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転生暗殺者のゲーム攻略  作者: 武利翔太
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第百五十六話 破綻生物

四月って忙しくってぇ……(一ヶ月更新していない大愚か者)


これからはできるだけ頑張ります(自主的に磔にされ石を投げられるのを待つ)

 アルド翁の言葉によって対策会議は締められ、それからの行動は実に迅速だった。

 まず行われたのは非戦闘員である住人たちの避難。

 警邏隊のおよそ三分の二が住人たちを引き連れ、近くにある洞窟に籠城するそうだ。

 しかし、そこも強いモンスターが出たときの緊急避難用らしく、一時しのぎにしかならないだろうと予測されている。

 片腕かつ近接格闘しか手段のないタイガと広範囲攻撃手段を持たないセレンさんは避難経路のほうへ回った。

 そして、残る警邏隊の三分の一と俺たちはバッタどもを迎撃する準備を整えていた。


「レンレン、そこちょっとズレてるよー」


「え? ……ホントだ。思ったよりも難しいな」


「まあ描く機会無いとそんなもんだよねー」


 俺はといえば、ミューラ女史監督のもと迎撃用魔法陣を地面に描き込む作業を手伝っていた。

 詳しくは聞いてないのでわからないが、なんでも魔力を込めると一定時間火柱を立てる魔法らしく、これをバリケードとするそうだ。

 俺以外にも気休め程度の防御壁を立てに行った警邏隊の一部以外はこの作業を行っている。

 地面に魔法陣を描き込むためには特殊な素材を使ったチョークみたいなのを使って描くんだが、これはミューラ女史が蓄えていたものを全放出したらしい。

 この人もこの村に相応の愛着があるということなのだろう。


「ところでミューラ女史、ガラはどこに?」


「ガラならそこにいるよ」


 ガラはここにいる者の中で……というより、『アナザー』全てを見ても指折りの殲滅能力を持つ。

 今回の迎撃だって俺たちというよりもガラとそれ以外と言っても過言じゃない。

 そんな最重要人物であるガラの様子が気になるのは俺じゃなくても当然だと思うが……当のガラは祈るように手を組んで近くの石に腰掛けていた。

 ……何してんだアイツ?


「……アレは何をしてるんで?」


「んー、詳しくは言えないけど……まあ役に立つことだよ」


「……そっすか」


 気にはなるが、ガラだってここを守る以上は妙な真似はしないだろう。

 俺も俺の仕事に集中しよう。


         ◇ ◇ ◇


 そうして一〇分ほどその作業を続けていると、一人の男がバタバタと慌ててやってきた。

 その男が何かを言う前に、俺たちは何が起こったのかを察した。


「報告します! レイドボスと思われるバッタのぐ」


「よし、迎撃態勢に移れぃ!! 件の虫けらどもをこの村に踏み入れさせるでないぞ!!」


 こっちで防衛の準備を行っていたアルド翁はその報告をぶった切り、その場にいた者たちに号令を飛ばす。

 報告を行った当の本人はなんとも言えない顔をしているが、無理矢理気持ちを呑み込んだのか、即座に行動を開始し、俺たちもそれに倣って打ち合わせ通りの配置につく。

 そして、全員が予定通りの場所に辿り着いた時……空の端にそれは現れた。

 まるで雨雲が流れるように少しずつこちらへ向かってくる黒い塊……俺たちが見た、バッタの群れだった。


「見えたぞ!! アレだ!!」


「ユカ、【遺宝への導き手(ルートリード)】は!?」


「反応してる!! 名前は……『“無量大蟲(むりょうたいちゅう)”インフィクト』!! 幻想級(ファンタジークラス)レイドボスだよ!!」


 ユカから告げられたその言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。

 幻想級(ファンタジークラス)、俺が対峙したレイドボスの中でも最高位であり、レイドボスの等級の中では上から二番目。

 そしてこれは聞いた言葉だが……レイドボスは幻想級を超えると生き物から災害の域に移るという。

 蝗害そのもの……いや、時間で解決できない上に殲滅もかなり困難となると、恐らく被害は現実世界(リアル)のそれを上回る。

 正しく幻想(ファンタジー)と呼ぶに相応しいだろう。


「魔法兵、構え!!」


『応っ!!』


 アルド翁の指示の元、警邏隊の吸血鬼たちはそれぞれの魔法を発動させる。

 それに続いて俺も魔法を展開、セキも召喚して魔法火力を倍プッシュだ。

 そうして俺たちはバッタども……インフィクトの接近を待つ。

 やがてインフィクトは俺たちの姿を認識したのか、先ほどのようにこちらへ降りてくる。

 まるで怪雨現象(ファフロッキーズ)のように空から降り注ぐバッタの群れが全員の射程範囲に入るのは……今。


「放てぇえええい!!!」


『おおおぉぉぉおおおおお!!!』


 アルド翁の合図によって、その場にいる全員が一斉に魔法を放つ。

 炎、水、闇、炎、炎、闇、炎、炎、炎……炎多いな、吸血鬼(ヴァンパイア)の適性の問題か?

 まあ実に属性の偏りがある魔法弾幕だが、一発一発の火力も数も十分。

 そうしてその魔法群はバッタの群れへと次々と着弾し━━


 ━━その爆煙を切り裂いて、さも当然のようにバッタたちは侵攻を続けていた。


 止まることは無いだろうと思ってたけど、勢いが緩むことすら無いのかよ……!!


「第一班撃ち方止め!! 迎撃魔法陣の準備を開始せよ!! その他は迎撃を続行!!」


『了解!!』


 だが、そんなことは承知の上。

 アルド翁はすぐさま指示を飛ばし、そこにいる全員が事前に決めていた防衛作戦の手順をなぞる。

 俺はセキをその場に残して近くの魔法陣へと駆け寄る。

 MPこそそれなりだが遠距離広範囲の攻撃魔法が多くない俺はこっちの起動要員に回されたのだ。

 えーと、確かやり方はどこでもいいから魔法陣に触れて魔法名を唱えるだけ……おお、MP減ってる。こんな状況じゃなきゃもう少し感慨深くなれるんだがな。


「防衛魔法陣、起動!!」


『〈天衝炎架(てんしょうえんか)〉!!』


 アルド翁の合図によって、俺たちは防衛魔法陣の魔法名を宣言する。

 そうすれば、魔法陣から天を衝かんばかりの火柱が立ち昇り、その勢いに圧されて俺は後方へと吹き飛ばされた。

 VITはノックバックにも影響するから俺の紙ペラ耐久のせいかと思ったが、他の魔法陣を起動した吸血鬼たちも吹き飛んでいるからそういうわけではないらしい。いや、そんなものを使わせるな。


 だが、そんなイカれた勢いだからか、その効果は絶大。

 立ち並ぶ十数本の火柱は隙間無くインフィクトの前に立ちはだかり、迫るバッタの群れを焼き尽くしている。


「よし、止まったぞ!!」


「まだじゃ!! 観測班は虫どもの動向を監視し続けよ!! 殲滅するまでは気を抜くでないぞ!!」


 インフィクトの侵攻が止まったことによりわずかに浮足立った警邏隊たちを、アルド翁は一声で鎮める。

 事実この火柱も一時的なものだ、殲滅には至らないだろう。

 なんなら、迂回するなり一旦その場で止まるなりすれば群れの減少は止まるのだ。

 虫であるがゆえの知能の低さのおかげで助かってるとも言える。


「む、どうした? 奴らが何かを……なんじゃと?」


 そんなことを考えていると、アルド翁がやたらとデカい独り言を話し始めた。

 おそらく観測班から通信魔法を受けているのだろうが……話しているうちに、アルド翁はわずかに顔をしかめた。


縦列に並んだ(・・・・・・)じゃと?」


 どうやら、インフィクトはまだまだ止まってはくれないらしい。


◇NoSide◇


 空を覆う無数のバッタ……インフィクトは目の前に立ちはだかる炎の壁を無数の目で見つめていた。


 その無数の蟲はただ生存本能のままに進んでいただけだった。

 炎の壁を盾にして逃走した数匹の獲物を追っていたら、それと同じ生物が多く生息している地に辿り着いたために、それらを喰おうとした。

 彼らからすればただそれだけのこと。

 そして、たった今、先程と同じような壁を前にして、無数の分体が破壊された。


 ━━これは、先程と同じ存在がやったものだ。


 ━━この近くには、我々を殺し得る存在がいる。


 本能に喰い潰されかけた、インフィクトに遺る僅かな思考がそう結論づける。

 このまま殲滅されることはなくとも、この近くの生物を喰らうこともできず、多くの分体が破壊される恐れがあることも、彼らは理解した。


 ━━どうすれば、あの獲物を喰らえるだろうか。


 だとしても、彼らが止まることはない。

 自らが滅ぼされることすらも理解した上で、生存本能……それに基づいた食欲を優先する。

 それこそがインフィクトの存在意義。

 そして、その目的を達成するために━━彼らは試行を止めない。


 インフィクトは無数の分体を縦に整列し、炎へ飛び込んでいく。

 当然のように先頭の分体から焼失していくが、それすらお構いなく次々に炎へと突き進む。

 ある時は他の分体によって加速して打ち込んだり、ある時は一塊になって突貫したり、さまざまな手段を用いて突撃していく。


 傍目から見れば集団自殺にも見えるような異常行動も、インフィクトからすれば真っ当な試行。

 全ての分体が掃討されない限り死なないがゆえの歪な生存本能がもたらした破綻した行動。

 真っ当な思考では辿り着かないような異常性。

 それ故に━━“無量大蟲(むりょうたいちゅう)”インフィクトはレイドボスなのだ。

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