第三十二話 挑戦、そして
初めての同日投稿。
もっと書きたいけど時間がねえよぅ。
私は何度も挑んだ。
何度も何度も斬りかかり、何度も何度も拳を構え、何度も何度も叫び声を上げた。
絶対に退かない、その一心で心のままに立ち向かい続けた。
━━それでも力の差は歴然で、純然たる格の違いが現実として立ちはだかっていた。
「……はぁ、……はぁ……」
私は何度目かもわからなくなった息を漏らす。
私は肩を大きく上下させながら呼吸をして息も絶え絶え。
対する黒い人は息一つ乱さないまま、最初と変わらない立ち姿。
この光景が私達の差を如実に表している。
私ははたき落とされた剣を拾いながら黒い人を見つめ続ける。
「未だ闘志は萎えることなし……素晴らしい」
黒い人は無表情のままパチパチと手を叩く。
ぶっちゃけ煽られてるようにしか見えないけど、多分この人にそんな意図はないだろう。
割とこの人は感情を素直に出すタイプだ。
直情型ってわけじゃないし冷静な判断も下せるけど、隠しはしないって感じ。
それがわかったからなんだって話だけど。
正直まともに相手できるはずがないとは思ってたけど、その予想を遥かに超えていた。
剣技も格闘も全ての攻撃がいなされ、躱され、受け止められ、反撃をもらって容易く転がされた。
私は策を求めて思考を巡らせる。
①正面から切り崩す
絶対無理、何度やったって一瞬で伸される未来しか見えない。
②逃げながら隙を伺う
これも無理、走って逃げられるわけがないし、大した隙を見い出せそうにない。
③搦め手を使って崩す
これしかない……とは思うけど、どうすればいいのか皆目検討もつかない。
何か……何か糸口さえあれば……っ!
その時私に天啓が走った。
ああ、今は昔懐かしいアニメの頭の上に出る電球が欲しい!
冷静だったら馬鹿みたいだと思うかもしれないけど、閃きとドーパミンでバグった私の脳みそはそんなことを本気で思ってた。
最早博打と呼ぶのもはばかられるような馬鹿げた策、だけどそれで良い、それだけで良い!
私は息を整えて剣を構える。
恐らく私の顔は笑みに歪んでいただろう。
でもそれを止められないくらいテンションは上がりきってた。
「覚悟はできたか」
「ええ、もう大丈夫よ」
この人には一度見せた攻撃は通じない。
チャンスは一回だけ。
もう迷わない。
「はあぁああああああ!!」
私は雄叫びを上げながら突撃し、横薙ぎの構えで長剣を振りかぶる。
それに対して黒い人は白い短剣を刃を上に向けて構える。
あの角度なら当たった瞬間に弾かれる。
だけど大丈夫、この剣は━━当てる気は無い。
私は振りかぶっていた腕の手首を曲げる。
無理矢理曲げたことで振り切るのが不可能になった腕はその勢いの行き場を無くし……動きが止まる。
黒い人の仮面の奥の目が微かに動いた気がした。
一瞬の動揺と状況の整理。
初めて黒い人が隙らしい隙を見せた。
なんか変な腕の曲げ方したから若干腕が痛いけど構うもんか!
「はぁあ!!」
剣を投げ捨てて間合いをほぼゼロに。
そして左手で黒い人の右肩を抑え、右腕で身体を押し込む。
さらに左足を踏み出して右足での足払い。
完璧に狙い通り理想通りの動き
このまま押し倒してバランスを崩せれば、あとは一撃入れるだけで勝ちが決まる。
━━それが並のプレイヤーなら。
私は動きを止めた。
それは相手が何かをしたからではない。
相手が何もしなかった……いや、相手に何もできなかったからに他ならない。
黒い人は揺らがない。
私がどれだけ力を込めようとも微動だにしない。
スキルでもアーツでも特殊技能でもない、単純なSTRの差。
ただの膂力だけで私の搦め手は捻じ伏せられた。
「悪いな。その程度では防ぐに値しない」
私の目の端に振り上げられた短剣が目に映る。
それが下ろされた瞬間に私は負けが決まる。
そしてその瞬間━━勝つための最後の条件が揃った。
黒い人が小さく目を見開く。
その目の視線は私の右手に握られているもう一本の長剣に向けられていた。
いつも予備としてインベントリに入れてる長剣。
まさかこんな使い方をするなんて思ってもみなかったけど、それは相手も同じ。
だからこそ当たる。
ほぼゼロ距離、避けないように抑えられる、短剣が防げる位置に無い。
無茶苦茶な条件だとは思ったけど、整った今は関係ない!
「ああああああああああ!!!」
裂帛の気合いを載せた手首を返しての突き。
多少身体を捻ったとしても、少なくとも腹には突き刺さる。
これなら勝てる。いや、必ず勝つ!
「━━見事だ」
ぽつりと呟かれた言葉。
小さいながらもはっきりと聞こえる存在感のある声が私の鼓膜を揺らす。
その瞬間、突きと黒い人の身体との間に左手が挿し込まれ━━強引に剣を弾いた。
「あっ……!」
あまりの力に私は小さく声を漏らす。
黒い人はそれを見逃すことなく、足で私を突き飛ばした。
私は地面に転がされたけど、密着してたおかげでほぼダメージは無い。
大丈夫、崩すことには成功した、後一撃入れられれば……
剣を拾って顔を上げた時、私はそれを見た。
それは黒い人の手首をに収まっていた取っ手の付いた銀色の筒。
私はそれを知っている。いや、恐らく知らない人のほうが少ないだろう。
ただそれが『アナザー』にあるはずがない、あってはいけない。
誰しもが知っているそれの名は━━
「━━銃……?」
私がその名を言葉にするのと同時に、銀筒の先端から火花が走った。
そして、音とほぼ同時に私の身体を襲った六つの金属塊による衝撃。
「とある鍛冶師が創り上げた『アナザー』でも唯一の武器だ。存分に味わってくれ」
辛うじて聞こえたその言葉を最後に私の意識は暗転した。
それは私達の挑戦の失敗を告げるものだった。
ちなみにアーティ達は全員がレベル二十後半に差し掛かっているくらいです。
第二層の浅いとこなら普通に探索できるくらいの強さはあります。
あと一つ言っておくと、アレンが始めたのはアーティ達よりも遅いです。




