鬼灯
ホオズキの花が咲き始め、だんだんと暑くなってくる、初夏。
「早くいこうよ」
ふたばは私を急かすように言った。
「その前にさ、少しだけ話そ?」
さっさといこうとするふたばの腕を掴んで、一歩踏み出すのをなんとか防ぐ。
危ない。もう話せなくなるとこだった。
「えー、なんで?あっちにいったらいっぱい話せるよ」
ふたばは口を尖らせる。
子供っぽいその仕草は、高校生とは思えないほど愛らしく、幼い。ふたばは待てないとでも言うみたいに、私の裾をぐいぐいと引っ張る。
「……もしかしたら、もう話せなくなるかもしれないでしょ?」
もうふたばと話せなくなるのは、少しだけ、寂しいから。
(まぁ、寂しいも何も、それ以前の問題なんだろうけど。)
ふたばはピタリと動きを止めて、じっと私を見つめる。
そして、ふぅ、と諦めたように息をつくと、「しょーがないなぁ」と笑った。
思わず頬が緩む。
「ありがとう」
緊張していたからだろうか、それとも暑いから?どちらかは分からないけれど、いつの間にか汗をかいていたのに気づいて、私は額の汗を拭った。
ふたばは優しい。だから私は、ふたばに甘えてしまうのかもしれない。
ふたばの腕をそっと放して、私は後ろに寄りかかった。
ふたばはそれを見届けてから、ふいに口を開かせる。
「なぁんかさ、みんな、変わっちゃったよね。」
「そうだね」
「私たちだけだよ。変わってないのは。」
「……そうだね」
ふたばは私の顔を覗き込むようにして、えへへと笑う。
「まぁ、私は君が居てくれればじゅーぶんなんだけどさ!」
――言えない。
この、どこまでも純粋な子に、私はいきたくないだなんて。
「ね」
「……」
「もー、さっきから話してるの私だけじゃん。……そろそろ、いこっか」
言えるはずない。だって、嫌われたくないもの。
“私”を偽って、“良い友達”を演じている。
慣れた笑顔を顔に貼り付けて、私はふたばと手を繋いだ。
さぁっと、夏の蒸し暑いジメジメとした風が頬を撫でて空へ舞う。
「幸せだなぁ」
にこりと笑顔を見せるふたばの手を握りしめながら、その一言を最後に、私の世界はぐるりと反転した。
上から強風が降る。空が落ちる。
嗚呼、私は駄目だな、なんて。
大切な友達を救えないような私じゃ、地面もすり抜けちゃうかな、なんて。
ねぇふたば。私はふたばと居ることが出来るならそれでいいんだ。誰がなんと言おうと私はふたばが大好きだから。私にとって1番の友達だから。ふたばのことを止めることが出来なかった私をどうか許して。“私”を偽って、一緒にいってしまう私を許して。嗚呼、今日がこんな天気の良い日になるなんて。まるで空までこんな私を嘲笑っているみたい。あれ?でもなんだか頬が冷たいな。雨が降ってるのかな。
――あぁ、そっか。これは雨じゃなくて私の
ぐしゃ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今回の作品は、ちょちょいと暇つぶしに書いた物なのですが、とても後味の悪い作品となりました。
この作品は、「いく」や、「いった」を平仮名で表しています。「行った」とは表記しておりません。
感じ方は人それぞれ、そこのあなたの想像力に託します。
こんな作品を書いたのは、その日が初めてでしたので、上手く書けたかよく分かりません。
ですが、皆さんが「うっわ、なにこれ」と言ってくれるような作品になっていましたら嬉しい限りです。(え?)
ところで、小説の序盤に登場したホオズキ(鬼灯)
の花言葉をご存じですか?赤いちょうちんをぶら下げたような姿が愛らしい花ですよね。
そんな可愛らしい見た目のホオズキの花言葉、
それは─
“偽り”。“ごまかし”。
これからもどうか、わたくし、ウツギ。を
よろしくお願いいたします。