時に繰り出す常套手段。
それを見て俺は……
「【瞬脚】、〈ウィンドブースト〉、【天賦の暗殺者】、【一撃必殺】」
四つのスキルを同時発動させる。
加速スキルの二重発動でAGIを、初期から愛用している黄金コンボで攻撃力を上昇させる。
そして、数値で言うなら五百近いであろう速度でアリエスに肉薄し━━最高火力の斬撃で首を斬り裂いた。
たかがフロアボスにすぎないアリエスはその一撃で崩れ去った。
「……思ったより火力上がってたな」
だが、ここで止まるわけにはいかない。
俺はこれから最速で第二層を突破しなければならないのだから。
これから始まるは第二層突破RTA。
クリア条件、第二層フロアボス撃破。
目標時間、三十分以内。
目的、━━晃生達との約束に間に合わせるため。
さあ、始めよう。
「━━ゲームスタート」
見た感じクライマックス(終わりません)




