第十三話 戦闘開始
次の日、俺はゴブリン狩りをしていた森のさらに奥地へと足を踏み入れた。
この先に第二層へ進むための『ステップダンジョン』があるからだ。
だが、複数のスキルを手に入れ、ステータスも上昇した今では、動き方を変えなければならない。
まずはそれを確かめるために、ゴブリンより多少強い相手と戦うことにした。
「どうすっかなぁ……。まあ、適当に彷徨ってりゃどうにかなるか」
そう思い、俺は己の気のままに森を散策することにした。
◇ ◇ ◇
「あ゛ー……疲れた……」
俺は半ば無意識にそう呟いた。
だって、かれこれ五時間くらい歩いてるだもん。
いくらなんでも遠すぎるだろう。
おまけにモンスターの数もなかなかに多い。
まあ、そのおかげでスキルの確認をできたのは、不幸中の幸いといったところか。
ちなみに一日一回限りのスキルは試していない。
特に【王命刃】なんかはボス戦でも使いそうだから温存しておく。
色々試した中では、一番使い勝手が良かったのは【遠視】。
感覚強化スキルの一つで、単純に視覚を強化するスキルだ。
MPとかを消費するわけでも、パッシブスキルというわけでもなく、自由に使える便利スキルだった。
感覚強化スキルは【遠視】しか買わなかったが、他も買っといて良かったかもしれないな。
他に有用だったのは【飛翔走】。
MPを消費して空中に足場を生み出すスキルだった。
その足場は一回踏んだら消えるし、他のものを遮ることはできない。
それでも無防備になりやすい空中での移動を可能にしてくれるのはかなり良い。
ただ、MP消費もそれなりに大きいので、MPを増やす装備なんかを用意したほうが良さそうだ。
あとは爆上がりしたステータスに身体を慣らすために、モンスターを狩りまくった。
【飛翔走】の練習にもなったし、レベルも上がったしで割とプラスだったかな。
まあ、モンスター倒したら他のモンスターも出てきて疲れたから、マイナスも多少はある。
プラマイなら若干プラスが上回るくらい。
この森には最初に倒した“ホーンラビット”を筆頭に、数多くの動物系モンスターがいた。
高い敏捷性と数的有利でプレイヤーを追い詰める狼“フォレストウルフ”。
高度な連携行動やスキルを使いこなすなど高い知性を持つ猿“ハンターエイプ”。
頭に生えた剣のように鋭い角を用いた突撃でプレイヤーを貫く鹿“ブレードディア”。
岩のような頑強な身体と毛皮から高火力の突進を繰り出す猪“スタンプボア”。
三メートル近い巨体と屈強な肉体を持つこの森最強の熊“ギガントベア”。
この五種類に序列をつけるとしたら、一体ずつの戦闘力なら、狼<猿<鹿<猪<熊。
さまざまな場面を想定して総合的に見るならば、狼<鹿<猪<猿<熊の順だ。
はっきりとわかっているのは狼が最弱であること。
一体一体もゴブリンより多少強いくらいだし、群れていたとしても、その連携はお粗末なもの。
多分同じ数でゴブリンと戦ったら、ゴブリンが勝つ可能性もあるだろう。
そのくらいには弱かった。
猿は一体では危険度は狼と大差ない。
しかし、複数相手になると話は変わってくる。
その理由は単純に連携が非常に上手い。
一体を倒そうとしたら、いつの間にか別の奴が後ろに回り込んでいたなんてのはよくあることだ。
それどころか、魔法攻撃と打撃攻撃を織り交ぜた多段攻撃をしてくることもある。
探索スキルを入手していなければ、危なかった場面も何度かあったくらいだ。
だが、その連携も慣れてしまえばそれまで。
動きが読めるようになってからは地力の差が出たのか、圧倒できるようになった。
鹿と猪はまったく問題無かった。
アイツら突進しかしないから、それを躱してガラ空きの首に短剣を叩き込む。
ただそれだけで終わってしまう。
あまりにもつまらなかったので、試しに猪の突進を【一撃必殺】を乗せて真正面から殴ってみた。
その結果、猪が爆散した。
突進しかしないというのに、それすら俺の拳に負けてしまったのである。
つまるところ、鹿と猪は狼クラスのザコだった。
鹿と猪との戦いで覚えてることなんて、どっかから蝶が飛んできたから、猪鹿蝶で縁起が良いなと思ったくらいだ。
熊はそれなりに強かった。
鹿以上の攻撃力、猪以上の防御力、狼以上の敏捷性、熊ならではの三メートル近い体躯。
知能という面では低いが、直感みたいなのが働くのか、機転も利く。
この森最強のモンスターの名は伊達ではなかった。
だがしかし、相手が俺だったのが悪かった。
俺からしたら、熊なんて黒鬼の完全下位互換に過ぎないのだ。
さらに、俺のステータスは黒鬼と戦った時よりも格段に上昇している。
熊との戦いは最初こそ五分ほどかかったが、後は一分そこらで勝てるようになった。
「はあ……」
俺の口から疲れと落胆の混じった溜め息が漏れた。
総じて言うなら、この森のモンスターは俺の敵ではなかった。
もう戦うのも疲れたな。走るか。
俺は森を駆け抜けた。
落胆した気持ちを無理矢理振り払うように。
◇ ◇ ◇
さらに歩くこと二時間。
俺はついにそこに辿り着いた。
そこは森の最奥に位置する。
うっそうとした森で、ほとんど植物の生えていない唯一無二の場所。
そこにある植物はたった一つ。
それは天を衝くような巨木。
幹は大人が一〇〇人集まってようやく囲めるだろうかと思うほどに太い。
それから生えた枝ですらそこらにある木々よりも太く丈夫に見える。
高さに至っては考えることすらバカらしくなる。
雄大で壮大な生命の力強さに、俺は思わず目を奪われた。
「━━凄い」
思わず漏れた俺の言葉。
自然を見て感動するなんて夢にも思わなかった。
しかし、それに水を差すような存在が現れる。
「メェエエエエエエエ!」
甲高い鳴き声と共に現れたのは━━羊。
当然ただの羊ではない。
このモンスターの名は『白羊王アリエス』。
第一層ステップダンジョン『大樹の森』のボスにして、第一層最強のモンスター。
その名に恥じぬ見事な立ち姿。
全長五メートルを優に超えるであろう巨躯。
美しい純白の毛皮。
見るからにとてつもない硬度を持つとわかる角。
全身から立ち昇る圧倒的な存在感は後ろの巨木にも勝るとも劣らない。
黒鬼と同等か、それ以上。
俺は気付かぬ内に笑みを浮かべていた。
さあ、新たに得たスキルやアーツの数々、お前で試させてもらうぞ。




