第百二十四話 手を伸ばす者
どうも、曜日感覚がバグっていたせいで昨日が日曜日であることを忘れていた愚か者です。なんなら三連休だということも今日気付きました。
ほんとにすみませんでした。
「そんで、アイツのタネって何なんです?」
「ああ、それはだね……」
俺がリズさんに問い掛け、リズさんはそれに応えようとした。
しかし、先程まで沈黙していたミューデッドが、それを阻むように攻撃を再開する。
さっき弾かれたというのに無策で攻撃するとは……死体だから脳みそが働いていないらしいな。
さっきと同じように無数の腕が俺たちに迫り、これまたさっきと同じように薄く黒い膜に弾かれ……ることはなく、そのまま突き進んできた。
「って、待て待て待てぇ!?」
「総員退避!!」
集まりだしていた俺たちはリズさんの号令で蜘蛛の子を散らすように散開した。
「リズさぁん!! タネ割れたんじゃないんですか!?」
「タネは割れているよ。ただ今のは簡易的な魔法防御でしかないから姑息的な手段でしかないんだ。あと、声を張るのが疲れたから【思念のイヤリング】をつけてくれ。残りはそれを介して話す」
言うほど声を張ってるようには見えないし、なんならさっきのテンション上がってた時の声のほうが大きかった気がしないでもないが、言ってもしょうがないので大人しく【思念のイヤリング】を装備する。
さっきの声が聞こえていたのか、リヒトも同様に装備。
通話を繋げていなかった三人に関してはリヒトがセレンさんを介して全員とリズさんを繋げていた。
……それにしても、斬れることがわかってからは対処が楽になったとでも言いたげに射出される腕を斬り刻むリヒトはどうかと思う。
『ミューデッドのタネっていうのは、魔法なんだよ』
全員が【思念のイヤリング】を装備したことを確認したリズさんは語り始めた。
『魔法? 身体を変形させてるのが魔法ってことすか?』
『半分正解だが、半分外れかな。そもそも【破壊属性】無しで損壊できるかたちあるものを考えてみるといい』
ふむ、【破壊属性】無しで壊せるものか。
まずは装備品。
これは壊せるというよりは耐久値が尽きることによる崩壊に近いが、破壊することはできないことはない。
次に建造物。
特殊な能力なんかで保護されていない限り、誰かが作った建造物は破壊可能だ。
最も、始原文明の遺跡なんかは単純に硬すぎて壊せないことも多いが、それはまた別の話。
そして、最後に魔法。
地属性とか、見たことはないが氷属性魔法とかで作られたものは破壊することができるそうだが……
「ん? 魔法?」
魔法で作られたものは【破壊属性】無しでも破壊することができる。
ミューデッドの肉体は【破壊属性】無しで破壊できたが、装備品でも建造物でもない。
リズさんがさっき展開した魔法は一時的な魔法防御。
俺はこれを『魔法による防御』という意味だと思っていたが、『魔法を防御する』という意味だったとしたら……
「アイツの身体そのものが魔法?」
『その通り。ご褒美に一〇〇ベトナムドンをあげよう』
だから日本円でいくらなんだよ、時折出てくるその謎通貨。
まあ、そんなことはさておき、ミューデッドの身体が魔法でできてる……仮称で肉体魔法とでも名付けておくか。シャイニング・ウィザードでも使ってきそうだな。
そうだとするなら、アイツの能力全てに対しての説明がつく。
肉体の変形と膨張は根幹は地属性魔法とかと同じように、その属性にまつわる物質の生成と操作と変形。
肉体が消し飛んでも再生したのは、魔法で新しく作り直しただけ。
完全に実体があるが、その性質はゾンビというよりはレイス系のアンデッドや精霊のほうに近いか。
さて、そんなわけでアイツの能力自体は割れたわけだが……
「結局どう倒す?」
『そういうタイプなら核があるのは断定していいだろ。やっぱ斬り刻めばいんじゃね?』
「いやだから、それをどうするのかって話だよ」
核があるんならそれを潰せば良いのは俺でもわかる。
だが、空高く飛んでるミューデッドに攻撃を当てる手段が無さすぎる。
遠距離から攻撃できるのはセレンさんの矢、俺とリヒトとリズさんの魔法、ただしメインじゃないから火力は無いし、乱発も難しい。
あとはカエデの拡張斬撃……数は揃ってるが、撃ち落とすってなると難しいか?
クッソ、やっぱりユカ連れて来るべきだったか?
『やっぱアレンが空走るしかねーんじゃねーの?』
「最悪の場合はやるさ。だが、俺一人だと殺されかねないからあんまりやりたくねえ」
リズさんの防御が簡易的なものでしかないということに気づいているのか、今でもミューデッドの連撃は続いている。
疲れを知らぬアンデッドだからなのか、それともレイドボス故のステータスの高さなのか、その攻撃は全く収まる気配がない。
ミューデッドの身体が魔法製ならば魔力が尽きるまで腕を斬り飛ばすというのも考えたが相手はレイドボス、おそらく魔力が尽きるより先に俺たちが力尽きるだろう。
せめてアイツに明確なダメージを与える攻撃手段があればどうにかなるんだが……
『あーあー、アレン、聞こえてっか?』
そんなことを考えていると、今まで沈黙していたセレンさんからの通信が入った。
「セレンさん? どうしたんすか?」
『あーいや、俺っていうか近くにいたリラとカエデからの話だ。今は回避に手一杯だから代わりに話してくれってよ。肝心の内容なんだが……』
セレンさんはそう前置きして語る。
『━━ミューデッドにダメージ入れられるかもしれない手段がある、ってよ』
◇NoSide◇
アレンやリヒトが全員でミューデッドへの対応策を練っていたとき、当のミューデッドは空を飛びながらそれを見下ろしていた。
否、見下ろしていたというのは正確ではない。
ミューデッドは━━彼らを見ていない。
アレンたちは知る由もないが、悪魔には明確な位階が存在する
悪魔やその断片が取り憑いた人間やその死体である邪人、その上に下位、中位、上位、最上位と続く。
そして、上位の者に対して下位の者は絶対服従、逆らうことはできない……というより、そのような考えに至ることすらない。
ミューデッドはバアルゼブルが興味本位で生み出した邪人の突然変異体。
悪魔に憑依された死体にさらに悪魔を複数体憑依させるという実験により、肉体全てが魔力に変換されたという特殊個体である。
他に例を見ない存在であるがゆえにアンパラレルドモンスターに認定されたが、それでも悪魔のヒエラルキーからは逃れられない。
最上位悪魔であるバアルゼブルからミューデッドに下された『敵対者を討滅せよ』という命令。
ミューデッドはそれに対して何も考えることはなく、ただその命を果たすために動いている。
ゆえに、ミューデッドはアレンたちを見ていない。
ミューデッドは、バアルゼブルのみを見ている。
バアルゼブルの命に応えられず、その罪を償わせられることを恐れている。
そして、なんらかの抵抗こそあったものの、相手は自身の攻撃へ完全な対応はできていない。
相手を殺せることを確信したミューデッドは、心から安堵していた。
だからこそ、というべきか。
その盲目さゆえに━━ミューデッドの目にそれは映らなかった。
「いくッスよー!!!」
誰かの軽快な声とともに、ミューデッドのもとへ何かが飛来してきた。
それは一本の長剣。
空を切る音を立てながら迫るそれを見ても、ミューデッドは特に思うことはない。
万が一のことを考えて無数に生やした腕の一本を掲げて防御し、
━━ジュウ、という音を立てて長剣の刺さった腕が灼き崩れた。
「━━━━━AbOa?」
ミューデッドの動きが止まる。
ミューデッドは何が起こったのかもわかっていない様子で、崩壊する腕を見ていた。
ミューデッドはすぐに腕を再生させようとし━━変わらずに灼け続ける腕を目の当たりにした。
ミューデッドは慌ててその腕を引き千切った。
「ダメージあり!! 有効です!!」
「やったッス!! いけるッスよ!!」
腕が再生できないという異常事態を前に、ミューデッドが困惑していると、そんな声が聞こえた。
そこにいたのは、ミューデッドが殺せと命じていた六人のうちの二人……小柄な全身鎧と長剣を持った少年だ。
ミューデッドはそれを見て自身が傷を負った原因があの二人にあるのだと察し、
「OOOoooooAAAaaaaa!!!!!」
━━激怒した。
産まれ墜ちてからの極めて短い時間でも、自身を傷つけられたことなど決して多くなかった。
傷つけられたとしても数秒あれば完治するような、ミューデッドからすればかすり傷にも等しいものばかり。
しかし、傷が治らないという理解不能な現実を前にして、彼はその元凶に激しい怒りと殺意を向けた。
「━━怒りは動きを鈍らせるぜ?」
そして、その激昂した隙を見逃すほど━━アレンたちは優しくない。
怒り狂って何も見ていなかったミューデッドの目に小柄な全身鎧と剣を持つ男……リラとカエデを映す。
強い怒りを向けるミューデッドは改めてその二人を見据え、その代償としてそれ以外が視野と思考から消えた。
その結果としてミューデッドは━━この場にいる誰よりも目を離してはいけない者から目を離してしまったのだ。
「想定外だが、想像以上だったな。まあお前の不注意が原因なんだからよ」
そうして、ミューデッドの背後に回り込んだアレンはそのまま短剣を突き刺し、
「━━地に足つけて勝負しようぜ。お互いにな」
━━アーツを解放した風を纏う短剣が、背中ごと両の翼を吹き飛ばした。




