第十七話 未知との邂逅
遅くなった上に短いです。
翌日、ようやく『アナザー』のアップデートが完了した。
待ちに待った……という程ではないが、楽しみにしていたのは確かだ。
手早く明日の準備や夕飯を済ませ、俺はゲームにログインした。
◇ ◇ ◇
俺がゲームにログインした瞬間、目の前にステータスなどと同じようなウインドウが現れた。
それには真っ白な空間と、その中心の椅子に腰掛けている謎の人物が映っていた。
その人物はおもむろに椅子から立ち上がり、恭しく一礼した。
『どうも皆様ご機嫌麗しゅう。お初の方ははじめまして。私の名はラプラス。この世界の管理を任されております。平たく言えば……“神”ですかね』
その人物━━ラプラスはニヤリと笑みを浮かべる。
中性的な顔と声で性別はわからない。
まるで奇術師が着ているような派手なシャツ、赤と黒のチェックのベストに黒いシルクハット。
右目は前髪で隠れており、左目の下にはクラウンに似た涙の化粧がある。
『私が本日赴いたのは他でもございません。アップデート情報について皆様にお伝えするためでございます』
ラプラスは笑顔と丁寧口調を崩さないが、それでも妙に胡散臭い。
むしろその二つもそれに拍車をかけている。
慇懃無礼という言葉を絵に描いたようなやつだ。
もっとも嘘をつく意味などあるはずもないので、杞憂に過ぎないだろうがな。
『今回のアップデート、その目玉は皆様ご存知相殺システムの正式導入!』
ラプラスがそう言うと、画面がプレイヤーのデフォルメされたキャラクターに切り替わった。
ヤバい、まったくご存知ないものをご存知と言われてしまった。
『相殺システムとは簡単に言うのならば“攻撃を攻撃で防ぐことができるようになる”システムです。魔法や矢を剣で防ぐも良し、相手の魔法を己の魔法で喰い破るも良し。何をするも皆様の力量次第で叶う。それが相殺システムでございます。詳しくは別の解説をご覧下さいませ』
ラプラスが話すと共に、デフォルメキャラクターがワチャワチャと動き、戦闘時の再現をしてみせる。
その中には剣で魔法を斬り払っている様子も含まれていた。
無駄に凝ってんなあ。
相殺システムは今までも仮導入されていたらしい。
今回はそれの正式導入の告知だそうだ。
俺の今までの戦闘を思い返すと、それらしきものは確かにあった。
森でスタンプボアの突進を正面から殴り倒してノーダメなのも、アリエスの魔法を斬り刻めたのも相殺システム絡みだろう。
だとしたら、俺はかなりこのシステムに助けられていたようだ。
『その他、バグの修正や一部スキルの改善などを行っております。なお、改善されたスキルはそのスキル所持者以外は見ることができませんので悪しからず』
スキルの内容がバレたら、そのプレイヤーは必然的に手の内を一つ晒すことになる。
マジックでタネを事前に示すようなものだ。
見せないのは当然だし、それで文句を言うやつは多分ゲームを理解してないか、ただの馬鹿だ。
『今回はこれまで。それでは皆様━━良き“もう一つの人生”を!』
ラプラスがそう言うと同時に、ウインドウが掻き消える。
まるで一種の寸劇でも見せられた気分だ。
不快なわけでもないが、なんとなく良い気はしなかった。なんなんだ?
まあ、そんなことを考えても仕方がない。
切り替えて次の階層に進むとしよう。
階層を移動する方法は実は三つある。
一つ目はフロアボスを倒して現れる魔法陣を使う方法。
再びアリエスを倒してもいいが、時間が掛かりまくるので今回は却下だ。
二つ目は各階層の転移施設の魔法陣で移動する方法。
大半のプレイヤーは基本この方法で移動している。
俺も今回はこれで移動するつもりだ。
三つ目の方法はまたの機会に説明するとしよう。
俺は転移施設へ向かった。
転移施設と言っても、柵に囲まれた魔法陣があるだけなので、移動することに対しての感慨は特に無い。
転移施設へと辿り着くと、すぐさま魔法陣にのった。
[転移を行いますか? YES/NO]
もちろんYESだ。
そう念じると、魔法陣の光が強まり、俺の身体を包み込む。
俺はその光に思わず目を閉じた。
◇ ◇ ◇
やがて、まぶた越しの光が収まるのを感じ、おそるおそる目を開いた。
目の前に広がったのは今までとは明らかに違う街並みだった。
建物にはあまり変化は無いが、周りにはアリエスの巨大樹には及ばないが、相当な高さを持つであろう嬉々が並んでいる。
第一層が森だとしたら、第二層は密林と表現するのがふさわしいだろう。
第二層、通称『怪虫の密林街』。
その名に恥じぬ木々の群れに圧倒された。
俺は顔が笑みに歪むのを抑えられなかった。
さて、次はどんな敵に会えるだろうか。




