第百一話 暇時ティータイム(回避不可能突発性イベントあり)
暑さ以上にセミが五月蝿すぎてキレそうになってるって話を友人としたところ、友人の一人が言った「七年土の中にいて一週間しか地上にいれないんだったらそりゃ恋愛するよな」って発言で少しだけ許せるような気がしたけど、気がしただけだった。
フェイタリアとの死闘を終えた次の日。
俺はメイさんの鍛冶場でだらけていた。
「……いや、あんたは何してんの? 暇なの?」
「まあ、暇っすね。やることがないもんで」
ユニークシナリオ攻略なんて大仕事の後なんだから多少許してほしい。
まあ、メイさんにはそれを言ってないのでただだらけているだけに見えるだろう。
だが、そこまで追及されていないのは……ここにいるのが俺だけではないからだ。
「メイさーん、あの見た目ヤベーお茶どこすか?」
「知らないのに勝手にイジったら面倒なことになるわよ。ここであってますよね?」
「あ、ここにお茶請けあったよ! これ食べていいかな!?」
「待て、一応それは来客用だろう。人数分だけとって私達の持ってる分から補充しておこう」
「このお茶見た目あれだけど美味いよな。少し茶葉分けてもらえねえかな」
「まあ、ここに来たら飲めるしいいんじゃね?」
「いや、私の店なんだからダメに決まってるでしょ」
あ、やっぱりダメか。
今ここには『栄光への旗印』初期メン全員が揃っている。
なんでかって言われれば、俺達が集まる場所が特に無いからだ。
大体は『エデンの園』かグランギルドの受付スペースにでも集まるのだが、特に用件もないのに長々と居座るわけにもいかないし、飲み物を頼むにも金がいる。
なので、ここで見た目劇物薬草茶とお茶菓子を嗜みながら休憩しているというわけだ。
「だから、私の店だって言ってるでしょ。こっちだって仕事しなきゃいけないんだよ」
「でも、ここに来客なんて来ますか?」
「ちゃんと来るよ……二週間に一回くらいは」
……うん、聞いたの俺だけどなんか申し訳なくなってくるわ。
「だが、確かに拠点問題は解決するべきだな。いつまでもメイさんの店に上がり込むわけにもいくまい」
おや、リズさんから思いの外まともな意見が。
この人のことだから『利用できるんだから隅から隅まで使い尽くそう』とか言うかと思ったのだが。
「君は私をなんだと思ってるんだ?」
「え、一つ叶えたら一〇〇持っていくタイプの悪魔」
「ハハハ、まだまだ君も認識が甘いな。私は一つ叶える前に一〇〇搾り取るよ」
より悪質じゃねえか。
悪魔っていうか悪神のたぐいだろこの人。
「つっても、どこで集まるんだ? 俺が第三層に買ってる家でいいかな?」
「あんな木片の集合体みたいなのに全員入らないでしょ。集まるのは無理がある……というか、下手したら壊れるんじゃない?」
「適当な一軒家を買って集会所代わりのはどうだ? 俺達のギルドは十一人、集まるだけならそれで十分だろ」
「でも、それだったら今とそんなに変わんないじゃん? どうせなら皆そこで過ごせるくらいの広さと部屋は欲しくない?」
「しっかし、それだととんでもねえ金額になるぞ。お前ら今の所持金どんなもんだ?」
タイガの言葉に俺達はそれぞれ自身の所持金を確認する。
俺達の所持金は……
俺:二六八万ゴールド+素材少し
リヒト:二万ゴールド+素材たくさん
ハキル:二三万ゴールド+素材少し
ユカ:七一万ゴールド
リズさん:四九万ゴールド+素材少し
タイガ:一二六万ゴールド
占めて五四一万ゴールド。
素材次第だが、それを売ればあと一〇〇万ゴールドくらいなら上乗せできるかもしれない。
だが……
「これ足りるか?」
「俺バカだからよくわかんねえけどよお……バカだからわかんねえや」
「まず間違いなく足りないだろうね」
うん、知ってた。
「つうか、リヒトはなんでこんだけしか持ってねえんだ。素材はやたら多いけどよ」
「いやー、ちょーっと散財しちゃって。レベリング兼金策として砂漠でムカデボコってた」
「計画性の無さは相変わらずね」
「何にどれだけお金を使うかってのはちゃんと決めるべきだよねー」
「ユカは人に言えたものじゃないでしょうが」
「てか、俺はやたら現金持ってるアレンとタイガのほうがきになるんだけど?」
「俺は昨日クエストで懸賞金が手に入ったから……」
「俺は闘技場のあれこれでな」
「あれこれってなんだよ」
「……まあ、なんだ……色々あったんだよ」
お前、一体何をしたんだ? と聞きたくなったが、なんとなく嫌な予感がしたので聞かないことにした。
いや、タイガのことだから悪いことはしてない……というか、悪いことをしたやつをボコってるくらいのことは……あ、そういう感じ?
「うーん、まあ、仕方ないか」
俺達の話を聞いてメイさんが立ち上がり、
「拠点買うか。カリン、コレダールに連絡して。あと、ディールさん達も呼んで」
「わかりました!」
『え?』
とんでもない言葉に面食らう俺達を差し置いて、カリンがなんらかの準備を始めていた。
◇ ◇ ◇
「なるほど、それで私達も呼ばれたと」
「まあ、そんなところですね」
数時間後、メイさんに呼ばれたディールとその三人の弟子がやってきた。
メイさんが言った『拠点を買う』という発言。
なんとも軽いノリで言われた言葉だが、それを言った本人は至極真面目に言っていたらしい。
事実、「拠点に欲しいものがあったら言っといてね」と言われたので、メイさんはガチなんだろう。
そんなわけで始まったギルド拠点要望提案会議。
司会はできるのかは知らないが一応ギルドマスターなのでということで挙げられたリヒト、書記はギルドの書類を出す時に近くにいたからという理由でサブマスターにされたハキルだ。
唐突かつ適当に始まったものなのでそれ以外の役職はない。
まあ、これについて長々と話しても意味ないのでまずは各メンバーから出てきた要望がこちら。
俺:全員が集まれるだけの広さのある部屋
リヒト:プール
ハキル:個室、キッチン
ユカ:個室、モンスターを放せる場所
リズさん:個室、書斎
タイガ:闘技場ほどの広さの修練場
ディールさん:修練場(中庭でも可)
リラ:個室、お風呂
カエデ:大太刀を振るえる稽古場
セレン:個室、風呂場
まあ、大体は予想できる範疇ではある。
わりと被ってる要望もあるし、数はそこまででもない。
これくらいなら問題ないと思いたい。
一応メイさんにこの提案を見せたところ、ついてる物件がほぼないからという至極もっともな理由で却下されたプール以外は問題ないと言われた。
「結構無茶な要望言ってる自覚ありますけど、ホントに大丈夫ですか?」
「んー、でも欲しい理由は明確だし、どれも必要ではあるしね。というか、私の要望が一番無茶だしある程度は許容するよ」
「ちなみにメイさんの要望は?」
「鍛冶作業できる工房」
それはプール以上に無理があるのでは?
俺がそう考えていると、カランカランという音とともに鍛冶屋の扉が開けられた。
そして、そこにいたのはスーツもどきみたいな服を着たアルカイックスマイルの男がいる。
「毎度どうも、コレダールでございます! メイさんはどちらに?」
「ここにいるよ」
「おや、これは失礼。予想外の人口密度のせいで見えませんでして」
「別にいいよ。パッパと決めよう」
「はいはい、それでは早速参りましょうか」
さっきの男……メイさんにコレダールと呼ばれた男はメイさんに促されるままに席につくと、手に持っていたカバンから大量の書類を机の上に並べる。
この商談では俺達はあまり口を出さない方針だ。
一応ギルドマスター主導にするということでリヒトはメイさんの指示のもとで話すが、あまり多くははなさないように言われている。
メイさんはこのコレダールという男を『下手を打てば必要の三倍以上の商品を買わされる羽目になる』と評している。
俺達のような商談の素人ではとことん搾り取られる可能性があるということらしい。
ちなみに、それを聞いた時リズさんは「三倍なんて甘い。私なら十倍以上の金を搾り取ってみせる」と豪語していた。悪魔の意見は聞いていない。
さて、それはさておき、メイさんとコレダールとの交渉が始まる。
「本日はギルド拠点用の物件をお探しだとか。この人数、それもかの『聖剣』が率いるものとくればそれ相応の拠点が必要だと思いますが?」
「あんたの交渉は必要以上のものを買わせようとするからやだよ。条件は既にこっちで決めてるからそれを基準に探して」
「おやおや、これは手厳しい。もっとも否定はしませんが。私としても大口の取引は有り難い限りですからねえ」
メイさんがコレダールの発言をばっさりと切り捨てる。
それに対して、コレダールは予想通りとでも言うように机の資料を仕舞った。
「それで、既に決めた条件とは?」
「リヒト、さっき決めたやつ話して」
「うぃっす」
リヒトがメイさんの言われた通りに先程決めた条件を話す。
未練があったのか、リヒトがプールについても話そうとした時はハキルが黙らせたが、それ以外は特に問題はなかった。
それを聞いたコレダールは口元の笑みはそのままに、少しだけ眉根を寄せた。
「まあ、常識的な範囲ではありますが、そのすべてを叶えるとなると少々難しくはありますよ。私どもの手持ちの物件にもあるにはありますが……土地を買って一から建てたほうが良いかと。その仲介もこちらで担いますが?」
「いや、ある程度の金はあるから今あるものから見つけてほしい。建てるのは時間が掛かり過ぎる」
「なるほど、そういうことでしたらこちらで探しましょう。しかし、そのような物件というものは物件そのものが持ち主に何かしら問題があるものですが……即金でいくらまでなら出せます?」
「とりあえず今ある現金が大体四〇億。素材と在庫を軒並み売り払えばその三倍くらいは用意できるかな」
「ああ、それなら問題ないですね。私の知っている物件に一〇〇億を超えるものはありませんから」
メイさんの口から飛び出したとんでもない金額に驚く間もなく、コレダールは淡々と交渉を続ける。
その後二〇分ほどコレダールは最低限の交渉を終わらせてから「それでは手持ちの物件を精査しますので私はこの辺で」と言って、鍛冶屋をあとにした。
「……なんか思ったよりすんなり終わったな」
「メイさん、あの人そんなにヤベー人には見えなかったけど?」
「アイツは搾り取る手管はヤバいけど、しつこくはないからね。これ以上の金が取れないとわかったなら手早く撤退するのがアイツのやり方だよ」
ああ、一人に時間を掛けてじっくりと破綻させるタイプじゃなくて、多くの人間に手を掛けて搾り取れそうなやつからたっぷり搾り取るタイプか。
どっちも厄介なやつだが、一度振り払えば去っていくだけまだマシだな。
「でも、何十億も出すのは骨が折れるわね。一旦はメイさんに出してもらうとしても、それなりの時間が掛かるわ」
「え? 私が全部出す予定だったんだけど……」
『それはダメです』
メイさんの言葉に全員の声が揃う。
メイさんが一番金を持っているとしてもギルドメンバー全員で使う拠点だ、全員が分割して払わなければならない。
「それなら……あ、そうだ。カリン、在庫の帳簿持ってきて」
「はい!」
メイさんの指示のもと、カリンが店の奥から麻紐を通して束ねている書類を持ってきた。
メイさんはそれを受け取ってパラパラと捲りながら近くの紙片に何かしらをメモしている。
「そんじゃ、これね。今手元にない素材が書いてあるからできるだけ取って来て。それを私への借金の返済ってことにするから」
なるほど、一旦はメイさんが立て替えて俺達の借金扱いとすると。
まあ、それくらいが妥当なところだろう。
「でも、これで足ります?」
「足りないから何度か依頼はするよ。それは第一弾ってことで」
「よっしゃ! そんなら早速行こうぜ! 皆でやりゃどうとでもなるぜ!」
そして、リヒトの脳天気な一言でこれから素材の採取に行くことが決まった。
いきなり決まったクエストだが、ディールさん達と依頼をするのも楽しみだし、メイさんのためにも頑張るとするか。
来週はテストがわんさかあるので多分更新ないです。ごめんなさい。