第百十四話 クエストリザルト
最近閲覧数三〇〇〇を超えた日があってそれから時折アクセス数を見るようになったんですが、再び閲覧数が三〇〇〇を超えてる日がありました。しかも、二回。
おまけにそのどちらも投稿日やその翌日とかじゃないんですよね。
じゃあ、なんかのバグで集計される日が偏っているのかと思えば、その他の日は別に変わった様子はなし。
となると、純粋にここ一月ほどで見てくださる方が爆増したってことなんですよね。
いやー、有り難い限りです。ですが、一言だけ言わせてください。
……なぜ?
◇Side:リヒト◇
俺が剣を振るのに同期して溢れ出た光の奔流。
ガルプドープは拘束から解放されたものの、一瞬の硬直により、俺の攻撃から逃れることはできなかった。
『ジジジィィィイイイイイ!!!』
ガルプドープの口から絶叫にも似た異音が漏れる。
なんらかのスキルで強化したらしき肉体も灼熱の光によって焼かれていく。
徐々にその声も小さくなっていく。
やがて、それが消えた時、ガルプドープの身体も地に伏し……その巨体が全て光の塵となって消えていった。
[アンパラレルドモンスター『“岩呑膨虫”ガルプドープ』の討伐が確認されました]
[アンパラレルドモンスター『“岩呑膨虫”ガルプドープ』討伐貢献者一〇名にEXP及びSPを各一〇ポイントずつ贈呈します]
[続いて、最大討伐貢献者を選定]
[ギフテッド『リヒト』が選定されました]
[討伐報酬として伝説級超獣遺宝【呑喰の大皿】を贈呈します]
そして、脳内に流れたメッセージ。
それが意味するものは……ガルプドープの討伐達成である。
「〜〜〜ッシャァッ!!!」
俺は勝利を確信して雄叫びを上げた。
そんな俺につられたのか、スプルも声を上げる。
『ハハハ、やったなリヒト』
「おう!! お前のおかげでもあるんだぜスプル!!」
『そうか、それは嬉しいな。それはそれと、リヒトに言うことがある』
「あん? どした?」
『時間切れだ』
スプルがそう言った瞬間……ガクンッ、と急降下した。
何があったのかと下を見れば、スプルの姿が消えているのがわかった。
そして、さっきの『時間切れ』発言から考えてみれば……
「アイツ、勝手に戻りやがったな!!」
本来テイムモンスターは持ち主の召喚や帰還の文言がないとテイムジュエルを出入りすることはできない。
だが、アイツは超獣遺宝由来のテイムモンスター、さまざまな特権が存在し……その一つが召喚と帰還の任意起動。
今回は【人馬一体】の時間切れと同時に起動し、上空からの落下ダメージを受けないようにしたのだろう。
だが……それはそのまま俺が落下して地面と衝突するということだ。
「あんの野郎、いつかぶん殴ってやぶべぇ」
俺はスプルへの恨み言を吐きながら、なすすべなく地面に激突する。
クッソ、スプルめ……アイツのメシはしばらく一束二〇ゴールドで叩き売りされてる家畜用の干し草にしてやる。
「お疲れ、リヒト」
俺がモンスター用のエサを売ってる店を脳内でリストアップしていると、息も絶え絶えといった様子のハキルが俺のところへやってきた。
「おー、ハキル。無事?」
「落下の衝撃で目までおかしくなったのかしら?」
あんまりな言われようだが、さもありなん。
あのガルプドープの突進を真正面から受け止めただけあって、ハキルはボロボロだ。
鎧全体にヒビ、手に持ってる大盾も欠けてたりひしゃげてたりと、無事なところを探すのが難しいくらいだ。
それでもなんとか立っているのはタンクの意地といったところだろうか。
「それより、やることがあるでしょ」
ハキルはそう言って、俺の腕を引いて起き上がらせ、自分の肩に回して俺に立ったままの体勢をとらせた。
「……ハキル?」
「ほら、アンタの役目よ」
「あん?」
ハキルが指差した先にいたのは、アレンやユカを始めとした『栄光への旗印』の面々。
そして、俺の口元に拡声器に似た特性を持つ吼音石という岩石を近づける。
なるほど、そういうことね……いやしかし、どうにも気恥ずかしいな。
だが折角の機会、しっかり演じてやろうじゃねえか。
俺は聖剣を空へ向けて掲げて、渓谷中に響き渡らんばかりの大声で叫ぶ。
「この度偶然の開戦となったMPKギルド『エンド・キャリアー』、並びに偶然の邂逅を果たしたレイドボス“岩呑膨虫”ガルプドープの討伐!!! この勝負、俺達『栄光への旗印』の━━完全勝利だぁぁぁあああああ!!!」
『うおおおぉぉぉおおおおお!!!』
俺の勝利宣言につられて、全員が喜びの雄叫びを上げた。
◇NoSide◇
「どうやら向こうも決着がついたようですね。我々の勝利のようです」
「マジかぁ~……」
リヒトが勝どきの声を上げているとき、少し遠くからかすかに聞こえる喧騒と、【思念のイヤリング】越しに聞こえるハキルからの勝利報告を聞いて、ディールは顔を綻ばせた。
その横では、大の字で地面に転がっていたレイダーが呆れたような溜め息混じりの声を上げる。
そして、右手を動かそうとして斬り落とされたことを思い出し、左手で目元を覆った。
(無様だねぇ……彼らを邪魔しようとして惨敗。おまけに彼らは完全勝利。あとに残るのは敗北感と相手の成功への羨望……ああ、あの時と同じだ)
レイダーはかつてディールに……“処刑人”に斬殺された時のことを思い返す。
殺された瞬間に敗北感を感じることはなかった。
あまりにも唐突かつ圧倒的すぎて、最早事故や天災にでもあったようにしか感じられなかったからだ。
しかし、その後初心者狩りから手を引かざるをえなくなったことや、PK仲間の引退を受けて確かな敗北感を感じ……“処刑人”の鮮烈な強さにそれ以上の羨望を抱いた。
それ故に彼は己の強さを求めて研鑽し……やがて追いすがるのを諦めた。
それが、レイダーの歩んできた道程。
自身よりも強い者達へ白旗を上げ続けてきた、敗北の過去である。
「しっかし、みっともねぇ……勝とうとしたってのに『エンド・キャリアー』は全滅、妨害虚しくガルプドープは討伐され、おまけに俺は賭けにも負けた。三戦三敗とは情けねぇなぁ」
「おや、違いますよ。三戦二敗一分です」
「……はいぃ?」
レイダーが感傷に浸りながら今日までの過去を思い出していると、ディールが水を差すようにそう言った。
「私の賭けの内容は『互いに一撃を放ち、生きていたほうが勝ち』というものです。両者ともに生きているこの状況では引き分けですね」
「……いやぁ、ここまで格の差が見えてるんじゃあ俺の負けじゃ」
「いえ、引き分けです」
「いや、でも」
「引き分けです」
「……そうですかぁ」
頑として引き分けという結果を譲らないディールの言に、レイダーは諦めてその言葉を受け入れる。
しかし、自身の不利な結果を譲らないこともそうだが、ディールの言動がイマイチ察せず、レイダーは眉をひそめた。
「……まあ、それなら別に構いませんよぉ。俺に悪いことはありませんからねぇ」
「ええ、なのでここからは賭けに関係ない、私個人からの交渉です」
ディールはそう言って大地に倒れているレイダーと目を合わせ、
「レイダーさん、私の傘下になりませんか?」
「……はぁあ?」
レイダーは今日何度目かもわからない驚愕と呆れの混ざった声を上げた。
傘下、というのが何を指しているのかは理解している。
『アナザー』ではギルドが他のギルドの傘下に入ることがある。
システム上でそのような制度があるわけでないが、『こんな数のギルドを従えている』、『この有名なギルドが後ろ盾にある』と、両ギルドに箔をつけるためにやることが多い。
有名なギルドでは、攻略の最前線をひた走る『聖光十字師団』や、最大のPKギルドである『赫焉の城』などは既に十数のギルドを傘下に収めている。
「つうか、私の……って、“聖剣”のギルドじゃなくて、あなた個人の傘下ってことですかい?」
「その通りです。彼らの傘下にするのは私の独断では無理ですからね」
「……荒唐無稽にもほどがあるでしょうよぉ」
「そうでもないと思いますがね。現時点で使い勝手の良い小間使いは何十人かいますしね」
「個人の集まりとギルドはまた別問題ですよ」
しかし、当然レイダーが頷くことはない。
特定の個人を支持する者の集まりがギルドとなることはあれど、個人にギルドが属するなど前代未聞。
特に『エンド・キャリアー』はトップダウン方式ではなく、ギルドマスターであり作戦立案役のレイダーとその他のギルドメンバーは対等な位置にある。
ディールが無断でギルドの傘下加入を決められぬように、レイダーがここでギルド全ての指針を決めることもできないのだ。
「ならばあなた一人だけでも構いませんよ。というより、あなた以外の全てのメンバーを束にしたとしても、私はあなたが欲しい。悪い話ではないと思いますがね。上司は皆愉快ですし、腕の良い鍛冶師も紹介できます。戦闘の指導もしましょう」
「評価されてるのは嬉しいですがねぇ……話が抽象的すぎて明確なメリットがないのだから受ける意味がない」
「ええ。なので、明確なメリットを提示しましょう」
レイダーの疑問を予測していたかのように、ディールは即座にそう答えた。
レイダーは訝しげに顔を歪ませ、
「━━あなたに超獣遺宝を提供します」
━━今までよりも大きな驚愕に、目を見開いた。
「なあ……!? いや、有り得ない!! 超獣遺宝を始めとするユニークファクターは他者への譲渡も売却もできないはずだ!!」
レイダーは敬語や間延びした口調すら剥がれた荒げた声を上げる。
ディールはそれも予想通り、と言わんばかりに淡々と話を再開する。
「もちろん超獣遺宝をそのまま渡すことはできません。ゆえに、私が与えるのは情報です」
「……情報?」
「ええ。PKKをしていると、自然と耳が良くなりましてね。私は未討伐のレイドボスを七体知っています。その中の一体の情報をお渡しします」
「……………」
最早驚愕を通り越して呆然とするしかない。
にわかには信じがたい話だが、それをウソだと切り捨てるにはディールの力は大きすぎる。
ディールの手招きに従ってその下へ降るのが最善だと、彼にも理解できていたが……それでも問わずにはいられなかった
「なんで、そこまでして俺を引き入れようとするんですぅ? あなたほどの人ならそこらから人材を集めるのも容易でしょうに」
「それはいくつか理由がありますが、今はまだ話せません。言いふらすような方とは思っていませんが、広まると少々困りますのでね」
ディールはそう言って倒れているレイダーに右手を差し出した。
「私の提案に乗るならこの手を取ってください。連絡手段もないですし、今この場で決めていただきたい。もちろん断っても我々に悪意を持って敵対しない限り、あなたに不都合は起こさないことを約束しましょう」
「……………」
ディールの言葉に対し、レイダーは思案する。
ディールによって提示されたものも含め、彼の前にある道は二つ。
一つはディールの話に乗らず、今まで通りにMPKギルドとして活動する道。
不変であり安寧、されどかつて彼が目指した頂上達に追いすがる望みは断たれる。
もう一つはディールの手を取り、研鑽を積み続ける道。
己のやることは大きく変化する上になにかと制限される可能性もあるが、彼の望んでいた頂上達へ手を届かせられる可能性が生まれる。
彼の脳内で安寧と強さ、どちらを求める気持ちが大きいかを天秤にかけ……選択した。
「受け入れましょう」
レイダーはそう言いながら立ち上がり、真正面からディールの目を見つめ返す。
「ギルドメンバーの全てが反対したとしても……俺はあなたのもとに降りましょう」
そうして、レイダーはかつての怨敵のもとで強さを求める道を選択した。
自身の選んだ道が、頂上達の強さへ近づくものだと信じて。
「……? 私は手を取ってほしかったのですが」
しかし、ディールは首を傾げる。
それを見て、レイダーは苦笑しながら左手で彼の右手側……今はない右腕の位置の空を掻く。
「この通り、今は取れないもんでねぇ」
ディールはその姿を見てようやく得心がいったように頷き、右手を引っ込めて左手を差し出した。
レイダーはその手を取りながら、『愉快な上司達ってこの人も含めてか?』とディールへの認識を改めた。
これにて暗夜渓谷編、ようやく閉幕となりました。
というわけで、明日にでも三周年記念番外編を……と行きたいところですが、また一週間後に投稿したいと思います。
理由はこの話以降の内容を一ミリも考えてないからです。ネタだけはあるんですが、まだ書き始めてすらいないのでもう少し時間がほしい……まあ、有り体に言えば時間稼ぎです。
ここまで待ってくださっている方には申し訳ないのですが、もう少しだけお待ち下さい。




