第十一話 装備依頼
メイさんが久しぶりに登場しますが、口調がメチャクチャと感じるかも知れません。まだメイさんの口調はまだ定まっていないので、決まり次第改稿します。
次の日、俺は第一層でとある場所を目指して歩いていた。
現在向かっているのは、メイさんが営んでいる鍛冶屋だ。
ユニークシリーズを手に入れたのに、今更なんで行くんだ、と疑問を持たれるのは間違いないだろう。
だが、俺は普段使いの防具が欲しいのだ。
理由はいくつかある。
一つ目は単純に目立ち過ぎるから。
目立つだけならそのうち慣れるだろうが、それによって変な輩に絡まれると、非常に面倒くさい。
二つ目はパーティプレイのため。
俺は現在はソロプレイだが、いずれは晃生たちと共にパーティを組むことになる。
そのための予行練習として他のプレイヤーとパーティプレイをしたいが、これまた面倒な奴に絡まれる可能性がある。
あくまで一般人ですよー、とアピールするために平均的な装備が欲しい。
三つ目は……というか、これが最も重要な理由だ。
それは今日出された通知に書いてあった『ランクマッチ』の存在。
ランクマッチとは月に一度ほど、『アナザー』内最強を決めるという名目で開催されている大規模なイベントだ。
ランクマッチでは撃破数、死亡回数、与ダメージ量、被ダメージ量などの観点から順位がつけられ、総合百位以内のプレイヤーはゲーム全体に公表される。
このランキングはギルドを作る際にも結構重視され、ランキング上位者のギルドは人が集まりやすいようだ。
実は俺はこれに本気で挑むつもりでいる。
具体的に言うならランキング一〇〇位以内が目標だ。
別にこれと言った理由があるわけではない。
ただ目指したいから目指す。それだけである。
まあ、だからってわけじゃないが、出来る限り警戒されるのは避けたい。
そんなことを考えていると、もう目的地であるメイさんの鍛冶屋の目の前まで来ていた。
考えごとをしてると、時間が過ぎるのが早くて困るな。
頭を切り替えて、鍛冶屋の扉にあるノックするための輪っかみたいなやつを使ってノックする。
毎回思うけど、この輪っかって何の意味があんの?
「はい、どうぞ!」
少し待って聞こえてきたのは、明らかにメイさんではない明るく元気な声。
いや、メイさんが暗くて覇気がないとかいう意味じゃないけど、これは間違いなくメイさんの声じゃない。
俺は首を傾げながらも扉を開ける。
「いらっしゃいませ! 今日は何の御用でしょうか」
俺は思わず目を丸くした。
そこに居たのは一人の少女。
身長は一四〇センチくらいで、オレンジ色の髪をしたはつらつとした印象を持つ。
恐らく美少女と言って過言はないくらいには整った顔立ちをしている。
だが、俺が目を丸くした原因はそれではない。
別に女性プレイヤーでも鍛冶師を選ぶ人はいるし、メイさんも美女と呼べるほどの顔立ちはしている。
だが、考えてもみてほしい。
普通鍛冶屋に━━メイドはいるだろうか?
何を隠そう、俺の目の前の少女はメイド服を着ているのだ。
おかしいと思ったそこのあなた、あなたの感性は正常です。
以後もその感性を大事にしましょう。
おかしくないと思ったそこのあなた、あなたの感性は正常ではないようです。
今すぐ心療内科と精神科を受診することをオススメいたします。
━━なんて茶番が頭に浮かぶくらいには俺は混乱した。
「あのー……どうかしましたか?」
少女の声で俺は我に返った。
「あー、すまない。なんでもない。メイさんを呼んでくれないか?」
「メイさんですね! わかりました!」
元気な返事と共に、少女はパタパタと店の奥へと駆け出した。
半ば放心状態で待っていると、数分であの少女が戻ってきた。
「すみません、メイさん今作業中でして……少々お待ちいただけますか?」
「ああ、わかった」
俺は少女に差し出された椅子に腰掛ける。
特別話す話題も無く、鍛冶屋でメイド姿の少女とただ時間が過ぎるのを待つというわけのわからない時間を過ごした。
「お待たせー、どちら様で……ってアレンか」
体感で二〇分が過ぎた頃、身の丈ほどの大金槌を持ったメイさんが現れた。
オーバーオールに手袋、長靴といういかにも作業後の姿である。
「今回はなに? 防具が必要になった?」
「いや、そうではあるんですが……その前に一つ聞きたいことがあるんすけど」
「ん? どうした?」
「……そこの彼女はなんでメイド服着てるんすか?」
聞いていいものかと逡巡したが、これは聞かざるを得ないだろう。
この場でスルーできるほど俺のスルースキルは高くない。
もしや、何かしら重要な意味が━━
「私の趣味」
無いようです。
マジかよ、何のためらいもなく答えやがったぞこの人。
「え、この服、鍛冶師の正装だっていうのウソなんですか!?」
「当たり前でしょ。カリンが信じたとき、自分でもビックリしたよ」
困惑の声を上げるカリンと呼ばれた少女。
まあ、メイド服が鍛冶師の正装だなんて、馬鹿げた話を信じるほうがおかしいが。
その後もなんのかんのと抗議していたようだが、結局言い負かされたらしく、涙目で服装を変えていた。
ちなみに、彼女の本来の服装はメイさんと大差ないものだった。
「で、アレンは防具が欲しいんだっけ?」
明らかに話を逸らす為に話題を出すメイさん。
どうやらカリンの相手が面倒になったらしく、別の話題に切り替えたいらしい。
俺もこれ以上は面倒だと判断し、本題に入ることにした。
「そうっすね。とりあえず、全身の防具一式と外套、あと短剣を一本」
「は? なんで短剣の三本目がいんの?」
「いや、実はこんなの手に入れまして」
俺はインベントリから【黒月】を取り出し、メイさんに手渡す。
それを受け取ったメイさんは、少し眺めたかと思うと、大きく目を見開いた。
「え、まさか、これって━━」
「━━ユニークアイテム」
メイさんと横から覗き見ていたカリンが同時に驚愕の声を上げる。
「おっ、よくわかりましたね」
「【破壊不能】が付いてるのはユニークアイテムだけだからね。見たことはあるけど、かなりのレアものだし」
へぇ、そうだったのか。
まあ、スキルの付け方も知らないから、凄いのかもよくわからんけども。
「かなり攻撃的な性能だな。二刀流のためにこれと同時に使える短剣が欲しいってわけね」
「その通りです」
「ふぅん、じゃあ、いくらまで出せる?」
どこからか電卓を取り出して尋ねるメイさん。
やっぱ、こういうのは商売だし、避けられないよなぁ。
「今の手持ちが大体二〇万。稼ぐなら三〇万くらいは許容範囲ですね」
「足りないね」
「え゛、マジすか」
「性能にもよるけど、その短剣に見合うレベルなら、最低でも七〇は欲しい。まあ、一〇〇万は見といたほうがいいかな」
ウッソだろ、おい。
俺が提示した二〇万は黒鬼の報酬込みの金額だ。
それの五倍を稼ぐには、どう間違っても後一ヶ月は必要だ。
無茶にもほどがあるだろ。
「まあ、安くする方法もあるんだけど」
「それ先に言ってくださいよ……。で、なんすか?」
「簡単だよ。素材を自分で取ってくればいい」
なるほど、そうすれば素材の金額が減るってことか。
「そうしたらいくらになりますかね?」
「多分一〇万くらいかな?」
「是非お願いします」
俺は即答した。
だって、一〇分の一の金額になるんだもん。
これで頷かないのは、かなりの金持ちかよっぽどのバカだろ。
「じゃあ、素材は後で連絡するとして、デザインとか性能に注文はあるかな? 依頼人の要望は出来る限り叶えるよ」
うーむ、特に希望は無いんだがなぁ……。
強いて挙げるなら、出来るだけ目立たないデザインってくらいか?
「VITは度外視でSTRとAGIに補正が欲しいですね。デザインはお任せします」
「VIT要らないの? あって困ることは無いと思うけど」
「VITとHPにはほとんど振ってないんでね。弱点をカバーするくらいなら、長所を伸ばしたほうが強い」
メイさんはそれもそうか、と頷いた。
「オーケー、STRとAGI特化の全身防具、確かに承った。鍛冶師メイの名に掛けて最高の品を作ると約束しよう」
メイさんはニヤリと笑みを浮かべて立ち上がり、自身の胸を拳で打つ。
その顔は、前世で見たことのある、自らの腕に絶対的な自信を持つ職人の顔だった。
こういう人に返す言葉はたった一つで良い。
「よろしくお願いします」
俺は簡潔にその一言をメイさんに告げ、礼をしながら鍛冶屋をあとにした。




