完全防御
杖を持った魔物はローブのようなものを着ていた。素顔はフード被っていてよく見えなかった。
吹き荒れる吹雪をものともせず、リーヴィアは敵に向かってただひたすら走り続けていた。
しばらくすると魔物の放つ吹雪の威力が弱まり始めた。
「気をつけてリーヴィア!敵は今強力な魔法の詠唱をおこなっているわ!」
「必殺技が来るってことだよね!」
「ええ!」
魔物は詠唱をしながら杖の持っていない右手をリーヴィアの方へ向けた。
「来るわ!リーヴィア!構えて!」
魔物が詠唱を終えると、周囲にまるで爆発が起きたようなブリザードが発生した。しばらく長い間白い霧が発生していた。
霧がまだ晴れそうにもない頃、一人の足音が聞こえてきた。霧が晴れた後魔物は周囲を見渡していた。
自分の前方5メートル程先に以前問題ない調子でこちらに向かって走ってくるリーヴィアを見つけた。
「すごいよ!エルザ!予想通り、ぜーんぜん寒くないよっ!」
〜数十分前〜
「大まかな流れとしては、毛皮のフードを被ったリーヴィアが前線で戦って、私が後方支援に徹するって感じね。」
「私、戦闘経験とか全然ないし、体力に自信がないんだけど大丈夫かな...。」
「安心して、毛皮のフードだけでも防御面は十分だけど、更に完璧の状態にするために私の魔法を使うわ。」
エルザはアナライズを使う時とはまた別の魔導書を取り出した。
「アイスウォール!」
エルザがそう魔法を唱えると周囲に氷の壁がそびえ立った。
「氷の壁を発生させ、氷魔法の威力を弱める魔法よ。継続的に詠唱しなきゃいけないけど相手の魔力を吸収することができるから、最初以外、魔力をほとんど消費しないわ。」
エルザは話を続けた。
「アイスウォールを使うと初期段階は20%ほど、相手の魔力吸収して完全な状態になると大体50%程度の氷耐性がつくわ。」
「じゃあエルザの魔法と毛皮のフードを合わせれば...。」
「ええ、氷耐性100%、どんな氷魔法でも完全防御できるわ。そしてそれは氷の塔の管理者の氷魔法もその例外ではないわ。」
エルザは説明を続ける。
「そして管理者は氷魔法以外の攻撃方法を持っていないっていう話を過去の冒険者から聞いたわ。物理攻撃の心配は無い。そうなれば後は近づいて叩くだけよ。」
〜現在〜
近づいてくるリーヴィアを恐れたのか、管理者は再び大規模な氷魔法を大急ぎで詠唱していた。そして構えた。
「詠唱が不完全な状態だわ。でもそれなりに威力はでそうね。」
氷の塔管理者は魔法を放った。リーヴィアへの方ではなく、エルザの方へ。
「...ッ!しまった...!」
地面がめくり上がり、爆音が鳴り響く。
「エルザッ!」
リーヴィアがエルザの元へ戻ろうとする。
「大丈夫。アイスウォールでだいぶ威力を抑えたから...。」
幸い距離が遠く、不完全な魔法だったため大した威力にはならなかった。
「それよりもリーヴィア気をつけて!リーヴィアのアイスウォールが解除されたから...今の衝撃で...だからもうダメージが...」
エルザが言い終わる前に管理者がリーヴィアに氷魔法を放った。
「...ッ、リーヴィアッ!」
リーヴィアは攻撃が当たる前にとっさに炎の剣を振り、自分の目の前に炎の壁を作った。氷魔法の威力はたちまち弱まった。
「名づけて、秘技、ファイアーウォール!なんちゃって...」
管理者は立て続けに氷魔法を放とうとするが、十分に剣の間合いに入ったリーヴィアの一振りの方が速かった。
炎の剣で切り刻まれた氷の塔管理者はよたよたと千鳥足となり、少しの時間たった後、消え去った。
リーヴィアはエルザの元へ向かった。
「やった!とうとうやっつけたよ〜!!」
「ええ!やったわね!!」
二人は互いに体を抱き合い、大いに喜んだ。
喜びを十分に噛み締めた後、エルザは氷の管理者が落としたローブを見つめて言った。
「生命を守る魔力 HPを失った魔物は魔界へ帰る...。学院て習った通りね。」
エルザは独り言のように呟いた。
ローブを見つめていたリーヴィアが何かを発見した。
「ねぇ、エルザ。あの光ってる物は何だろう?」
二人はローブに近づいた。光っていた物を手に取り、確認するとそれはどこかで使える鍵だった。
「これ...どこの鍵だろう?」
「少し前に見た宝物庫らしき部屋の扉の鍵なんじゃない?」
「ああ~、確かにそうかもしれないね。」
「ええ、この塔の管理者なんだからそれくらい持っててもおかしくないもの。」
「じゃあちょっと休んでから戻ってみよっか!」
「ええ、そうしましょう。」
二人は少し休んだ後、宝物庫らしき扉があった場所へ向かった。
目的の場所に着いた二人は早速鍵を試した。
「エルザ...開きそう?」
「ええ、ぴったりハマっている感じがするわ。
じゃあ、解錠するわね。」
「うん、お願い!」
固く閉ざされていた扉が開いた。二人は中へ入っていった。