第百十話 希望を繋ぐ者達
ガバガバ進行ゆえに二週間で間に合うかわからなくなってきましたが、私は元気です(白目)
二週間後になっても記念番外編が出てなかったら「ああ、コイツはまた間に合わなかったんだな」と生暖かい目で見守ってくださると幸いです。
◇NoSide◇
地中に潜ったガルプドープが頭部を出した時、再び空中を走る二人の人間を狙おうとしたが、その人間を見失った。
横たえたガルプドープの身体を攻撃している者は複数いるが、その中に飛んでいた者達は見当たらない。
どこに行ったかと頭部を振って空中を見回し……その者達ではないが、空にいる人間を見つけた。
空を走っていた人間ではなく、空を馬で駆る人間。
白と黄金の鎧を纏う騎士のような風体の人間と、同じような黄金のラインの入った黒い馬。
それが空を走りながら、空中で円を描くように走っている。
何者であろうと喰らう、とガルプドープがそれを狙って牙を剥こうとした時、馬に乗っている人間の姿が消え、
━━ガルプドープの身体が斬り裂かれた。
『……ジィィ?』
ガルプドープは最初、何が起きたのか理解できなかった。
しかし、その直後に斬られた己の身体を見て━━『超高速で飛来し、すれ違いざまに斬った』のだと察し……同時に『ありえない』とも感じた。
自分が忌み嫌うスキルを使ってまで強化したAGIですら見切れない速度と強化したVITを貫く攻撃力を併せ持つなど、信じられなかったから。
しかし、起きたことは紛れもない事実。
その超高速で移動した騎士が消えた先に頭部を向け、その先で先程と同じように空中を旋回する騎士の姿を見た。
「おーおー、ちゃんと攻撃すりゃヘイト稼げんだな。技巧はあっても頭の出来は虫か」
その騎士……リヒトはニヤリと笑い、
「刻んでやるよ、クソミミズ!!」
内心の焦燥を押し殺しながら、ガルプドープへ啖呵を切った。
◇ ◇ ◇
お互いに切り札を切った状態での戦闘。
その言葉だけを聞き、ここがゲームであるという前提が頭にあれば、強力な攻撃を浴びせ合う派手な戦闘をイメージするかもしれない。
確かに傍目から見れば、天を翔ける騎士と全長一〇〇メートルを超える怪物のぶつかり合いとはなかなか迫力のある派手な戦闘と言えるかもしれない。
しかし、その当事者……少なくとも、完全に不利な条件下にあるリヒトにとってはそうは思えないだろう。
それを語るには、まずお互いの切り札について語らねばならない。
ガルプドープのスキルの名は【スターヴ・ドープ】。
その能力は『蓄積したリソースを消費したステータス強化』。
ガルプドープのもととなったストーン・イーターの種族特性を表すスキル【ガルプ・チャージ】は喰らったもののリソースの一部を自身に蓄え、そのリソース量に応じて身体を膨張させる。
それによって蓄えたリソースを消費してステータスを強化する、ガルプドープに最も適合したスキルと言えるが……ガルプドープはそのスキルを忌み嫌っていた。
なぜならそのスキルは、ガルプドープの生き方の全否定だからだ。
ガルプドープは食欲のままに生きてきた生物。
喰らい続け、成長し続けることそのものが、ガルプドープの存在意義。
そもそもガルプドープ……その前のガルプワームがアンパラレルドモンスターとなったのも『種族の歴史上前例の無い大きさまで成長した』からである。
ゆえに、蓄えたリソースを捨てることというのは、今まで積み重ねてきた全てを捨てるということ。
正しく、今までの生き方の否定である。
それゆえに、ガルプドープはそのスキルを忌み嫌い、今の今までそれを使うこともなかった。
しかし、それを使わなければ死ぬかもしれないという状況。
ほとんど蹂躙しかしてこなかった戦闘経験の少なさもあり、思いがけない苦戦とHPの減少に焦り、そのスキルを切ることに決めたのだった。
対して、リヒトの使用したスキルの名は【人馬一体】。
リヒトの持つ伝承級超獣遺宝【天翔黒馬の封獣晶】の召喚獣『“天翔黒馬”スレイプニル』の持つスキル。
【天翔黒馬の封獣晶】は極めて特殊な超獣遺宝。
そもそも召喚スキルを持つ超獣遺宝が希少であり、アンパラレルドモンスターがそのまま召喚獣となることなど前例がない。
しかし、強力なスキルとステータスを持つアンパラレルドモンスターがそのまま召喚できるはずもない。
そのため、召喚獣であるスレイプニルもまた、特殊なスキルと性質を持っていた。
特殊な性質とは『成長性』。
通常、召喚スキルによって召喚されるモンスターは成長することがない。
召喚スキルを進化することはあれど、同一のスキルで召喚されるモンスターが変化することはない。
しかし、スレイプニルはテイムされたモンスターのように経験値によって成長することが可能である。
成長を続ければ、やがて本来のスレイプニルに届く……いや、超える可能性すらある。
だが、それは未来の可能性の話であり、現在のスレイプニルはアンパラレルドモンスターであった頃のスレイプニルには遠く及ばない。
その代替として与えられたのがスレイプニルのもう一つの特殊性。
そのスキルこそが【人馬一体】。
スレイプニルの持ち主……リヒトとスレイプニルのステータスを合算し、そこから倍化させるスキル。
最上位のプレイヤーとして鍛え上げられたリヒトと、本来の力には届かないまでもそこらのモンスターを優に上回るステータスを誇るスレイプニル。
それを合算させた上で倍化させるのだから、規格外のステータスとなるのは想像に難くない。
さらに、スレイプニルのアンパラレルドモンスターとしての固有スキルである、空中歩行と加速能力を備えた【天翔脚】も使用可能となる。
ステータスとスキルの両面で、かつてのスレイプニルに届かせるためのスキル。
しかし、当然ながらその破格の性能故に、複数の制限が存在する。
発動時間はたったの五分のみであり、再使用には七二時間という非常に長いクールタイムを必要とする。
お互いのステータスをリンクさせる都合上HPやMPまで共有化されるため、消耗も激しい。
おまけに、スキルの効果によってAGIが上昇するため、リヒトのAGIによる動体視力強化程度ではその速度を扱いきれない。
複数の制限や仕様上の問題などもあれど、リヒトはこのスキルを使用した。
それは、ガルプドープに対抗できる手段がそれしかないというのも間違いないが……それ以上にあったのは『栄光への旗印』のギルドマスターとして、ランクマッチ上位ランカーとしての矜持。
絶対にガルプドープを討伐するという━━強さへの矜持。
本能と矜持、形容する言葉は違えど、感情の大きさは互いに引けを取らぬ両者は、切り札を切り合う最終局面とでも言うべき戦闘を行う。
しかし、前に述べた通り、この戦いはリヒトの不利な条件下にある。
蓄えたリソース量という限界こそあれど、長年の蓄積によりほぼ無制限と言って良いガルプドープに対し、五分という明確な終わりのあるリヒトのスキル。
どちらが先に力尽きるかなど、言うまでもない。
そう、この戦いは互いが勝利を掴み取るために死力を尽くすものではない。
スキルが切れるか、その前に命を削り切るか。
数分後に訪れる目に見えた結果を待つだけの……極めて短い持久戦だった。
◇Side︰アレン◇
「なるほど、それがリヒトの切り札か……」
俺は着地の瞬間を狙われるのを避けるため、ユカを背負ったまま少し大回りをして、ガルプドープから離れた場所に降り立った。
その間、リヒトの切り札に関して心当たりがあるというユカに詳細を聞いていた。
「時間は五分……いや、もう四分半か。短過ぎるな」
ステータスの超強化に空中機動とあまりに破格なスキルだが、やはり気になるのは五分という短いタイムリミット。
ステータスは上がり、ガルプドープを圧倒しているが、このまま押し切れるほどではない。
スキルが切れればリヒトはそのまま殺され、俺達も潰される。
だから、そうなる前にリヒトの最高火力を叩き込まなければならない。
それも適当な場所じゃダメだ、頭部を吹き飛ばすか身体の大半を消し飛ばすような場所に当てないといけない。
それをするためのお膳立てが俺達の役目なわけだ。
「そういうわけなんですけど、なんとかなりませんかリズさん」
『君達は私のことを作戦を立てる機械か何かだと思ってないかい?』
そんなこと思ってませんよ、相手の嫌がる策を練らせたら右に出る者はいない悪魔の類だとは思ってますけど。
ユカが説明を始めたときからリヒト以外の全員と通話を繋げておいた。
情報共有とこの後の作戦を練るためだが、やはりこの手で一番頼りになるのはリズさんなのだ。
『すまないが、流石の私でもこれを止める手段は無いし、作戦もあまりに無謀だ』
「ちなみにその作戦は?」
『ガルプドープを引き付け、地面に這わせるかたちにして出来る限り頭部含めて真っ直ぐの状態で固定する。止まった状態を数秒固定することなら私の魔法で可能かもしれないが、ガルプドープが動き続けている以上、極めて難しいだろう』
いや、そりゃ無理だろうよ。
手段は問わないとしても、こんなのを止めるなんてどうしたいいものか……
『なら、私にやらせてください』
そう考えていた時、名乗り出たのはハキルだった。
『私が、ガルプドープを止めます』
ハキルの声は少し緊張感を帯びているような硬い声色だが、確かな意志が感じられた。
それを感じ取ったのか、リズさんも真剣な声音で問いかけた。
『できるのかハキル?』
『わかりません。でも、リズさんやユカの魔法で止められないなら物理的に止めるしかない。そして、それをできる可能性が一番高いのは私です』
『確かにそれはそうだが……』
『それに……』
ほんの少しの息を呑む音が聞こえた後、
『━━アイツが命を賭けているなら、私も命を賭けていたい』
決して退かぬという強い覚悟の籠もったその言葉に、俺達は押し黙ることしかできなかった。
リヒトの横に、隣に、誰よりもそばに。
リヒトとともにありたい……いや、ともにあるという決意と覚悟。
結局、ハキルの原動力というのはそれだけなのだ。
『……はあ、わかったよ。そこまで言うなら君に任せる』
『ありがとうございます』
ほんの少しの間を開けて、リズさんが呆れたようなため息を吐きながら許可を出した。
「それで、ハキルが止めるとしても俺達はどうします?」
『こうなったら私も覚悟を決めるよ。もう安定は求めない。どんな手を使ってでもガルプドープを押し留める』
ハキルに当てられたのか、いつものリズさんなら言わないようなことを言い出した。
良くも悪くも、リズさんも腹をくくったらしい。
『総員に伝達! レンくんはリヒトに追いついてこの作戦を伝えろ! 概要のみで構わない! ハキルは渓谷最奥で待機! ガルプドープの攻撃に備えろ! その他はハキルの援護または止めた後の拘束! 細かい指示は出さない! 各々の考えに任せる!』
リズさんが【思念のイヤリング】を介して鋭く指示を飛ばす。
色々と言ってはいるが、まとめるならこの二言。
━━なんとしてでもガルプドープを止めろ。
━━どうにかしてリヒトにバトンを繋げ。
『さあ行くぞ皆━━総力戦だ!』
その言葉を聞き終え、俺達は一斉に行動を開始した。
Q.結局ハキルってどんな奴なの?
A.覚悟ガンギマリ女。
登場人物で『他者に抱く感情の重さランキング』を作ったら、私のストックにあるキャラを含めても、間違いなく五指には入るほどの激重感情の持ち主。




