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転生暗殺者のゲーム攻略  作者: 武利翔太
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第百三十九話 ケダモノ

◇Side:???◇


「全く、派手なことしてくれるよね」


 屋敷中に響いているであろう地響きを感じながら、ボクは目の前で整備している“ギア”と“スミス”……二体の『ギルティア・ハイレイン』を見ながらぼやく。

 襲撃は何度も経験したけど、少数ながらもここまでの戦力を揃えて来られたのは初めてだ。

 それに、数少ない人員を的確に退路を断つように配置されている。

 『ギルティア・ハイレイン』を倒せるような者も何人かいるようだし、腕の立つメンバーと良い指揮官がいるようだ。

 とはいえ、だからといって大人しく捕まるわけにもいかない。


 さっき修練場まで来ていた金髪の女性は“ブーツ”で対応済み。

 地下にいるらしい他の襲撃者も“ビッグソード”を復活させて差し向けたし、もう数人『ギルティア・ハイレイン』を送り込めば殺せる。

 地上の屋敷内で暴れている襲撃者たちも『ギルティア・ハイレイン』で抑え込み、玄関ホールの主力と思わしき人も彼女に任せれば大丈夫。

 あとは整備が終わった後にコレ(・・)で玄関ホールを襲い、その混乱の隙にあの子や他の構成員たちを出来る限り回収していけばいい。

 最悪の場合はあの子さえ回収できれば━━


「ッ!!」


 瞬間、ボクの脳にチクリと電気が走ったような感覚が過ぎる。

 “チェイン”がやられた……いや、それだけじゃない。

 “ハンマー”や“ダブルソード”、それに“ナックル”も……各所のギルティア・ハイレインとの接続(・・)が途切れてる。

 ボクのスキルのタネに気づかれたか……マズイね、このままだとここに来られるのも時間の問題かもしれない。

 奥の手(・・・)もコレもあるとしても、全員を相手にするのは流石に無理だ。

 ……いや、無理だなんて言ってられない。

 ボクはなんとしてでもこのギルドを……あの子を守らなきゃ━━


「━━どらぁ!!」


 そして、そんなボクの考えを打ち破るかのように扉が破られた。

 そこにいたのは、“ビッグソード”を当てたはずの黒い服の少年。


「ハロー、首魁疑惑くん。ノックしたほうが良かったかな?」


「……いや、いいよ。誰かが入ってくるは察してたからね」


 ああ━━ままならない世界だ。


◇Side:アレン◇


 セレンさんにあの場を任せ、俺は指し示された部屋の扉を蹴り破った。

 そして、その先にはセレンさんが言っていた通りの特徴を持つ男の姿。

 白髪に灰色の瞳、痩躯の体格には不釣り合いのオーバーサイズの服をゆるく着こなしている。

 纏う雰囲気は希薄というか虚ろというか……まるでなにか半透明なモノに覆われているような、不確かな雰囲気。

 そうまるで……幽霊のような。


「ハロー、首魁疑惑くん。ノックしたほうが良かったかな?」


「……いや、いいよ。誰かが入ってくるは察してたからね」


 軽く問いかけてみれば、思ったよりもフランクな態度で返される。

 その間に周囲を見回してみれば、さまざまな機械類が置かれた雑多な部屋。

 物置というには整理されており、作業部屋としては少々乱雑だ。

 まあ、整理整頓ができないやつの私室と言われれば納得できそうな範囲ではあるか。

 だが、そんなことよりも気になるのは……白髪の男の後ろで何やら作業している二人の人間。

 よくよく見ればどっちも顔が仮面で隠れてるなあ……なるほど、アレ放置するとマズイやつだな?


「一応聞くが、名乗ってくれたりはするか? ああ、後ろの奴らはどうせ『ギルティア・ハイレイン』としか名乗らんだろうからいらんぞ」


「人に名前を聞くときは自分から名乗るものだろ?」


「それもそうか。俺は『栄光への旗印(グローリー・フラッグ)』所属ヒラ構成員のアレン。お前は?」


「悪いけど襲撃者相手に……それも殺しても意味のないギフテッドを相手に名乗る気はないかな」


 なんだテメェ、真に受けて名乗った俺がバカみたいじゃねえか。

 まあ、『ギルティア・ハイレイン』っていう顔を立ててまで素性を隠してる犯罪者が素直に名乗るかって言われれば当然なのはそうなんだが。


「これも一応聞いておくが、投降する気はあるか? 戦況を理解してるなら既に劣勢なのは察していると思うが?」


「悪いけど一切ないよ。ボクのスキルについて理解してるなら、劣勢なのは君たちのほうだって思わないか?」


 揺さぶりだな、そんなわけもないのはアイツのほうがわかってるだろう。

 仮面の破壊という簡単な対処法が割れた今、『ギルティア・ハイレイン』という存在は大した脅威ではなくなった。

 『仮面をつけた死体』という材料が必要な以上今すぐに量産というのも難しいだろう。

 時間をかけるほど有利になるのはこちらだ。

 白髪男の後ろで作業してる連中は気になるが、現状放置するしかないのが困りどころだな。


「投降する気はないらしいがどうする気だ? このままお喋りするのも俺としてはやぶさかではないが?」


「悪いけど、ボクには時間がないんだ」


 そう考えていたら、白髪男は何かの呪文のような言葉を呟き、手のひらから青白い炎を出現させる。

 攻撃かと身構えたが、白髪男はさらに呪文を続け、唱え終えた瞬間に青白い炎は揺らいで消えていく。

 瞬間、俺の【万能感知】が反応を示す。

 位置は……どちらも俺の後方!!


「残念、バレてるぞ!!」


 タイミングがわかってる奇襲ほど対処しやすいものもない。

 下段から掬い上げるような槍の下段から上段へ向かう薙ぎ払い、首を刎ねる軌道の長剣の横薙ぎ。

 それらを身体を倒しながら跳躍して旋回することで回避し、その回転を維持したまま手を伸ばして奇襲してきた者たち……二体の『ギルティア・ハイレイン』の仮面を引き剥がそうとする。

 しかし、それは予測済みのようで、両者にはバックステップで回避される。


「セキ!」


『御意!』


 だが、予測済みなのはこちらとしても同じこと。

 予測ができているならば、それに対処するための手も考えられる。


「〈旋嵐一擲(せんらんいってき)〉!!」


『【炎刃翼(えんじんよく)】!!』


 俺は腰の【黒月】を抜きながら旋回を加速。

 その回転のエネルギーを乗せて【黒月】を投擲し、二体のうちの片割れの仮面を狙う。

 もう一方には先んじて天井付近に待機させておいたセキが強襲し、炎を纏う翼を刃として振るう。

 俺とセキの攻撃は同時に命中し、それぞれ『ギルティア・ハイレイン』の仮面を破壊した。


「これでわかっただろ? こんな死体たちじゃ俺たちの対処はもう無理だぜ」


 そう言いながら、俺はあらかじめ【繰糸術】で括り付けておいた糸を引っ張って【黒月】を回収する。

 【繰糸術】は機動力を補佐する目的で使っていたが、投擲系のアーツと組み合わせるとリカバリーが効くようになる。

 地味だが思ったよりも使い勝手が良い。

 やはりスキルとアーツは使いかた次第だな。


「……そうみたいだね、『ギルティア・ハイレイン』じゃ君たちの相手は荷が重そうだ」


 俺の言葉に、白髪男は小さく溜め息を吐き━━


「━━それでは、直に叩くとしようか」


 ━━先程と同じ青白い炎を自身の手元に出現させた。


「何を……ッ!? まさか!?」


 それを見た瞬間、俺の脳裏にとある予感が過ぎる。

 咄嗟に俺は【瞬脚】を起動させて白髪男との距離を詰める。

 狙いは首、抑えることができれば最上、最悪でも挙動を遅らせる。

 俺はそうして白髪男へ手を伸ばして━━


「━━〈災霊嚥下(ソウル・アブソーブ)〉」


 ━━白髪男が青白い炎を呑み込み、殺気が一気に膨れ上がるのを感じた。

 本当に出す警報のままに空中を蹴ってその場から飛び退くと、俺の目の前を白髪男の手が通過する。

 通過した手が巻き起こした風を顔に感じながら、先程から明らかに雰囲気の変わった白髪男を改めて見据える。


 乱雑に切り揃えられた白髪は逆立ち、生気の薄かった灰色の瞳は大きく見開かれ血走っている。

 何かに覆い隠されたような不確かな雰囲気は、ギラギラとした獰猛な獣のような鋭い空気に。

 白髪男は両手を床につけて四足獣のような体勢を取り、鋭い視線と殺気を俺に向ける。


「わルイね、ショうネん。ナンどモいうガ、ボクにハジカんがナインだ」


 見開かれた目が俺を真っ直ぐに射抜く。

 その瞳には研ぎ澄まされた殺意だけでなく、ある種の覚悟のようなものが見え隠れしているように見えた。

 血走った目に目の前の俺ではない何かを映しながら、白髪男は歯を剥き出しにして食いしばる。


「━━デきるダけ、ハヤくオわらセヨう」


 そう言った白髪男は、獣のような唸り声を上げた。

 かくして、俺はケダモノとなった白髪男との戦闘を開始することになる。

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