第百二十三話 暴れ狂う屍
最近二週間毎の投稿になってしまっている……どうにかせねばと思ってはいるのですが、二月は諸事情により多忙になると思われますので……がんばります。
報酬を与えるという名目でバアルによって……召喚? 誕生? されたレイドボス『“変幻屍”ミューデッド』。
なるほど、超獣遺宝は唯一無二の逸品、報酬としては破格だ。
もちろん、倒せればではあるが。
「これを報酬と呼ぶとは、中々性格が終わってるな」
「倒す必要があるというのも厄介だな。全員に行き渡るものではないし」
「だけど、わかりやすくなっていーじゃんかよ。アイツぶっ飛ばしたやつが報酬ゲットってわけだ!」
俺とリズさんが二人してあの二体に悪態をついていると、リヒトが寄ってきてニッと笑った。
全く、コイツというやつは……
「お前たまに天才になるよな。俺もそれに賛成だ」
「だろ? ってなわけで俺から行く、ぜ……?」
あれ、我先に駆け出したリヒトが急に止まった。
敵と見なせば言葉が通じない限り即ぶん殴りに行く蛮族と同じ思考をしているリヒトが何もなく止まるとは思えな……わあ、なんだあれ。
ミューデッドの……右腕か。肘から先の前腕部がそれ以外の身体全てよりも大きく膨張している。
なるほど、己の身体を自在に変化させるアンデッドだから“変幻屍”。
レイドボスってわりと直球のネーミングしてるから名前から能力の予測ができることも多いよな……とまあ、そんなことはさておき。
ミューデッドに知能と呼べるものがどの程度備わっているのかは知らないが、なんの意味もなく身体を膨らますはずなどない。
サイズを大きくする、というのは的を大きくするデメリットはあるが……その分攻撃範囲は拡大される。
そして、あんなわかりやすい武器を振り上げたのならば……後は振り下ろすのみ。
「全員伏せろ!!」
「AaAAa」
リヒトの警告とミューデッドの形容しがたい鳴き声が同時に発せられる。
その瞬間、俺たちはその場で倒れ込むように伏せた。
━━その半秒後、ゴウッ、という風切り音を伴って膨張した腕が俺たちの頭上を通過した。
この音、風船みたいに膨らんでるんじゃなくて中まで肉がミッチミチに詰まってるみたいだな。
その分質量が増えて振り回しにくくなるはずだが、慣性でブン回してるのか、扱い切れるだけのSTRがあるのか……どっちにしろ当たればダメージは相当なものになるだろう。
まあ、一度見た以上あんな大振りはそう簡単には当たらんだろうし……既に突撃してるバカもいる。
「あんな雑な大振り、見てから回避余裕なんだよなぁ!!」
そのバカとはリヒト。
全員伏せろ、とか言っていたわりに当の本人は突撃を続行していたのだ。
「屍ってことはアンデッド!! アンデッドなら、コイツが効くだろ!! 〈シャイニング・ブレイバー〉!!」
アーツの発動により、リヒトの聖剣が強く輝く。
膨張した腕を振るわれている時も足を止めなかったリヒトはそのままミューデッドの懐に潜り込み、逆袈裟に斬り上げる。
斬撃とともに神聖な気配を感じさせる光の奔流が解放され、ミューデッドの身体に深々と斬撃痕を刻みつけた。
━━そのはずだった。
「AboAaBOa」
「……あん?」
斬撃は確かに命中していた、それは離れた俺たちから見ても明らかだった。
放たれた光の束も、ミューデッドに刻まれた裂傷も、俺たちの目にハッキリと映った。
だがしかし、リヒトの眼の前に立つミューデッドは全くの無傷。
ダメージどころか、身じろぎ一つすることなくただそこに立っている。
「BoaABoboOa」
そして、そのままさも当然のように左腕も同様に膨張させてリヒトに殴りかかった。
「うおお、ウソだろぉ!?」
だがまあ、その程度でリヒトが死ぬわけはない。
膨張した右腕のせいでバックステップができないので、バク宙で回避。
さらには、着地した瞬間にバックステップで俺たちのいるところまで戻ってきた。
相変わらず反射神経と身体能力がおかしい男である。
「リヒト、情報共有」
「全力で斬った、でもダメージ無し。多分無効化じゃなくて再生とか復元の類っぽい? 攻撃は膨らましてから振りかぶるせいでラグあるから避けるのは簡単。こんなもんかな」
「上々」
無効化じゃないってのはリヒトがつけた斬撃痕を見たことからわかっていた。
膨張からの攻撃も最初は面食らったし、範囲と火力はそれなりだが、リヒトの言う通り回避は容易。
となると、後はあの再生能力を突破できれば倒せそうだが……
「こういうのってどうしたらいいんだ?」
「無敵系のモンスターを倒すにゃ『弱点をぶん殴る』、『特攻攻撃ブッパ』、『特定手段での能力解除』の三パターンまたはその複合って相場は決まってんだよ」
「アンデッド系だったら二番目が多いかな。だが、聖属性と光属性持ちのリヒトの攻撃も再生されたから望み薄だろうが」
「周囲にギミックのようなものはありませんし、三番の可能性も除外して良さそうですね」
「あそこで観戦してる二人は関係ないんスか?」
「それならあの二人もわかりやすいアクションとるだろ。そもそも、あの二人をどうにかするミッションとかできるとは思えん」
それはその通り。
ミューデッドを生み出したのか召喚したのかは定かではないが、少なくとも従えている以上、あの二人がミューデッド以上の力を持っているのは違いない。
あの二人を無関係だと断定すると、残る可能性は一番目だがどうしたもんか……
「なるほど、つまり弱点を破壊するまで斬って斬って斬りまくればいいってことだな!!」
あんまりにもな脳筋発言だが、それができれば一番良いのもまた事実。
どういう仕組みで再生してるのかもわからない以上、それが最善か。
「よしリヒトにレンくん、二人でボコれ。私達は援護に専念する」
「援護って何したらいいんスか?」
「邪魔にならない位置で頑張れ〜って声掛けてやればいいんだよ」
「ひょっとして俺ら特攻役にさせられてる?」
「仕方ねえよ、大人しく当たって砕けよう」
「俺は砕けたくねーんだけどなー」
ここでうだうだ言っても事態は好転するわけないんだ、時間を無駄にするよりは俺たちの命を無駄にしたほうが進展があるだろうよ。
てなわけで、さっさと攻撃に移……あれ? なんかおかしいな?
「なあリヒト」
「おん? どしたよアレン」
「ミューデッドって、羽根生えてたよな?」
「あー、生えてたなコウモリみたいなやつ。でも、そんな大きくなかったし、雰囲気づくりの飾りみたいなもんなんじゃねーの?」
うん、そうだよな、そうだったよな、俺の記憶でもそんな感じだったんだが……
「……なんか、羽根デカくなってねえか?」
ミューデッドの背中に生えてた羽根はせいぜい五〇センチ程度、全力で羽ばたいたとしても身体を少し浮かすのが限界だっただろう。
しかし、今は片方だけでミューデッドの胴体の大きさを超えている。
明らかに変化したミューデッドに目を取られている隙に、ミューデッドの翼はゆっくりと羽ばたき始め、
「BoaAobA」
強烈な風を巻き起こしながら、ミューデッドは空高く飛んだ。
「うおい、ウソだろ!? なに飛んでんだあのバカ!! 対空性能低いんだぞ俺は!!」
「落ち着け! 向こうと距離が空いたってことは向こうもそれだけ遠くなってんだ! つまり、相手側からの攻撃手段もない!」
今までに見えたアイツの攻撃手段は身体の一部を膨張させて振り回すだけ、この距離なら振るのを見てから回避することもできる。
ひとまずは相手の出方を伺って……あれ、おかしいな。
「……なあ、リヒト」
「おう、今回は流石に俺でも一目でわかるぜ」
うんまあ、そりゃそうだよな。
腕が増えてるんだから気付かないほうがどうかしてる。
さっきまで人型であるゆえに二本だけだった腕が三、四、五、六……よくわからんが、少なくとも一〇倍以上には増えてるだろう。
しかし、サイズは最初に生えていた時と変化ない。
振り回すのには向いてないと思うが……そう思っていたらミューデッドは先程とは逆に腕を縮めている。
……まさかとは思うが、いやでもそんな発想が本能で出てくるのか……?
「BobaAObO」
「ヤベェ避けろ!!」
俺と同じ発想に至ったらしいリヒトがそう叫んだ瞬間、ミューデッドが縮めていた腕が解放され、数多の腕が引き絞られた弓のように飛んできた。
「どわぁぁぁあああ!!?」
「ずいぶんと派手な攻撃……うおぉ、危ね!!」
一発目が着弾してからすぐに二発目が、その後すぐに三発目、それを躱しているうちに放たれた腕が再び縮められ、次弾が装填される。
連撃に次ぐ連撃、回避に精一杯で弾幕……いや腕幕? を突破する隙がない。
「リヒト! スプルは!?」
「この狭い空間じゃ事故る可能性のほうが高い! 時間制限もあるし、最悪の時はやるができるだけ使いたくねえ!!」
それはそうなんだが、俺以外にもう一人空を飛べる奴がいれば……なぜかずっとセキは反応ねえしどうするべきか……
「うわぁぁぁあああああ!!!」
そんな時、部屋に高い悲鳴が響く。
声のした方を向くと、足でももつれたのかリラが倒れ込んでいた。
それを見逃してやるはずもなく、容赦なく腕の弾幕がリラに降り注ぎ━━
「〈蒼海の太刀・激浪〉!!!」
こちらもそれを見逃さない、とでも言いたげなカエデの斬撃がミューデッドの腕を斬り飛ばした。
……ん? 斬り飛ばした?
「リラさん、大丈夫で」
「カエデ!! お前のスキル、【破壊属性】ついてないよな!?」
「ふえ!? あ、はい、そうですけど……あ、そうか!」
カエデがリラに声をかけようとしたが、それを遮って俺が問い掛けると、変な声を出しながらも肯定し、俺の意図を理解したらしい。
このゲームにおいて、部位破壊というのは【破壊属性】が無いと不可能である。
それは対モンスターでも同様。
だったら、なんでカエデのスキルで腕を斬り飛ばせたんだ?
ミューデッドの肉体を変形させてるスキルに干渉でもしたのか、あるいは変形させた肉体は破壊が可能になるのか、それとも……
「アレン、危ねえ!!」
突然リヒトから発せられた言葉に、俺は思考の海から意識が覚醒し━━迫ってきた腕が目に映った。
クッソ、思考にリソースを割きすぎた。
いや、斬り落とせるってわかってるんだから斬ればいいだけ、短剣は腰の鞘、抜刀しながらなら斬り落とせ━━
「━━〈暗夜の帷〉」
そう思って腰の短剣に手を伸ばした瞬間、俺へと迫るミューデッドの腕がバチンッ、という音を立ててナニカに弾かれた。
いや、違う。弾かれたんじゃない。
━━ミューデッドの腕が弾け飛んでいる。
俺の眼の前には、たった今それを為した黒い膜が広がっていた。
さっき聞こえた声からして、これを展開したのは……
「幽霊の正体見たり枯れ尾花……レイドボスのような強敵を完封できるとは、やってみるものだね。そして……実に気分が良い!」
俺の予想通り、そこにはどこまでも嬉しそうで邪悪な笑みを浮かべるリズさんがいた。
……あの人、味方で良いんだよな?
表情がまるでラスボスの側近のマッドサイエンティストみたいなんだが……
「再生のタネは……いや、ミューデッドの正体はわかった。さあ諸君、反撃開始といこうか」
楽しそうに笑いながらそう宣言するリズさんに若干引きながらも、俺たちはミューデッドへの反攻を開始する。




